全員の好演が光るドラマだった『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』最終回を終えて
クランクイン! / 2024年9月28日 19時0分
河合優実が連続テレビドラマ初主演を務めた『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の、NHK地上波での放送が最終回を迎えた。「家族の死、障がい、不治の病。どれかひとつでもあれば、どこぞの映画監督が世界を泣かせてくれそうなもの。それ全部、うちの家に起きてますけど」な家族の物語は、大丈夫な人、大丈夫やない人、すべての人を、岸本家一家とともに赤のボルボに乗せた。
■主演の河合はもちろん、出演キャストの全員が好演
岸本家のメンバーは、河合演じる主人公の七実、車いすユーザーの母・ひとみ(坂井真紀)、ダウン症の草太(吉田葵)、物忘れの症状が進む祖母・芳子(美保純)と、七実が中学生のときに急死した父・耕助(錦戸亮)だ。全身黒のコーディネートでまとめた一家が、ボルちゃんこと赤のボルボに乗り込むところからスタートした第1話の冒頭につながった最終話。父の急死によって、一度は手放されていたボルちゃんだったが、作家として成功した七実が買い戻し、母・ひとみが運転できる仕様に。一家はボルちゃんに乗って耕助の墓参りに行った。
河合は、パワーがどこに向かうか分からない、少々あぶなっかしさを感じさせる、誉められることが大好きな七実を、絶妙なコメディセンスを発揮して演じ切った。また、父に投げた言葉に自分自身が傷つき続け、母の病気や、日々に悩んだり、苦しみ、「大丈夫やない!」と叫ぶ、心の痛みをこちらに体感させた。
草太役の吉田は、ダウン症の当事者として日本で初めて連続ドラマのメインキャストを担ったが、“初の”との冠などナシで単純に草太を演じた俳優として、たくましく自立していく様子、幻の耕助との別れのシーン、「大丈夫です。僕はママの子どもです。僕は大人です」と母に伝えるシーンなど、たくさんの印象的なシーンを残した。
絶望も、強さも明るさもひっくるめてひとみを感じさせた坂井や、いつも自由だけれど、実はいろんなことを背負ってきた「(ひとみを)なんでもっと元気に生んであげられなかった」と泣くばあちゃんも、美保だからこそ演じられた「人生の喜びがちゃんとあった。今もある」豊かなばあちゃんだった。さらに耕助を演じた錦戸。語り掛けてくる声、表情、草太や、七実、ひとみ、それぞれと対峙(たいじ)していった耕助、生前の耕助、いずれにも吸引力があった。
周囲の人々も総じて魅力的で、親友・マルチ(福地桃子)、コンビニの店員、旅行代理店の担当者、七実が「ハレンチな」と夢に見てしまうくらいステキな大人のオトコの面々、大学のサークルから始まった会社の仲間や、ばあちゃんを今も支える大阪のご近所さんたち、作家になった七実を支える人々などなど、みな個性に溢れ、かつひとりとして調和を乱すことのない、全員の好演が光るドラマだった。
■耕助を含む岸本家全員の頭をやさしくなで、包み込んだ本作
第1話から、母の大手術に直面した本作。2話の母娘のレストランの場面には「死にたいなら、死んでもええ。私も一緒に死ぬ」との強いセリフが登場した。七実のアップではなく、ふたりを真横から捉え、それぞれに感情移入させつつ、直後に続く、七実の「ママが生きたいって思えるようにしたいねん」との気持ちを打ち出し、母の泣き笑いにつなげていった素晴らしい場面だった。この、真横から人物を捉えるショットは、岸本家を映す際に幾度も登場。家族が席についたリビングのテーブルを横から見つめる。それは耕助の目線でもあるだろうし、私たちの視線でもあった。
作家・岸田奈美さんの自伝的エッセイをベースに、『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』の大九明子監督が料理した本作は、“原作エッセイの実写化”に留まらなかったように思う。原作者のこれまでの人生を制作陣が丸ごと包み込んだうえで、フィクションの岸本家として生み落とし、ひとりひとりとじっくり向き合っていく。
メンバーには耕助も含まれた。いや、含まれるどころか、耕助が中心にいた。草太や、七実、ひとみが見る幻影としてだけでなく、家族をいまも見守り続ける耕助自身として。ずっと無理をしていた耕助。本作は、すでにいないはずの耕助のことも「よう頑張った」と頭をなでた。そのことは、ひいては残された家族の抱える思いもやさしく包んだだろう。
本作は、過去と現在を交錯させるスタイルで、父・耕助が急死した2010年から2025年までの「岸本家の日記」を、丁寧に見つめた。そして岸本家だけでなく、大丈夫な人、大丈夫やない人、大丈夫で大丈夫やない人、みんなを、「行けー!」とハイパー温かく、力強く、押したのだ。(文:望月ふみ)
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