『樹海村』のヒロインは現代版ナウシカ!? 清水崇監督の狙いとは
クランクイン! / 2021年2月14日 8時0分
興収14億円を超える大ヒットとなった『犬鳴村』に続く「恐怖の村」シリーズの第2弾『樹海村』が、現在公開中だ。そのタイトルからも恐ろしさがにじみ出る本作は、誰もが知る富士の樹海を舞台とし、自然の持つ神秘性と呪いの恐怖が融合していく展開にゾクゾクさせられるホラー映画として仕上がった。メガホンをとったJホラー界の重鎮、清水崇監督は「ヒロインの一人を、現代版のナウシカのようにしたかった」と告白。新しい挑戦となった本作に込めた思いとともに、『犬鳴村』のヒットについての分析や率直な心境を語ってもらった。
■「樹海村」と「コトリバコ」 描きたかった恐怖とは?
“コトリバコ”という呪いの箱を見つけた姉妹の響(山田杏奈)と鳴(山口まゆ)を主人公とした本作。樹海に封印されていたはずの呪いが解き放たれ、恐怖に襲われる人々の姿が描かれていく。「樹海村」と「コトリバコ」という、いわば2つの都市伝説からなる物語となっているが、そのアイデアはどのように生まれたのだろうか。
「実在する心霊スポットを舞台とした『犬鳴村』のヒット後、次も実在の場所を舞台に、第2弾を作ろうという話になって。“舞台は樹海にしよう”と思ったんですが、樹海って人の住んだ形跡や歴史もない場所だし、撮影する上でも“どこにカメラを向けても森”という画になってしまうんですね。それだと劇作映画、またドラマを生むには無理があるなと。漠然とし過ぎた森だけでなく、なにか恐怖の象徴となるものが必要だと思いました」。そこで思案した結果、出てきたのが都市伝説である“コトリバコ”を登場させるというアイデアだ。
“コトリバコ”とは、実際に2005年頃から2ちゃんねる(当時)で話題となった最恐のネット怪談。村の因習や陰惨な呪術を語る怪談だが、清水監督は「誰が投稿したかわからないという怖さもあるし、実際に大正や昭和にあったんじゃないかと思わされるようなお話。怖いですよね」と以前から“コトリバコ”に興味があったそうで、「樹海で封印されていた“コトリバコ”が、人々のもとにやって来てしまう。その結果、関わった人々を根絶やしにしていく」というプロットに行き着いたという。
■「人間が踏み込んできたことで、怖がるべき場所の印象にしてしまった」
本作では直接的なホラー描写だけでなく、樹海の神秘性も印象的に描かれ、ジワジワとした恐怖と緊張感を与える。その狙いについて、清水監督は「“自然への畏怖の念”へと辿り着きたかった」と語る。
「実際に富士の樹海に行ってみると、空気はおいしいし、清々しい。結局、ここを怖い場所にしてしまっているのは、人間に過ぎないと思ったんです。樹海は迷うぐらい広いし、自死を望む人もやって来る。人間が踏み込んできたことで、怖がるべき場所の印象にしてしまったんですよね。人間の行いが、自然を軽んじることにつながっている。新型コロナウイルスや東日本大震災などを考えても、あらゆる開拓をしてきた人間が、そのことによって生み出した自分らで修復できない恐怖、還元を自然に委ねるしかない中で、太刀打ちできない自然の猛威に時折気づかされるように恐怖を感じている。いつか、そういったテーマのホラー映画を作ってみたいと思っていました」。作品の根底には、人間と自然との関わりという壮大なテーマが横たわっているのだ。
■山田杏奈演じるヒロイン・響は「現代版ナウシカ」
だからこそ、ヒロインの一人である響は「現代版、“引きこもりのナウシカ”にしたかった」と、監督は明かす。「響は、人間とのコミュニケーションが苦手で、引きこもっている。単なる霊感…って意味合いだけではなく、人よりも虫や動植物…自然に近い世界と通じ合っているようなヒロインです」と、響を人と自然をつなぐ存在にしたかったと振り返る。「そんな響をうっとおしく思っている姉がいたら…と考えていくことで、どんどんストーリーが出来上がっていきました」。
撮影が始まる前には、「山田さんには“響は現代版のナウシカなんだよ”とは説明しませんでした。なかなか言葉だけでは伝え切れない部分もあり、完成版を観た後で彼女に伝えると、“現代版のナウシカ”、なるほど…そういうことだったんですね!”と納得していました」。スタッフも完成するまでどんな映像になるか予測できなかったというラストシーンは、渾(こん)身の映像美に仕上がっている。
