華優希、宝塚に導いてくれたシェイクスピアの作品で難役挑戦 父親役・草なぎ剛の優しさに感謝
クランクイン! / 2024年11月24日 10時0分
草なぎ剛がシェイクスピア作品初挑戦で、稀代の悪役・シャイロックを演じる舞台『ヴェニスの商人』。注目度の高い本作で、シャイロックの娘・ジェシカに元宝塚歌劇団花組トップ娘役の華優希が体当たりする。シェイクスピア作品への出演が夢だったという華に、本作に込める思い、稽古場での草なぎの印象、そしてデビュー10周年を迎えた心境などを聞いた。
◆宝塚と出会うきっかけはシェイクスピア作品
演劇史の巨人、ウィリアム・シェイクスピアの作り上げた『ヴェニスの商人』は、深い人物描写と痛快な展開で圧倒的な人気を誇る最高傑作のひとつ。今回は、第21回読売演劇大賞・最優秀演出家賞に輝いた森新太郎が、古典の常識を覆す新しいアプローチで、歴史ある名作を現代のエンターテインメントに生まれ変わらせる。キャストには草なぎ、華のほか、野村周平、佐久間由衣、大鶴佐助、長井短、小澤竜心、忍成修吾ら個性と実力を兼ね備えた顔ぶれがそろった。
――そうそうたる皆さんがそろう本作。オファーを聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか?
華:シェイクスピアに挑戦できるんだ」という事に対して、すごくワクワクするうれしい気持ちと、緊張感や不安と言うと少しネガティブなんですけど、ちょっとドキドキしてしまう気持ち。全部が同じくらいありました。
――シェイクスピア作品への出演は夢だったそうですね。
華:シェイクスピア作品と初めて出会ったのが(宝塚の)雪組さんの『ロミオとジュリエット』だったんです。その舞台を観て宝塚に入りたいと思ったので、その時にシェイクスピアという存在が自分の中にグッと刺さったんですね。音楽学校に入ってからも授業や演劇の勉強でシェイクスピアの作品に触れる機会が多くて、出演してみたいとの思いが溜まっていきました。今回それが叶ってとてもうれしいです。
――(取材当時)お稽古が始まったところですが、森さんの演出はいかがでしょうか。
華:とても楽しいです。いろんな言葉の解釈や言い回しだったり、時代背景だったり、森さんの頭の中にはどこまでのものが詰まっているんだろうと思うくらいいろんなものをいただけるので、自分が出ていない場面もお話を聞いているのがすごく楽しくって。でも、これからお稽古がもっともっと濃くなっていくと思いますので、ドキドキもしているんですけども、しっかりついていきたいなと思っているところです。
◆稽古場から草なぎ剛の芝居に惹きこまれる 気さくな人柄にも感動
――今回演じられるジェシカはどんなキャラクターですか?
華:とても若さのエネルギーがあるなというのが第一印象でした。今回、本来喜劇とされている本作の中では悪役の、ユダヤ人であるシャイロックが主人公で、その父に反発し駆け落ちをする娘。昔だったらユダヤ人の父から逃げ出してキリスト教徒に改宗してよかったよかった、めでたしめでたしで終われていたのかもしれない。でも、草なぎさん演じるシャイロックが、ユダヤ人がひどい扱いを受けていることを訴えるセリフや、娘を失って怒り狂うセリフがあるんですね。そこをないがしろにできない気持ちもあり…。
今の時代に生きる私とこの時代に生きていたジェシカ。ジェシカはきっと父の苦しみも感じていなかったわけではないので、そこのすり合わせがとても難しいのですが、しっかり向き合っていかなければと思っています。
――ジュリエットもそうですが、シェイクスピア作品には、若くパッションあふれた女性が出てきます。ご自身と共通点を感じる部分はありますか?
華:それが…私そんな恋のエネルギーがあるタイプではなかったので(苦笑)。挙げるとすると、宝塚への愛が若さのエネルギーだったなと思います。私は高校を卒業するくらいに宝塚と出会ったんですね。エスカレーター式の高校でそのまま大学に行くつもりでいたので、すごく親の反対にもあって。でも、「私は宝塚に行く!」と全部を押し切ったんです。あれは本当に若い夢見るエネルギーだったなと思います。
――シャイロックを演じられる草なぎ剛さんの印象は?
華:お会いする前は、お芝居がとにかく素晴らしくて惹きこまれるというか、その世界の中に連れ込んでくださるという印象が強かったです。実際にお会いすると、本当に気さくというか、お優しくて。壁を作らずにいてくださるのがありがたく感じています。
本当にフラットに話していいよという空気を作ってくださるんです。幼い頃から拝見していた、すごく遠くの世界にいらっしゃった方だから、初めはとても緊張していましたが、いつも緊張をほぐしてくださいます。
隣でお芝居を聞いていると、本当に熱量を持って訴えられるシーンでは条件反射でビクッとなってしまうくらい迫力があったり、涙が出そうになるほどの熱量があったりと勉強になることばかりです。
――そんな草なぎさんとどんな父娘関係を演じたいですか?
