リバウンドを制する？！ 仮面ライダーウィザード

魔法を駆使するライダー、仮面ライダーウィザード。最終回が近い。

誰もが一撃で人生観を変えるような言葉に出会ったことがあるはずだ。

私の場合、ザ・ブルー・ハーツの歌詞との出会いが強烈だった。リンダリンダの「決して負けない強い力を僕はひとつだけ持つ」という歌詞を知った夜は眠れなくなったし、青空の「生まれたところや皮膚や目の色でいったいこの僕のなにがわかるというのだろう」という歌詞には全面的に打ちひしがれた。

他にも映画ならチャップリンの「独裁者」のラストシーンのセリフに心を揺さぶられ、その影響なのかはわからないが恐怖による全体圧力や全体同調のようなものに自然と嫌悪感を抱くようにもなっていった。

マンガ「スラムダンク」も名言が多いのだが、ボロ負けになりそうな試合において安西先生が主人公の桜木にリバウンドを指示するシーン。第27巻だ。安西先生は桜木をベンチに呼んで自分のプレイをイメージさせた上で伝える。リバウンドをとれば、相手にとられてしまうはずのマイナス2点が無くなりこちらにプラス2点が入る。そこで桜木が叫ぶ。

「4点分の働きってコトか！」

バスケットボールは1本のシュートが2点である。しかしこの計算では4点なのだ。バスケットボールについてまるで詳しくなかった私は、この考え方が人生論にも見えて震えた。個人的な話だが、当時NBAで絶対的リバウンド王であったデニス・ロッドマンが大好きになったのはこのシーンの影響だった。単純すぎるが。

さてさて、ようやく仮面ライダーウィザードの話である。ストレートに申すが昨今の仮面ライダーウィザード、謎が多すぎて話がわからなくなってきている。

悪者のボス・ワイズマンは怪人を増やしたい。その動きを整理すると、

◇怪人の製造工程　…　特定の人間を見つける → 絶望に追い込む → すると怪人に変身する
◇怪人の製造担当　…　下っ端怪人。特定の人間を徹底的に追い込む役目。

少し補足するが、仮面ライダーウィザードの悪役は悪特有の恐怖全体支配という世界ではなく、個人個人を追い込む傾向にある。

よって仮面ライダーウィザードは、追い込まれる個人を助けるために闘っている。結果的に下っ端怪人はウィザードにやっつけられてしまう。

ここである！ ここが謎をさらに難解にしているポイントのひとつでもあるのだ。

全体恐怖と個人恐怖の連動性については語らないが、言いたいことは1匹の怪人を製造するために1匹の怪人を送り込んで、結果ウィザードにやっつけられていることである。つまり、

◇目標　…　1匹増
◇進捗　…　1匹送り込む　→　やられる
◇結果　…　2匹減

スラムダンクでいうところの4点分の失点ではないか！

ワイズマンは早くここに気がついた方がいい。算数的に見てもいつも怪人を1匹減らされているのだから、怪人全体数は着実に減っているはずだ！ 怪人の損益分岐点は一体どうなっているのか？！！

なにやってんだ、ワイズマン！ リバウンドを制するのだ！

ちなみに、さらにさらに話をややこしくしているのは、絶望に追い込まれたら怪人になってしまうのに、その人間がもしも追い込まれても精神力で絶望を乗り越えた場合は、裏返って仮面ライダーになる資格を得られる、ということである。

え～っとですね…

Q.「怪人に追い込まれて、あなたは絶望しましたか？」

YES → あなたは怪人になりました

NO → あなたは仮面ライダーへの道を手に入れました

こういうことです。

さらにさらにさらにややこしいのは、ワイズマンが怪人増産計画を指揮しているのと同様に、なんと仮面ライダー増産計画を指揮している者もいるということだ。白い魔法使いという奴なのだが、この魔法使いがけっこう問題児である。やり方が自分勝手で、絶望に打ち勝って仮面ライダーの資格を得たけれど、仮面ライダーにはなりたくない、と意思表示した者まで力ずくで仮面ライダーにしようとするのだ！

この姿勢からは「オレが正しい！ 正しいからなにやっても良い！」くらいの勘違いっぷりが見られて、悪役以上に悪党の可能性が出ている。

仮面ライダーウィザードはこのへんの諸事情が入り乱れて話がややこしいのである。まぁしかし振り返ってみると、このような事態は社会にもきっとあるのである。仮面ライダーウィザード、これは正義対悪ではなく、もっと人間の汚さに似た話なのかもしれない。

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ガッケンター
1973年1月生まれ。芸術家。ライター。芸術活動のかたわら、仲間と協力してゆるゆる映画応援サイト「ガッケンターサイト」の運営や、映画監督や俳優もゲスト出演する「ガッケンターＴＶ」（インターネット）の製作をしている。