機械なのか、人間なのか。仮面ライダーウィザード。
インフォシーク / 2013年5月28日 17時30分
17~18年ほど前、たまたま放火の現場に出くわしてしまった。
と言っても犯人を目撃したわけではないのだが、22~23歳だった私は悩み多き青春特有あぁ今夜も眠れません理由もなく状況におちいって、深夜3時頃にコンビニへ向かった。買い物がしたくてコンビニに行ったのではない。ただ寂しかったのだ。誰も歩いていない夜道の先で電飾看板がひとつだけ、からかうようにチロチロと点滅していた。
おかしいと思ったのは、その電飾看板の輝きがどんどん大きくなっていったからである。
「あれ、そういえばあんなところに看板あったっけ? …いや、あれは…火だ! か、火事だ!」
気づき慌てて駆け寄ると、メラメラと燃えた1メートル20センチほどのダンボールが美容室の雨どいに故意的に突っ込まれていた。携帯電話なんぞ普及していない時代である。指先でプッシュして急いで誰かに連絡、なんて発想は存在しない時代。私がなんとかしなくては…! と思った。決意してダンボールの下部、唯一燃えていない数センチ四方を指先でつまんで、イチかバチか道路に向かって思いきり投げた。炎は雨どいからズリッとはずれて、ボトッと壁からわずか数センチ離れたところに落ちた。本格的な火事になるまでに少しだけ時間の猶予ができたので、私はバタバタとコンビニに駆け込み消防車を呼んでもらったのだった。
消火が終わり、やや焦げた現場であのとき私がぼんやり考えたことは、自分はけっこう無意識にそれでも的確に大胆な行動をしたなぁ、ということだった。それから少しずつ、私は眠れない夜という状況が打破されていったような記憶がある。
5月26日に仮面ライダーウィザード第37話を見た。放火の話で、マイナス思考、心の支え唯一の友人であるペットの九官鳥を持ち歩くような気の弱い男が、放火犯と間違えられ追われる展開だ。仮面ライダーウィザードの仲間である凛子と瞬平は、彼が犯人ではないと信じ、行動を共にする。
しかし私は、その凛子や瞬平が九官鳥男を犯人ではない、と信じるに至ったところに、違和感があった。ドラマの中の九官鳥男のセリフは、こうだ。
「僕はなんてダメな人間なんだ」
「いつもそうなんです。気が弱くてだまされやすくて、そのせいでいろんな人にだまされちゃって」
「どうして僕ばかり、こんな目に遭わなくてはいけないんだ」
「絶望だ!」
彼の発言だけで判断すると…むしろ放火しそうだ。
マイナスな言葉ばかり発する九官鳥男に、凛子は感情を爆発させて怒鳴る。
「いいかげんにしろ! 黙って聞いてれば、簡単に絶望しまくってんじゃないわよ!」
「なんでもかんでも人が助けてくれると思ったら大間違いよ!」
正論だ。しかし九官鳥にしか友情を育めない気の弱い男は、怒鳴られても気持ちが前向きになったようには見えなかった。まぁ、そりゃそうだ。それくらいで変わるなら、今までの人生でとっくに変われたチャンスがあっただろう。
結局、彼がそれでも少しだけ前向きになったのは、瞬平から「ボクたちは味方です。一緒に無実を証明してみせましょうよ」と手を握られたときであった。
繊細な時代である。なぜにこういう時代なのか。チャップリンは映画「独裁者」の台詞にて、『人類はスピードによって自身を孤立させ、機械によって貧富を作り、知識によって懐疑的になった』『考えすぎて、感情が無く、人間性を失った。私たちには人類愛が必要だ。』という、(まぁ、ざっくりと書いたが)このような主旨を語っている。
ふと思う。スマホだのネットだのと便利になった今の時代に、もしも私の目の前に炎に燃えたダンボールがあったら。やはり今でも、そのダンボールを思いきり道路に投げるだろうか。
ただ炎を見つけて、無感情にスマホで緊急電話をするだけではないか。
便利になればなるほど、逆に人間らしさを意識する気持ちのある時代を目指すべきなのかもしれない。と、仮面ライダーウィザードを見ながら思った。
九官鳥やパソコンが友人では、やっぱりちょっと寂しいのだ。
※追伸。
先日、超話題作に挑む友人の映画監督の応援のために、ちょっとだけ撮影所を訪れました。撮影所は人間らしさがいまだ剥き出しな、アナログで素敵な世界です。片隅に、ウィザードのドーナツ屋さんの車も駐車していました。然るべきタイミングが来たらそのときのことを記事に書きたいと思いますが、映画や特撮ってやっぱり素晴らしいな、と思いました。
1973年1月生まれ。芸術家。ライター。芸術活動のかたわら、仲間と協力してゆるゆる映画応援サイト「ガッケンターサイト」の運営や、映画監督や俳優もゲスト出演する「ガッケンターTV」(インターネット)の製作をしている。
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