『カメ止め』再来の呼び声高い『侍タイムスリッパー』の魅力に迫る! 安田淳一監督&ヒロイン・沙倉ゆうのを直撃
クランクイン! / 2024年10月19日 7時0分
『カメ止め』ブームの再来か?―あの盛況を想起させる自主映画が、2024年、日本の映画シーンをにぎわせている。その名も『侍タイムスリッパー』。監督業と農家という二刀流で活動する安田淳一監督の「自主映画で時代劇を撮る」という試みに「脚本がオモロいから、なんとかしてやりたい」と東映京都撮影所が協力。10名足らずのロケ隊が本家、東映京都で撮影を敢行し完成した本作は、2023年10月の「京都国際映画祭」でプレミア上映されると万雷の拍手と歓声に包まれ、今年7~8月のカナダ・モントリオールの「ファンタジア国際映画祭」では、見事、観客賞金賞を受賞した。日本にとどまらず世界でも観客の折り紙付きとなった本作の魅力と人気の秘密に迫るべく、安田淳一監督、ヒロイン役の沙倉ゆうのに話を聞いた。
■予想以上のヒットに「何事?」とビックリ!も秀逸な脚本は撮影前から周囲が太鼓判
幕末の侍が、あろうことか2007年の時代劇撮影所にタイムスリップ。「斬られ役」として第二の人生に奮闘する姿を描く本作は、コメディーでありながら人間ドラマ、そして手に汗握るチャンバラ活劇でもある。主人公・高坂新左衛門をNHK大河ドラマの常連でもある実力派俳優・山口馬木也が演じ、高坂の敵(かたき)役を冨家ノリマサが演じた。そして、2007年の日本にタイムスリップした高坂に手を差し伸べる時代劇の助監督・山本優子役を沙倉ゆうのが好演。そんな沙倉は役だけでなく、実際の撮影でも助監督、制作、小道具などスタッフとしても活躍したという。沙倉、そして一人11役以上もの役割を担った安田淳一監督の視点から、ヒットの要因となった本作の魅力について迫ってみたい。
――『侍タイムスリッパー』の大ヒットを受けて、現在の率直なお気持ちを聞かせてください。
安田淳一監督(以下、安田):もうあたふたしている感じです(笑)。つい1ヵ月ぐらい前までは単館で上演していたんですが、すごい勢いで今172館まで上映館がふくらんでいるんです(※10月14日現在、公開決定は251館に)。展開が早すぎて、「何事?」とびっくりしています。
沙倉ゆうの(以下、沙倉):私も素直にうれしいですけど、驚きの方が大きいです。8月17日初日に池袋シネマ・ロサ(東京)で公開された時は関西での上映は全く決まってなかったんです。スタッフやキャストのほとんどは関西在住なので、「もうちょっと待ってて。秋ぐらいには上映するから」という話をしていたんですが、舞台あいさつで東京に来てからは関西に帰るタイミングもなくて…。そうしているうちに関西での上映も始まっちゃったので、そのスピード感に驚いています。それと2017年にこの映画の企画がスタートしてから、完成をずっと待ってくだっている方がたくさんいたんです。その方たちに観てもらえたのがうれしくて、舞台あいさつで思わず泣いちゃいました(笑)。
――『カメ止め』ブームの再来とも言われていますが…。
安田:『カメ止め』ブームの再来だと思われているのは光栄ですね。『カメ止め』がヒットした時に、インディーズ映画でもここまでお客さんが喜んでいっぱい観てくれるということに僕も勇気をもらいましたから。
沙倉:『カメラを止めるな!』は単館から始まって全国で公開されて、さらに日本アカデミー賞話題賞も獲った作品。私はこの作品を撮っている時からずっと「日本アカデミー賞に持っていきたい」という思いがあったので、すごくうれしいですね。
――そんな大ヒットとなっている本作の主演・山口馬木也さんは、「脚本が良かったから出演を決めた」というお話をされていました。山口さんに出演を即決させた魅力的な脚本はどのように生まれたのですか?
安田:京都ヒストリカ国際映画祭で映像企画市という時代劇の企画をコンペ形式で競うコンテンツへの参加のお話をいただいて、何をやろうかと考えた時に、侍が現代にやってきた面白おかしいCMを思い出したんです。それと(安田監督の前作)『ごはん』(2017年)に斬られ役で有名な福本清三さんに出演してもらったご縁もあって、侍と言えば…福本清三さんの“斬られ役”というイメージが僕の中であったんです。それで、現代にやってきた侍が撮影所で斬られ役になっていくという話は面白そうだなと思いました。そこから、『蒲田行進曲』とかの要素を足してプロットを書いて周囲に話してみたら、「安田さん、それ面白いから撮った方がええわ」と言われたんです。8ヵ月ぐらいかけて上がった脚本を映画関係者の皆さんに配ってダメ出しを聞こうとしたら、「そのまま撮ったら面白いんちゃうかな?」と皆さん口々言ってくれて、動き出しました。
――沙倉さんは、脚本を読んでみていかがでしたか?
沙倉:(山口演じる)新左衛門の思いや覚悟がぎゅっと詰め込まれていて、本を読んだだけでも感情移入してしまって泣いてしまいましたね。
■「本物の侍感がすごかった」主演・山口馬木也の演技が圧巻! ヒロインは正統派マドンナを意識
――映画では主演の山口さんが演じた高坂新左衛門がまるで本物の侍のようで圧巻でした。監督は山口さんにどのような役作りをお願いしたのですか?