華:今、本読みが終わった段階なのでこれからだなと思っています。娘が父の財産をもって駆け落ちしてしまうので、そこに怒り狂う草なぎさんのお芝居が、言葉だけでも身を削られていくほどの感覚で。どのようにジェシカ像を作っていって、どのような形の親子愛、父との繋がりを作っていくか、これからご相談しながら作り上げていきたいと思います。
ただ、自分も負けないようなエネルギーを持っていないと意味のない存在になっちゃうと思うので、そこはしっかり頑張りたいと思います。
――ジェシカと駆け落ちをするロレンゾーを演じる小澤さんとは、柚香光さんのコンサート『TABLEAU』でもご共演されましたね。
華:緊張してしまうタイプなので、少しでもご一緒させていただいたことがある方がいてくれて安心でした。『TABLEAU』でのパフォーマンスも本当に素晴らしくて、こんな素晴らしいパフォーマンスをされる方がどんなお芝居をされるんだろうとすごく楽しみでした。
今回のお稽古場でもエネルギーにあふれていらっしゃって、目もキラキラしていて。恋する若者のエネルギーと素敵な関係性を一緒に生み出していけたらなと思ってます。
◆初舞台から10年 ロンドンでの舞台経験は大きな財産に
――2014年の初舞台から10年が経ちました。振り返ると、この10年はどんな日々でしたか?
華:宝塚にいた約7年は短距離走をしているみたいな、ずっと走っているような感覚でした。落ち着いて物事を考えられないくらい、目まぐるしく走り続けていました。でもそれが青春でもあり、とにかく宝塚が好きだったから走り続けられた時間だったなと思いますし、その時間は何にも代えがたい、人生の中でも特に大事な時間だったなと思います。
そこから切り替わっての3年は、物理的に時間もできましたしいろんなことを考えながら、新しい出会いがたくさんあって、新しい世界も広がって。この7年と3年はまた全然違うんですけど、どちらも同じくらい濃密な時間だったなと思います。
――その中でターニングポイントを挙げるとすると?
華:ターニングポイントになったなという年があるんです。その年は、初めて新人公演のヒロインをさせていただいて、また『はいからさんが通る』でヒロインも務めさせていただき、その年の後半には『ポーの一族』という作品でトップさんの付近でお芝居をさせていただくという、自分を取り巻くものが変わったなと感じた1年でした。それまでとそれ以降でいろんなものが変化し、責任も大きくなったといいますか。それまでもすごい速度で自分では走っていたつもりでしたけども、より責任が増えた感覚がありました。
トップ娘役に就任させていただいてからもさらに責任は増えましたが、『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』という作品との出会いでは、型にとらわれない「こういうお芝居をしていいんだ!」と体感することができました。そこからひとつ、お芝居に対する概念が変わったなという思いがあります。
――今年は『千と千尋の神隠し』でロンドン公演も経験されました。
華:圧巻でした。海外のお客様は感情を表に出してくださるので、それが単純にうれしかったですし、こんなに日本の文化や『千と千尋の神隠し』という作品が海外で愛されているんだと肌で感じられたのもすごくうれしくて。やりがいも感じましたし、とても貴重な財産になったなと思います。
――ロンドン生活も満喫できましたか?
華:とっても楽しかったです!(笑) 仕事で行けたのが大きいなとも思います。プライベートで行ってももちろん楽しかったと思いますけど、現地の人と働いて、暮らして、それってすごく大きなことだったなと思います。向こうでは演劇がさらに生活に溶け込んでいて、劇場も生活の一部になっている。そういうのを人から聞いた話で感じるよりも、自分が行って働いて、こういう感覚なんだと感じられたことがすごく大きかったです。舞台の板の上は聖地だとも感じていますが、舞台というものを、もっと身近に感じてもいいんだなと、自分と舞台との距離感が新しくなった感じがします。
――今回、『はいからさんが通る』での紅緒さん以来の日本青年館ホール。ほか、故郷・京都での公演もあります。初の凱旋ですね!
華:凱旋になるか分からないですが、すごくうれしくって!(笑) 御園座も『千と千尋の神隠し』でお世話になりましたし、どの劇場も思い入れがあるので、楽しみにしています。
本当にすてきな言葉がたくさん散りばめられた作品なので、皆様によりよい作品としてお届けできるように頑張りますので、ぜひ楽しみにして劇場に足をお運びいただけたらうれしいです。
(取材・文:田中ハルマ 写真:松林満美)
舞台『ヴェニスの商人』は、東京・日本青年館ホールにて12月6日~22日、京都・京都劇場にて12月26日~29日、愛知・御園座にて2025年1月6日~10日上演。
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