それ、大阪の笑いとちゃうで。 ~1分でわかる大阪人の言い分~
インフォシーク / 2012年11月21日 17時30分
最近、テレビをつけると「ここは東京か?」と思うくらい、関西の芸人さんが目立つ。勢いよく大阪弁が飛び交い、笑いが巻き起こっている。他のチャンネルに切り変えても、また別の大阪弁が聞こえてくることもある。
昔から「西と東の笑いは違う」とはいうけれど、「東の笑い」も今や西の芸人でできてるやん、とさえ思う。
そんな最近のお笑いをみてか「大阪の笑いは面白いね」と知った顔をする東京人が増えたが、大阪人から言わせていただくと、あなた方が思う「大阪の笑い」は、本物の大阪の笑いじゃない。
東京に進出した関西の芸人さんは、そりゃあ面白い。でもそれは笑いのプロが笑わせている、それぞれの芸人さんの仕事。勘違いしてしまう東京人は、その仕事にただ笑っているだけ。
本物の「大阪の笑い」っていうのは、素人、つまり一般人を含めて「日常のなんでもないことを面白く話すスキルの高さ」であることを理解してほしい。
もちろん、大阪人だからといって笑いのスキルの高さは人によって違う。
ただ、そんなことを問題にしているんじゃない。ネタはなんだっていい。楽しいコミュニケーションを取り合おうとする姿勢が大阪人の笑いの魅力であり、サービススキルの高さなのだ。
東京でひょうひょうと暮らしている人は、残念ながら笑いに変えるポテンシャルが低く、周囲を和ませるサービス精神を持たんかい!と思うことはしばしばある。
やれ「疲れた」だの「忙しい」だの、最悪なのは「アイツ嫌い」だのと真顔で言い、さらに聞いている側が「わかる~」て。アホか!疲れた自慢をする暇があるのなら、ニコッと笑って黙ってろ!
そしたら大阪人は「喋る時間が来た」と話し出すから、場所を空けて待ってろ!と言いたい。
先日、夜遅くにかかってきた電話の内容がいかにも「大阪の笑い」らしかった。
こんな時間になんやろう、と電話を取るなり、「さっき道歩いとったら軍手が“ドーン”て落ちててん。しかも片手やで、片手!ところで、元気?」と話してきた。
道に軍手が落ちていた。それだけの話。別に人に話す内容ではない。しかし、それをネタに変えて、軍手を落とした人を差し置いて自分のエピソードとして話してくる。理由はただ、それで和めばいいコミュニケーションになるからという優しさだ。
ちなみに電話の発信者は、誰あろう私のオカン。オカンのトークショーをひとしきり聞いたあとは、私の番。
「こんな遅くにどこ歩いてんだよ?物騒じゃねえかよ!長生きしろよ、ババア!」とは返さない。
なぜなら、面白くないから。どこほっつき歩いとんねん、と心配はするが、それをオカンに言ったところで「何言うてんのアンタ」としか返されない。
本当に親を想う気持ちがあるのなら、「軍手ってよう落ちてるよなあ。しかも大概ワケわからん場所やねん。俺この前見たのはな……」と、どうでもいい話をどうでもいい話でキャッチボールすることが親孝行に変わる。
また、私がまだ小学生の頃に出くわした「大阪の笑い」らしいエピソードがある。
家族で梅田の阪急デパートへ行った帰りの電車で座席に座る若いお姉さんが屁をこいた。音はしなかったが、臭いの元が明らかにお姉さんであることを誰もが判った。
お姉さん、恥ずかしかったのだろう。前に立っていたおっちゃんに心配そうな顔をして「おなか痛いんですか?」と尋ねたのだ。
しかも標準語。
このお姉さんは大阪のおっちゃんのポテンシャルを知らなかったからこそ、乗客の背筋が凍る助け舟を出せたのだろう。おっちゃんは、こう返した。
「ワシが腹痛かったら、アンタ屁ぇこくんかい!」
すると周囲から、じわじわと笑いが起こっていく。そして爆笑の渦。
当初おっちゃんはキレていたが、絶妙な返答が周囲にウケたせいかにこやかになり、車内の雰囲気が明るくなっていった。
このように、大阪人は気分が悪い状況だとしても面白くなるきっかけがあることを知っている。もしこの事件が東京で起きていたら、おじさんがたじろいでその場を離れるだけかもしれないし、ブチギレて大喧嘩になっていたかもしれない。
「怒ったところで何もおもろない」が先に浮かぶのは大阪人の精神。何でもない日常にこそ、笑わせる意欲は涌く。
ただし、この精神は時に邪魔で、私自身、恋人との別れ話など深刻な場所で「何かおもろいことができないものか」とつい考えてしまう気持ちは本当にどうにかしたい。
しかたかし ライター・コピーライター・歌い手(バンド活動休止中)。大阪生まれ。大阪芸術大学にて写真を専攻した後に上京しなぜかコピーライターとなって約10年。現在は都内広告プロダクションに勤務しながら、大阪人からみた東京、また東京在住の人からみた大阪人について研究。
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