難役となる響を演じた山田について、清水監督は「『ミスミソウ』なども観て、彼女ならば任せられると思った」と全幅の信頼を寄せる。「不思議な感覚のある役なので、『シックスセンス』や『降霊 〜KOUREI〜』、『ボーダー 二つの世界』を観ることをすすめたら、すべて観て来てくれて。真面目だなと思いました。とはいえ、最初は“霊感があるって、どういう感覚なんだろう?”と迷っていました。ちょうど、共演者の原日出子さんと、黒沢あすかさんが、初対面の時から“私、実は霊を感じるタイプなのよ”と仰っていたので、“山田さんにいろいろと教えてあげてください”とお願いしました」と驚きのエピソードも明かした。
■清水組は10年ぶり2度目の山口まゆ
響の姉・鳴役を演じる山口は、「実は10年前に清水組に出てもらっていた」のだとか。「『ラビット・ホラー3D』で満島ひかりの後ろで拍手をしている子どもの一人が、山口まゆなんです。当時はエキストラの一人ということで、僕も覚えていなかったのですが、10歳でエキストラの一人としてお母さんと現場に来ていた子が、10年後に20歳になって、同じ清水組でヒロインに抜てきされたなんて、なんだか感慨深いし、夢と勇気と希望を与えられる話ですよね。本作の現場のエキストラの方々にも、この話をしたりしました」と、山口との縁を語った清水監督。
「普段、ホラー映画だと意味深な怖い裏話ばかり聞かれますが、実は宣伝効果につながらないから表に出ないハートフルないい裏話があるものなんです。ホラーってネガティブ要素ばかり話題になる不可思議なジャンルですからね。『呪怨』シリーズである俳優さんの離婚が取りざたされたことがありましたが、その方が再婚したのも『呪怨』シリーズだし、実は何組ものカップルや夫婦を生み出している…日本の撮影で知り合って結婚したアメリカ人俳優同士の夫婦までいますよ。本作のプロデューサーの一人は『犬鳴村』公開直前に結婚して、『樹海村』公開直前には、お子さん生まれたし」と笑う。
「山口さんの出るシーンは、毎回泣いたり悲鳴を上げたり、感情の高ぶる場面が多かったのですが、“監督の要望に応えられる芝居をしたい”という思いがひしひしと伝わってきた。これは山田さんも同じですが、そういった熱意がとてもうれしかったですね」と過酷な撮影を乗り切った2人のヒロインを称えた。
■“Jホラーブームの再燃”も「一過性のものになってしまうのは怖い」
「恐怖の村」シリーズの第1弾『犬鳴村』は、コロナ禍において興収14億円越え、観客動員数110万人を突破する大ヒットを記録した。清水監督は「『犬鳴村』というタイトルもよかったと思います」とヒットを分析。「『樹海村』もそうですが、実在の場所や、聞いたことがある場所、名前をタイトルにすると、インパクトが大きいですよね。『事故物件 恐い間取り』(中田秀夫監督)もヒットしましたが、やっぱりそのように身近に感じる共感性が、人々の注目を集めているのかなと思います」。
2020年は『犬鳴村』『事故物件 恐い間取り』がヒットを果たし、“Jホラーブームの再燃”とも言われた。「一過性のブームになってしまうのは、怖い」と清水監督は胸の内を語る。「1990年代には『リング』や『らせん』がヒットしたことで、あらゆる人や会社がホラー映画を作り始めた。正直…ホラーのセンスからは離れているような人までそこに手を出してしまったり、似たような作品を粗製乱造するようになったりして、ビジネスに溺れてしまい過ぎると、結局作り手のセンスも鈍り、製作側の狙いや思惑からも外れて、絶対にいいことはないんですよ。まあ、『リング』や『らせん』のヒットのおかげで、僕も『呪怨』を撮ることができたのでなんとも言えないですが(笑)、もしブームが再燃したとしても、僕の場合、すでに過去に大変な思いをしている経験もあるので、“作り手は作り手で、しっかりとしたものを作ろうよ”という姿勢は、忘れないでおきたいです」。
2人のヒロインの熱演も光り、恐ろしくもドラマチックなホラー映画となった『樹海村』。壮大なクライマックスまで、ぜひ劇場で見届けてほしい1作だ。(取材・文・写真:成田おり枝)
映画『樹海村』は公開中。
●『樹海村』日本語字幕付上映
全国一部劇場で、バリアフリー上映を実施中。詳細は公式サイトにて。
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