命と笑顔と仮面ライダーウィザード。
インフォシーク / 2013年7月23日 17時30分
昔、警備員のアルバイトをしていたときに、目の前で人が亡くなったことがある。15年ほど前の話だ。
大きな施設で待機役を担っていた私は、緊急事態を意味するベルに大急ぎで出動した。発信元の部屋に飛び込むと、そこでは飲食会が行われていたらしく、テーブルにはお酒と食事が並んでいたが、宴の時間は完全に止まっており、床の上に男性が倒れていた。周囲にいた数名の方々はどうしたらいいのか事態を飲み込めず、コップを持ったまま呆然とたたずんでいる。「マズイ」と思った私はすぐさま救急車を要請した。
予想よりも早く救急隊員が到着しテキパキとした処置が始まったが、床に倒れていた方は確実に死へ向かっているようだった。
応援に来てくれた年輩警備員の指示のもと、私は様態が深刻になっていく男性の状況をトランシーバーで本部へ連絡することになった。「死」へのスピードが早い。報告は1分ごと、場合によっては数十秒ごとになった。
「○時○分、人工呼吸器開始」
「○時○分、○○○を装着」
「○時○分、○○を開始」
…
それは死にゆく人を実況しているようなものだった。
その方は亡くなった。私はその事実も、リアルタイムで、間違いのないように報告したのだった。
「○時○分、亡くなられたとのことです」
人はいつ死ぬかわからない。当時の私にだってすでに亡くなった何人もの友達がいて、それは病気や拳銃や色々な形であったが、そのたびに命を学んできたつもりだった。が、素性も全く知らない方が目の前で亡くなり、その状況をリアルタイムに報告するという事態は、特殊な形で改めて命のあっけなさを知ったのだった。
話はグッと飛ぶ。家族ができてそれなりに年月が経った頃、「もしかしたら私は、このまま死んでいくのじゃなかろうか」と考えるような出来事があった。今、死んでしまってはマズイと思いながら、そうなったときのために私は自分が本当に言いたいことをごくごく自然にノートに書きとめてみた。
全てが家族へ向けたものだった。愛していることを書き、死んでしまったら本当にごめんと書き、そしてこんなことを書いた。
「ほんとにつらくても、笑ってほしい。笑えばなんとかなるから。信じられないかもしれないけれど、笑えばなんとかなるから。いつもパパは近くで見ているから」
そうか、オレは本当はこんなことを考えていたのか。自分自身が書いたことに驚き、若き頃に感じた「命」と大事なものを背負ってから考える「命」は随分と違うんだな、と思った。若い頃は「命」を「感じる」ように捉えていたが、今では「命」を「伝える」という関わり方をしているのだ。
仮面ライダーウィザードを見たことがあるだろうか。主人公のソウマハルトは小学生のときに両親を亡くしている。死に際の両親は、幼きハルトにこう伝える。
「あなたが生きていることが、私たちの最後の希望」
この言葉を裏切らないために、ソウマハルトはグレることもなければ諦めることもなく、大人になっても前向きに生き続けている。ソウマハルトは「命」を「感じ」とり、親はソウマハルトに「命」を「伝えた」のだ。
ここはすごく大事なところだと思う。
大概の大人が、親からのこのメッセージを受け取れないまま成長してしまう。そうして自分に子供ができて、ようやく少しずつ気づき始めるのだ。伝える側としてはむなしいことかもしれない。しかしそれでも、親は「伝える」べきだと仮面ライダーウィザードを見ながら、そんなことを思う。
イヤな事件が多い。命を命と思っていない事件が多いし、心が成熟していないかのような事件も多い。
親は「伝える」ことを怠っていないか。子供に「感じる」場面を創っているか。子供は「伝える」側になるための成長を踏んでいるか。
仮面ライダーウィザード。今はソウマハルトが両親を亡くしたときの小学校の担任の先生が登場していて、なかなか面白く考えさせられる。もうすぐ最終回であり、ここからさらに盛り上がっていくのだろう。楽しみである。
個人的には、ソウマハルトやヒロインがもっと笑ってくれると嬉しいのだが…ちなみに第45話(来週)のタイトルは「笑顔は胸に」。期待してみよう。
1973年1月生まれ。芸術家。ライター。芸術活動のかたわら、仲間と協力してゆるゆる映画応援サイト「ガッケンターサイト」の運営や、映画監督や俳優もゲスト出演する「ガッケンターTV」(インターネット)の製作をしている。
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