名は面白さを表す ～1分でわかる大阪人の言い分～

大阪の改札口は年季の入った、渋い駅が多い

大阪は、オリジナリティ溢れる街だ。

人それぞれの個性もさることながら、どでかい看板で賑わう街並みも粉モンで支配する食文化も個性。

そして今回東京人にご紹介したいのは、ネーミングセンス。

つい先日、友人Mの結婚式に参列するため大阪へ向かった。今年の年末年始以来の大阪。たった5ヵ月弱での大阪だったが、とても里帰りしやすく変わっていた。

それは、3月23日に交通系ICカード乗車券が全国相互利用可能になったのだ。

「交通系ICカード乗車券」とは、改札口でタッチすればスムーズに通り抜けられるあのカード。東京ではJR東日本などで使える『Suica（スイカ）』と首都圏の鉄道やバスで使える『PASMO（パスモ）』がある。

どちらの沿線でも使うことができるが、大阪では使うことができなかった。そのため大阪で電車に乗る際はわざわざ切符を買うか、大阪用のICカードを作らなければならなかったが、これからは全国どこでも使える。

ということは大阪人も東京でスムーズに観光できるわけだ。

東京人は大阪の交通系ICカード乗車券の名称をご存じだろうか。

東京の『Suica』や『PASMO』に対し大阪では、JR西日本版の『ICOCA（イコカ）』とその他公共交通機関版の『PiTaPa（ピタパ）』だ。『ICOCA』は関西弁の「行こか」から、『PiTaPa』は「ピタッとタッチで、パッと通れる」が由来である。

このように、大阪では横文字の中に関西弁を取り入れたネーミングがあたりまえのように存在している。

東京で生まれた商品の名前がどれも悪いとは言わない。

ただ、舶来物感をブリブリに漂わせたがる名前ばかりでその商品の誕生秘話を知らない限り「えっ？これ東京生まれの商品やったんや」と錯覚してしまう。

あとは当たり障りのない「輝く未来をイメージしました」とかいって、『シャイン・アライブ』みたいな「なんやそれ」感があったり、新しい街並みを『スーパー・ストリート』みたいな「まんまやん」感が多く、平均点狙いが目立つ。

大阪はただ単に「カッコイイでしょ」な名前では満足しない。

プロバスケットボールのチーム名が恵比寿様の大阪弁から『大阪エヴェッサ』（『京都ハンナリーズ』もすごいけど、選手がはんなりしたらアカンのでは？）、以前吉本興業が経営していたディスコが“銭でっせ”から『Deese Jenny（デッセ・ジェニー）』といった、ユーモアとパンチ、親近感という名の関西弁を混ぜ込んでいる。

100点の個性だ。

そういえば私のご先祖様がお眠りになる墓の近くに構えるオバチャン洋服店が『シャレヤーン』なのはいかにも大阪っぽい0点の中の100点といえる。

大阪人はオバチャンを中心に新しい文化に異常な疑いを持つ傾向がある。

昔から使っている物への愛着が強い人種。

ICカード導入時もまた、否定的な声が多く挙がっただろう。

しかし、大阪人の心を鷲掴みにしたであろうネーミングが解決してくれている。

「アッチの道ブワァ～と行ってグワァ～と曲がってシュッと行ったらソコや。ほな行こか。」と道案内をしてきた擬態語大好き大阪人に受け入れられるために、大阪らしい名称を創ったコピーライターはいい仕事をしたなあとつくづく思う。

先日、梅田に新しい大型複合施設『グランフロント大阪』がオープンした。ファッション、インテリア、ビューティ、そしてフードの計266店が集まっている。

そんな巨大な施設に一般公開に先駆けて関係者にお披露目するレセプションパーティなるものに知人がお呼ばれされた。

「どうやった？」と聞くと知人は一言「なんか、東京みたいやったわ」と言う。

大阪人が使う“東京みたい”とは「すまし顔でスタイリッシュ」「ある程度金持っていないと入りづらい雰囲気」基本的にこの辺りを指すと思われる。

東京に対する偏見は置いといて、フランクな匂いがしないというのは、施設のコンセプトにそう思ったのかも知れないが、私はむしろ『グランフロント大阪』という特に捻りナシな名称が知人とフィットしなかったのだと推測した。

たしかに平均点な名称。

大阪人には物足りない様な気がするなあ、と現地を散歩すると、グランフロント大阪と梅田の街をつなぐ交通サービスの看板が目に入ってきた。

“梅田をぐるっと巡る”から生まれた『UMEGLE（うめぐる）』。

大阪生まれの新名所に強いシンパシーを感じ、安心して東京へ向かった。

鹿タカシ
しかたかし　ライター・コピーライター・歌い手（バンド活動休止中）。大阪生まれ。大阪芸術大学にて写真を専攻した後に上京しなぜかコピーライターとなって約10年。現在は都内広告プロダクションに勤務しながら、大阪人からみた東京、また東京在住の人からみた大阪人について研究。