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なぜショッカーは「イー!」と言うのか。仮面ライダーウィザード。

インフォシーク / 2013年4月23日 13時30分

男性が女性に踏みつけられたり、女性が男性に自分の噛んでいたガムをおしつけられたり、悪意を持って頭をおさえつけられたり、激しくいやらしく人間関係が表現された第32話。

ショッカーといえば、「イー!」である。

他に言葉は発さない。賛成も反対も驚きもヤラレても「イー!」である。

「イー!」それ以外は発さない奴ら。それ以外は許されない奴ら。もしも意思を伝えようときは、なぜか身振り手振りに徹する奴ら。

彼らの「イー!」には強い意志よりも悲しみを感じる。彼らも過去には輝かしい青春を夢見たのではないか、家族に苦労をかけて都会に出てきて、一発当てて親孝行をしようと思ったのではないか。しかし彼らの青春は、ショッカーに勧誘されたときから、ガラリと変わってしまう。当初は、悪役の親分の強さと自信満々な態度に「漢」を見て、ついて行くと決めたのかもしれない。

しかしいつの間にか、格好を制約され、ポーズを制約され、顔を隠され、言葉を制約され、彼らは右とも左とも飛び出ること許されず、一兵隊として常にみんなと同じ行動をとっていたのである。成果をあげれば「よくやった」と言われることはあるが決して実に褒めてはおらず、ミスをしたらケチョンケチョン。親分がどれだけくだらないことを言っても腹がよじれるくらいに笑う演技をし、親分がどれだけつまらない成果を自慢してきても手が痛くなるほど拍手して褒めたたえ、どれだけ意味の無い命令をしてきても命を張って行動するしかない。

そう、親分の言うことは絶対だが、親分に愛は無い。

それでも彼らは「イー!」と言い続ける。なぜなのか。

きっと親分の異常な支配欲と敵わない権力に、考えることを放棄したからなのである。もはや習慣として思考していないのだ。

それをイイコトに、親分はさらに尋常ではない支配を目論む。おそらくもともとは小心者なのかもしくは欲の権化なのか、1ミリのズレも許さない。親分の求める統一感、それはまったくもって、愛やピースやロックンロールとは正反対である。

ショッカー帝国は決して人間が真似してはいけないのだ。真似したときには戦争となるだろう。まったくもって悪らしい悪である。

なぜ、こんなことを書いたのか。それは4月21日に見た仮面ライダーウィザード第32話に関係している。

まず、ウィザードの悪役で驚くのは、統一感がまるで無いことである。基本、みんな、自由に闘う。もはや時代は悪役にすら統一感を求めない時代なのだ。なるほど。

しかしこれは、現実社会的には正しいが、ストーリーとしてはバラツキが目立つことになる。支配欲及び思考を停止した集団と闘う、あくまで個人として正義を貫く仮面ライダー、という図式であることがセオリーかと思いきや、敵が自由に行動するので悪の圧倒的な全体支配的強さを感じないのである。

まぁ、言うなれば、「なんか勝てそうだなぁ」なんて思ってしまう。

第32話では、悪の最高ボスは、なんと唯一意志を持って従っていた幹部怪人を裏切る。最も信頼できない怪人をその幹部怪人の上司にあてがってしまうのだ。現場感が無いというレベルではない、な~んも考えていないか、ひたすら自分の欲望に忠実に行動しているだけである。人間を絶望させる役割を果たしてきた幹部怪人の絶望感ったら、そりゃ無い。かわいそうすぎた。

笑いごとではない。あなたの身近にもあるんではないか。ショッカーの生産に明け暮れる会社や上司、いざとなったら自分の欲望に忠実に、簡単に裏切り裏切った意識すら無い上司、本当はまるで愛が無い、ピースともロックンロールからもほど遠い、そんな環境や人間関係が。

断言するが、支配する側からすると、ショッカー的支配が一番簡単だ。

心までは従っていない、と思っていても、その実、習慣化してこの言葉を発していないことを心から祈る。

「イー!」

【バックナンバー】仮面ライダー徒然草はこちら

ガッケンター
1973年1月生まれ。芸術家。ライター。芸術活動のかたわら、仲間と協力してゆるゆる映画応援サイト「ガッケンターサイト」の運営や、映画監督や俳優もゲスト出演する「ガッケンターTV」(インターネット)の製作をしている。

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