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横浜流星、“盟友”藤井道人監督とだからこそ作り上げられた濃密な撮影空間 映画『正体』現場レポート

クランクイン! / 2024年8月31日 12時0分

映画『正体』メイキング写真

 『余命10年』や『青春18×2 君へと続く道』など話題作を次々と手がけている藤井道人監督が、横浜流星を主演に迎えて逃亡サスペンス・エンタテインメント『正体』を世に放つ。藤井監督と横浜は、お互いに仕事に恵まれない頃からの盟友で、切磋琢磨しながら高みを目指してきた間柄。横浜が5つの顔を持つ指名手配犯を演じる本作について、藤井監督は「横浜流星のすべてを見ることができる映画」と自信をのぞかせる。クランクイン!では、本作の撮影現場に潜入。2人が信頼を寄せ合いながら撮影に臨む姿と共に、横浜が山田孝之や森本慎太郎と対峙し、すばらしい化学反応を起こしていく様子を目撃した。

◆横浜流星が山田孝之&森本慎太郎と対峙!最重要シーンを目撃

 染井為人による同名小説を映画化した本作。主人公となるのは、日本中を震撼させた殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けて脱走した鏑木(横浜)。鏑木は、日本各地で沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)と出会いながら、間一髪の逃走を繰り返していく。一方、鏑木を追う刑事の又貫(山田孝之)は沙耶香らを取り調べるが、それぞれが証言する鏑木はまったく別人のような姿。鏑木は凶悪犯なのか、無実の青年なのか、その“正体”が4人の視点によって明かされていく。原作を読んだ藤井監督が「この作品は流星で撮りたい」と希望し、長編劇場映画では『青の帰り道』『ヴィレッジ』に続き3回目のタッグが実現した。

 鏑木による逃亡劇の景色や匂い、温度など本物を映し出すために、撮影は夏と冬に分けて敢行。夏編の撮影は、2023年の7月から8月。冬編は、2024年の1月から2月にかけて行われた。2024年2月、東映東京撮影所では、鏑木が面会室で又貫、そして和也と対面するシーンが撮影されていた。クライマックスとなる大事な場面だ。ガラス越しにじっくりと向き合った鏑木と又貫は、落ち着いた様子で話を進めていく。現場には並々ならぬ緊張感が漂い、2人だけにしか分からない特別な空気が流れている。横浜は窓の外を見つめるふわりとした笑顔から、鏑木の心情や辿ってきた道のりまでを見事に表現。山田は鋭い眼光やスーツをビシッと着こなした姿からも刑事としての存在感を放ちつつ、鏑木を見つめる瞳には涙と葛藤がにじんでいる。印象的だったのは、撮影の合間に横浜と山田は会話をせずに、壁に向かって集中力を高めていたこと。ストイックな姿勢でキャラクターを身体へ落とし込み、彼らのグンと高めた集中力がぶつかり合う瞬間は「すごいものを見た…」とゾクゾクするような高揚感を味わうものだった。

 また、大阪の日雇い労働者として共に工事現場で働き、鏑木と親しい友人となりながらも、指名手配犯ではないか?と疑っていく青年・和也を演じたのが森本だ。ヤンチャな雰囲気がありながらも、鏑木に対して人懐っこい笑顔をのぞかせる和也からは、“いいヤツ”オーラがビシビシと伝わってくる。藤井監督は、森本の間近で膝をつきながら丁寧に演出をつけていた。森本はそれに必死に食らいつき、より豊かな表情を見せていく。『だが、情熱はある』の森本の芝居を見て「テクニックもあって、すごく面白い俳優だなと思っていた」という藤井監督は、「今では、スタッフの中にも“和也推し”がたくさんいるんです。それくらい、森本くんが和也に人間らしさを注いでくれた。本当にいい芝居をしてくれる俳優さん」だと称えていた。

◆藤井監督が横浜流星に寄せる信頼感とは?


 本作の企画が動き出したのは、4年ほど前のことだという。藤井監督は「今、本作を撮ることができて本当によかったなと思っています。流星とはお互いのことを知り尽くしている関係ですが、今の彼の最終形態に近いぐらいのものが撮れているのではないかと思っています。逃亡した死刑囚である鏑木が、見た目や人格を変えながらいろいろな人に出会っていく話なので、“横浜流星七変化”と言いますか、横浜流星のすべてを見られるような映画」と本作を分析しながら、「僕から見ても流星は、劇中の人間になりきる力や、その精度が圧倒的にすさまじいものになっている。本当に楽しく撮らせてもらっています。スタッフのみんながモニターを見ながら『横浜流星、すごい!』と言っているのを、僕は『知ってる、知ってる。でしょう?』と思っています」と横浜の成長と彼への賛辞がうれしくて仕方ないといった様子。

