東京人の恋バナは話が弾まない ～1分でわかる大阪人の言い分～

大阪・千日前

夏はいつでも冷えに冷えたビールが飲みたい。

会社を出る時間が23時を過ぎていても、終電までの「1時間1本勝負、どう？」と誘いが来れば、そそのかされ、ついつい流され、飲みに出かける機会が増える。

そんな即席飲み会が連夜なこの頃、最近やたら広がる会話がある。恋バナ。恋愛にまつわるエトセトラな話だ。恋愛への欲求が高まっていくのもきっと、夏のせい。

彼氏彼女いるいないに関わらず「さっきカワイイ人がいた！」そんな一目惚れしただけの件もあれば、彼氏のノロケ話みたいなのもいけしゃあしゃあと語る人だっている。

「ああそりゃあよかったねはいはい」と空気のような返しを送ると「いやっ、でも、昔の彼氏はこういう所に連れて行ってくれた」と、まだまだ満足してませんぜなポーズを構えてくる。

恋人がいない人は欲求不満めいたことも。「そうなんや大変やねえ」など白目を剥きながら相槌を打ったときに思った。いやちょっと待てよ。異性間で欲求不満を宣言してきたんやから、これって、もしかして、アピール、なんじゃ、、、と抱きたくもなるが、そんな期待が高まる隙も無く「全く興味ないですよ」と鋭いレシーブを浴び、友人関係の垣根を取り払うどころかどんどん高くなっていく。

こういった１時間で詰め込んだ恋バナダイジェスト版はとても面白い。だが、これらの席で最近、東京人の知人から頻繁に訊かれることがある。「鹿さんって、結婚願望ないんですか？」今まで訊かれなかった質問。第三者が私をおっさんと認めた瞬間だろう。

先日、20代東京女子2名（ともに彼氏ナシ、私への興味ナシ）と飲んでいた際に同様の質問が飛んで来たので、最近よく訊かれるんやけどありそうに見える？と逆質問。

すると「付き合ってた人の話するとき、楽しそうじゃないですか」と返された。そのとき、東京人に抱いていた疑問を思い出した。

なぜ東京人は、昔の恋愛話を隠すのだろう。というか笑いに変えられないのだろう。

かつての恋人とは様々な事情で別れた相手。女子2名には楽しく聞こえ、私は恋愛依存症なんだと思っていたらしい。だが毒にも薬にもならないかつてのノロケ話などした憶えはない。ショックだった内容をネタに変えているだけだ。

ではなぜネタに変える必要があるか。

それは、大阪人にとって過去の苦い経験はネタとしてエピソードトークを披露し、誰かを笑わせることで成仏できると考えるからだ。

恋愛に限らず仕事、学校、家族間などなんでも成仏させているが、恋愛はモチーフ自体が千差万別なのでトークが弾む。

最近では「あるあるネタ」として東京でもカジュアルに交わされるようになった、エピソードトーク。

だが、東京人のだいたいが「こんなところがいい子だったんですよ」と過去を褒めるか「あぁ、いろいろありました。辛かったです…例えば…」とこっちが凹む重い話をしてくる。

あの、もうちょっと面白く話作れんものかね？自虐に走れんの？と甚だ疑問だ。

かつて「昔の彼女の話するのって、失礼じゃないですか。」と言う東京人がいた。どこが失礼な話やねん。バッシングじゃないことも解らないアホなのだろう。むしろ、こちとら恋愛依存症扱いをされた身分、東京人頑張れよと言いたい。

「因数分解していると勃起する人とはテスト前に困った」「120キロの彼氏のサイズに合うポロシャツが無くて困った挙句ホームセンターでドカジャン買った」「グループサウンズ好きな彼女の影響で柄モノのシャツとトンボメガネでキメていた2年間友達が出来なかった」

全て、大阪人から聞いた話だ。

東京で知り合った知人から、過去の傷を成仏させる瞬間を見ることはほぼない。

結果私だけが喋ることになる席では「恋愛ベタ」扱いを受ける。イジってくれる人は有難いのでリアクションを返すが、それすらなく、陰で（鹿って酷いんだよね）など言う

世界中の給湯室を知り尽くしたような東京人には参る。マジメか。

私はこの夏も「弁当を作ってくれていた彼女がタイ料理ばかりで、デスクでガパオを食べている私を見た人から『そぼろごはんでお腹を満たすかわいそうな子』と心配された」話をし続けるが。

鹿タカシ
しかたかし　ライター・コピーライター・歌い手（バンド活動休止中）。大阪生まれ。大阪芸術大学にて写真を専攻した後に上京しなぜかコピーライターとなって約10年。現在は都内広告プロダクションに勤務しながら、大阪人からみた東京、また東京在住の人からみた大阪人について研究。