東京人の「カワイイ」がわからない ~1分でわかる大阪人の言い分~
インフォシーク / 2013年4月10日 17時30分
大阪男にとって一番慣れていない言葉はおそらく「かわいい」だろう。
同じテーブルで膝つき合わせる集団の中でいかに自分が面白さナンバーワンになれるかを自ら課す民族にとって誰かから発せられる「かわいい」の一言は、自分の発言がスベった気さえしてしまう終止符にとらえがち。
だからといって腹が立つ部類ではない。「アホか」と言われたら「お前のほうがアホじゃ(笑)」と即答できる。しかし一部の女子意識ハンパない野郎を除いては「かわいい」に対して「お前のほうがかわいいわ(照)」くらいしか思いつかないし基本的には下を向いている。つまり、負けを意味する。
ところがどうだ、東京は。
同僚の結婚式に行ってきた友人のケータイ画像に写るチョイ小太りなおっさん(新郎)を見て「ワー、カワイー!」てか。まるでピエロ。今風にいうとくまモンといったところか。
この前なんかもびっくりした。いつまで続くねんとツッコミたくなるような人類皆パンケーキ信者な昨今、神宮前のどこぞのパンケーキ店で並び並んでやっとこさ食べた!という友人のケータイ画像を食い気味に見入る友人は見るや「エー、カワイー!」と絶叫。
内心(俺もそんな風に言われてみたいわ!)とつい弱みが見えそうになったのは否めないが、ただのパンケーキだぜ?粉と卵をむんずとかき回して高熱の鉄板で焼き入れてるアレだぜ?とニセ標準語で返したくもなったが俺は大人。子どもの食い物に喧嘩を売っている暇はないと下を向いた。
そんな折「風邪を引いてしまった」と友人からメール。
かわいそうな友人。なぜならその日は大好きなバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」のライブだってのに。これは励ましてやらなければ!とあのキラーフレーズ「エー、カワイー!」と返信すれば愛情は伝わるか?と思ったが普段から「かわいい」なぞ言う機会のない私がそんなメールを送った時点で私がライブ前に浮かれ上がったほとんどビョーキとしか思われない。
そこでライブ終わりに友人の家に見舞いへ行くことを約束。なぜなら美人女性だからに決まっている。家に入るとぐったり寝込む友人がベッドと同化していた。
スケベ心?そんなもんないっすよ。の顔をキープし続けながら「ちゃんと食事は摂ったのか?」と聞くと「朝から何も…」と苦しそう。よし。それじゃここでやさしい飯でも作ってお株を上げようと思い立ち、「お粥さんでも作ったろか?」と聞いてみた。
するとどうだ。
「お粥、“サン”?(笑)カ、カカカカカワイイ!!」と風邪が治ったくらいに爆笑された。女子にカワイーと言われるパンケーキに嫉妬を抱いたものの、この状況に至っては「コイツ、なんで笑っとんねん」と馬鹿にされた気分だ。はじめは本当になにを笑っているのかわからなかったが、そう。お粥に「さん」を付けた私がカワイイアピールをした体に捉えられての爆笑だった。
大阪では主に食べ物に対して「ちゃん」みたいな敬称を付ける文化がある。お粥に「さん」を付けるようにイモにも「さん」、アメには「ちゃん」そしてハイヒールリンゴには「姉さん」が付くのは常識。このさん付け文化はコテコテ大阪弁の部類に入るので主に今のオバチャン世代がよく遣う。私の世代くらいになると笑いを狙ってる人しか遣わないし、実際私も“お粥さん”以前は遣ったことがないはず。
ではなぜ「お粥さん」がさらりと出てしまったのかというと、「アンタ最近ちゃんとご飯食べてんのん?調子悪いんやったらお粥さん食べて温こうしとかなアカンで」と前日の夜コテコテ大阪弁のオカンと交わした電話が原因であることはほぼ間違いない。電話の最中に「お粥さんてコテコテやなあ」と返したにもかかわらずポロッと口に出してしまったのだ。
さん付け文化はコテコテ度合い。しかし東京人にとっては「カワイさアピール」になってしまった。怖い。
ということは「顔怖い奴がお粥にさん付けやがった!カワイイキャラ作りだ(笑)」になってしまったのだろう。
いわゆるヤンキーが子犬を撫でるといい人に見える理論だ。やはりお粥さんは不覚だった。
東京で「~さん」に近い言葉はあるのだろうか。
合コンの席で一度「ウーロン茶さん」と言う宇宙から来たような女が侵略して来たがそんな風に映ってしまうのだろうか。
顔からしてカワイイキャラにはなれない私ではあるが、いつかパンケーキを並んで食べる日が来たら「おパンさん」とコテコテ大阪人風に呼んでやろう。
しかたかし ライター・コピーライター・歌い手(バンド活動休止中)。大阪生まれ。大阪芸術大学にて写真を専攻した後に上京しなぜかコピーライターとなって約10年。現在は都内広告プロダクションに勤務しながら、大阪人からみた東京、また東京在住の人からみた大阪人について研究。
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