美術館にいた半沢直樹好き東京人 ~1分でわかる大阪人の言い分~
インフォシーク / 2013年9月18日 17時30分
東京に来てよかったと思う大半はアートにある。有名作家の回顧展がパーフェクトな会場で開かれ、次世代を担うアーティストは意識の高いギャラリーで発表している。至る所でアートに囲まれ胸騒ぎっぱなしな街、それが東京だ。
ある日曜日の夕方、ドイツ現代写真を代表する写真家『アンドレアス・グルスキー展(国立新美術館)』に行ってきた。
日本初個展の会場は書物でしか見たことのなかった作品群が巨大なプリントで並び、80年代から現在まで、年代とともに変化していく作家性を楽しませてもらった。
が、客がダメだった。東京都市部の美術館はデートスポットだったのだ。
国立新美術館は東京メトロ千代田線乃木坂駅に直結し、六本木からも近い。週末に限ってかも知れないが見渡す限り若いカップルばかりで、アート鑑賞の場は夕食前の待合室のようだった。
六本木+アート=オシャレデート。そう着想するのはテレビ、雑誌、ネットなどのメディアに翻弄される、東京人の悪しき習慣だろう。
客を観察してみた。
大半の男はアートに感心を持っているようだが、「オレこんな趣味あるんだぜ」を振りかざすために来たご様子。無論鼻についたが、自称アート好きな男が選ぶ女は見た目を重視するようで、残念ながら美人が多かった。男に合わせてヨチヨチ歩き「すごーいすごーい」を連発するビッチ感は美人特権だ。男よりアートに詳しかったらプライドを傷付けてしまい誘われなかっただろう。
そんな「アート好きな俺」をアピールしたい東京人の集いにうんざりしかけていると、バカップルたちの会話があっちこっちから聞こえてくる。アートのアの字もないどころか、長電話の終盤レベルなのだ。
約433万ドルで落札されたことで有名な代表作『ライン川』の前では「ねぇねぇ、次のデートさぁ、川下り行こうよぅ」ときた。川の写真を見て川下りがしたい、と。はい。家で楽天トラベル見てて。
他の作品の前も凄い。巨大な風景写真の中で粒のように小さく写る人々が面白かったのか「ヒント、赤い服」「はい!見つけた!」なウォーリーを探せごっこ。
集合住宅を窓部分から撮影し、膨大な数に及ぶ暮らしの風景が写る『パリ・モンパルナス』では、何色のカーテンが好き、陽当たりのいい部屋が好きだ、とか。
極めつけは東京証券取引所を俯瞰から撮影した作品の前にいた馬鹿。黒スーツに身を包み殺伐とした日本の男達を切り取った前で男が味わい深く話し始める。
「半沢直樹ってさぁ………おもしろいよね?」遂にでた。テレビの話だ。イチャイチャの域を超えた。
感想を言う義務なんてないのだから黙ってじっくり楽しめばいいものを、作品の前でなにかを話す自分に酔いたいのだろう。もし裁判所の写真作品があったなら裏番組(行列のできる法律相談所)の話で切り出すに違いない。さらに、平静を装い耳を傾けると女は似た者だった。
「あたし、堺雅人大好き!」
「アシカがアッカンベーした写真でも見てかわいぃ~とでも言ってろやボケ!」と声を倍にして返したい気分になった。
このテの客を受け入れるデート産業は有名作家を日本に呼ぶための必要な捨て牌かも知れないが、大阪で同じようなデートをしたら「東京人てやっぱり鬱陶しいわ」と鼻摘み者扱いを受けることを憶えておくべきだ。
なぜなら大阪で信頼のおける美術館やギャラリーは都市部に構えてようとそこそこ敷居が高い。芸大生やアート好きな文化系が多く集い、真剣にアートと対峙する場。デートスポットではないしアートかぶれはすぐに目につく。御御足は好きだが必要ない。大阪のオバハンを筆頭に話し声が聞こえることも稀にあるが、空気みたいな馬鹿話はないだろう。
ちなみにグルスキー展、大阪・中之島の国立国際美術館でも行われる。開催は来年2月。どんだけ先やねんとツッコミたいが、大阪人のマナーを見せつけるいい機会になってほしい。
しかたかし ライター・コピーライター・歌い手(バンド活動休止中)。大阪生まれ。大阪芸術大学にて写真を専攻した後に上京しなぜかコピーライターとなって約10年。現在は都内広告プロダクションに勤務しながら、大阪人からみた東京、また東京在住の人からみた大阪人について研究。
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