 さらに藤井監督は「流星とは、脚本作りの段階から一緒にやっていける」と特別な存在だと明かしながら、「彼がどれだけ素晴らしいパフォーマンスをしてくれるかということも分かっています。お互いに妥協をしないタイプ」とにっこり。横浜と他の俳優では「演出方法が違う」と明かす。

 「他の俳優さんの場合は、キャラクターの感情について話しながら演出をつけていきますが、流星とはもうその段階は終わっていて。今そちら側のショットは使わないから、間をこれだけずらしてほしいとか、画角や表現領域などテクニカルなことまで共有できる。そうやって進めていけるのは、僕にとって流星だけです」と言葉にせずとも共有できることがたくさんあるという。お昼休憩の合間に行われた藤井監督のインタビュー部屋にも、横浜が「よろしくお願いします!」と取材陣に挨拶に訪れて2人で笑顔を弾けさせるなど、そんな瞬間からも彼らが気の置けない間柄にあることがよく分かる。

◆藤井監督、横浜流星も尊敬してやまない山田孝之の唯一無二の俳優力


 逃避行の道のりで出会う人々の視点から、鏑木の“正体”が浮かび上がる。そういった群像劇としての面白さが、本作の鍵となっている。横浜以外のキャストが藤井組に俳優として出演するのは、今回が初めてのこと。「新しい俳優と出会いたいという欲望がある」という藤井監督だが、「映画人のなかでも緊張するのが、山田孝之さん」と苦笑いを浮かべる。

 「僕がインディーズ時代に撮った『デイアンドナイト』で、プロデューサーを務めてくれていたのが山田さんです。僕はそこから公私共に、山田さんの背中を見させてもらってきて。ずっと彼の生き方、映画界の未来についての考え方などを吸収したいと思ってきました。そんな彼に初めて、役者としてオファーをしたのが本作です」と告白。「観客の方々は、又貫の目線になって鏑木の正体を追いかけていく。又貫役を誰にお願いしたいかと考えた時に、ダメ元で山田さんにオファーをしてみようと思いました。山田さんに又貫を演じてもらえて、僕としても一つ夢が叶ったよう」と感激しきりだ。

 現場で山田を撮っていても「唯一無二で、圧倒的。みんなが山田さんを目標にする理由が分かる。それを目の前でまざまざと見せられたような気がしています」と彼のすごみを実感しているといい、「流星にとっても一番尊敬していて、いつかご一緒したいと話していたのが、山田さんなんです」と山田とのタッグは、藤井監督、そして横浜にとっても念願だったと話す。

◆原作者、監督、俳優陣の熱意が呼応する極上の逃亡サスペンス・エンタテインメントが完成


 相手によって異なる顔を見せる鏑木の姿から、インターネットやSNSが身近となり、相手の本当の姿が見えにくかったり、ある一面だけで人を判断してしまうなど、現代社会に潜む不条理と重なる部分を感じる人も多いかもしれない。藤井監督は「原作に描かれているテーマと、僕と流星が取り組みたかったことには、根幹的にすごく近いものがあった」と吐露し、「原作者の染井先生は、ラッシュを観て『最高です!』と言ってくださった。『これまでも藤井監督と横浜さんの映画を観てきていますが、お二人は僕の考えていることや感じていることと近いことをやっていると思っていました』とお話ししてくれて、ものすごくうれしかったです」としみじみ。

 「僕と流星が脂の乗っている時期に、極上のエンタメを作りたいと思って取り組んでいる作品です。『これはスクリーンで観た方がいいよ』と全国で楽しんでもらえるものになっている自信がある。サスペンスだけれど、しっかりとしたヒューマンドラマであり、エンタメであるものを作りたかった」と力を込めつつ、夏編と冬編にわけて撮影ができたことについても「俳優部の皆さんも、その時間が大事だったと言ってくださった。これだけ豪華な俳優部の皆さんを夏と冬に分けて拘束することは、制作陣にとってもなかなかハードルが高いこと。でもそうしたことによって生まれる豊かさについて、皆さんが呼応してくれた。時間を経たことが、しっかりと画にも出ている」と充実感をみなぎらせる。横浜が体現した、鏑木のまっすぐな眼差し。鏑木を通して、自分自身も見つめていく周囲の人物たち。本作では、彼らの揺らぎ、信念、覚悟などアップを交えて真正面から捉えていく。邦画界にはこれだけ素晴らしい役者がいるのだと心が震えるような場面の連続で、スクリーンにお目見えする日が今から楽しみで仕方がない。(取材・文:成田おり枝)

 映画『正体』は、11月29日より全国公開。

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