安田:僕が時代劇に出ている馬木也さんのお芝居を見ていて、主演のオファーをしたんですが、撮影が始まったら、もう桁違いに芝居が上手かったんですよ。いわゆる「メソッド法」、気持ちから演じるキャラクターになりきって、そこから湧き出てくる感情でお芝居をするということが、達人みたいな領域でできる人だったんです。それは僕にとってはラッキーでした。撮影中は俳優・山口馬木也さんとやっているのではなく、侍・高坂新左衛門という江戸時代から来たご本人と一緒にやっているような感じでした。「僕はこう思いますが、高坂さんはどう思われますか?」みたいな話し方になっていましたね(笑)。そのくらい“はまり役”、本物の侍感がすごかったです。それと、終盤の(山口&冨家の)立ち回りのシーンは、日本の時代劇史上最も「真剣を使って立ち回りしている」と感じさせようと思っていました。刀を振る時に重たいものを振るような動作を取り入れながら、間(ま)を広めに取ることで緊迫感を出して、お客さんに状況を感じてもらおうと試行錯誤しました。
――沙倉さんは山口さんが演じる新左衛門や立ち回りのシーンをご覧になっていてどう感じていましたか?
沙倉:カメラが回ってない時に山口さんとしゃべっていても、本当に山口さんか新左衛門さんかわからない時がすごくあったんです。立ち回りのシーンも、控え室ではいつものワイワイとした感じだったんですが、撮影が始まった途端に山口さんと冨家さんが放つ空気感が周囲に行き渡っていて…すごかったですね。本当に「侍が2人いる」という感じで、現場の空気が張り詰めていました。
――本作では、沙倉さんが演じたヒロイン・山本優子の存在感も印象的でした。演じるにあたってご自身の役をどう捉えていらっしゃいましたか?
沙倉:優子は本当に時代劇が好きで、真面目に一生懸命に監督になりたいという夢を持って仕事を頑張っている女性。撮影現場ではピリピリした雰囲気の時や怒号が飛び交う時もありますが、そういうなかで潤滑油的に周囲を和ませる存在だと捉えていました。監督からは「真面目で一生懸命ひたむきな感じ」というリクエストがあって…。
――優子はどこか古き良き日本のマドンナという印象を受けました。
安田:そうですね。僕は『男はつらいよ』にリスペクトがあるので、正統派マドンナ像をイメージしているところはあります。
――助監督役を演じるにあたり、沙倉さんが役作りでされたことは?
沙倉:今回、実際に現場でも助監督をやらせていただいたんです。私自身、他の作品の撮影現場で助監督の動きを見ていたんですけど、どんな仕事をしているのかがあまりわからなかったんです。安田監督に聞いても「監督を助けるんちゃう?」と言われて、「そうなん?」みたいなやり取りもありました(笑)。なので、私なりに助監督像をイメージしながら、俳優さんたちが現場でやりやすいように意識して動いていましたね。
■沙倉ゆうの「時代劇愛にあふれた映画作りの作品」 監督がこだわった笑いと心情描写と人情味
――老若男女がクスっと笑えるようなコメディー要素、主人公・新左衛門の侍としての矜持や葛藤も印象深いですが、演出で監督がこだわった部分は?
安田:コメディーの部分でこだわったのは、一部の人だけでなく、ご年配の方からお子さんまで笑える、わかりやすい笑いをちゃんと作ろうということ。それによって、新左衛門に親近感を持ってもらい、新左衛門がさまざまな葛藤を抱えて命を懸けて戦う様子に、お客さんが応援したい気持ちになってついてきてくださると思ったので。序盤のコメディー要素の部分はベタだからこそ絶対に外したらあかん!とこだわって撮りました。新左衛門の侍としての葛藤を描くにあたっては、キャラクターの心理がどう変化しているかをお客さんに理解していただいて共感してもらって物語についてきてもらおうと思っているので、キャラクターの感情が変わる瞬間や何かをひらめく瞬間を絶対に捉えるということにこだわりました。
――新左衛門がお世話になる心優しい住職夫婦の人情味も味わい深いものでした。
安田:僕は京都ののんびりした地方都市で育っているので、住職夫婦のような優しい人はわりと周りにいるんです。だから人と人のつながりの中で、実生活においてはそんなに悪い人の方はいないんじゃないかなと思っているんです。スマホばっかり見ていると、炎上とか、人の足を引っ張るとか…そういうことばかりが目に入ってくるかもしれません。でも実生活では本当は結構優しい人も多いと思うし、そこに目を向けてほしいと思いますね。僕が子どもの時に見ていた時代劇の中では、もちろん勧善懲悪という部分もあったけれども、市井の人々が困った人に優しく接してくれて、一銭の得にもならないことに一生懸命になって助け合っている姿が繰り返し描かれていました。そうした人情味を、この映画の中できちんと描きたかったという思いはあります。
――そんな魅力満載の本作を、これからご覧になる方にメッセージをお願いします。
安田:この映画を観て、みんなで笑ったり、最後に拍手したり…っていう劇場ごと昭和にタイムスリップするような映画体験を味わえると思います。ぜひ劇場にお越しください。
沙倉:侍の映画ではあるんですけれども、時代劇愛にあふれた映画作りの作品でもあります。皆さんに楽しい映画を届けたいと頑張った作品なので楽しんでいただけたらうれしいです。
(取材・文/齊藤恵)
映画『侍タイムスリッパー』は公開中。
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