<戒厳令下のタイ>街中は一見平穏だが、本当の危機はこれから始まる=反軍政のデモが拡大
インフォシーク / 2014年5月27日 9時15分
2014年5月27日現在、タイ国軍による実質的なクーデター、政権掌握から数日が経ち、バンコクの街は落ち着きを取り戻したかのように見える。しかし、軍政が敷かれたことによる報道管制、ネットでの言論統制への反発から、クーデターに反対するデモが戦勝記念塔で日に日に数を増やしてきている。
まず、お断りしておくが、本コラムは小さな危険を大きく見せて煽るような趣旨ではない。むしろ、潜んでいる危険を表にさらけ出し、無関係、不用心な方たちの警鐘としたいと思い、筆を執ってることをご承知おきいただきたい。
今回のクーデターは、結果だけ見ると、反政府デモ隊の思惑通りに見える。しかし、これまで何度となく反政府側からの要請をはねつけてきた軍が、今回動いた一つのきっかけは反政府デモ隊がルンピニ公園を出る際に、放送局を取り囲んだことに対しての危機感からではないだろうか。世界中どの国でもクーデターが起きるとまず放送局を抑える。これは情報源を掌握するという現代における基本的な戦略なのは、わたしのような素人でもわかる。
そして、プラユット陸軍司令官はギリギリまで、政府と反政府グループ双方の対話による解決を試みていた。政権掌握を発表する直前まで行なわれていた両派の会談は、妥協点を見出すことなく、物別れに終わった。このために仕方なく、軍が出てきた、というのが実質的なクーデターに至るストーリーだ。
このまま報道管制などせずに、穏やかに内容に注文をつけるくらいにしておけば良かったものを、いきなりの放送停止。さらには、ツイッターやフェイスブックへの言論統制と動いたことで、学生やジャーナリストなどが反発。さらに、そこに元反政府デモのリーダーが焚き付けて、反軍政デモが広がりつつある。これが今日までの動きだ。
権力に立ち向かうという構図は、他の国とも、これまでとも似ている。しかし、わたしは現在、これまで以上に危険な匂いを感じている。それは、この反軍政デモ隊に明確なリーダーがいないということだ。赤服であれ、黄服であれ、強力なリーダーがいたデモ活動にあっては、多少の混乱はあっても暴徒化することはまずない。それだけ統率が取れていたし、逆にリーダーが一度決断すると、2010年赤シャツ暴動の時のような事態にもなる。
今回、このまま強力な統率者がいないままに事態が進んでいくと、小さな小競り合いが大きく拡大して、一気に大暴動になりかねないという危険がある。
リーダーは煽動するのではなく、熱くなりがちな民衆のブレーキ役のほうが大きな役割がある。他の国ではどうなのかわからないが、タイでは間違いなく、こうした面がある。恐らく、今は警戒心だけではなくて、個々としての軍人たちへの敬意もあって、抑制が効いている。しかし、いったん何かの拍子に、ブレーキのないまま下り坂に入ってしまったら……。
ある欧米の学者は、タイ人を東洋のラテン民族と評している。その熱しやすさは、われわれ外国人も時に目にすることがある。
このような状況の中で、物見遊山の気分で、ジャーナリスト気取りで、現在もデモ隊に近づき、写真を撮っている人がいる。日本人に限ったことではないが、今回はこれまでより、大きな危険が潜んでいることを知っていてほしい。そして、ツイッターなどにアップされている兵士とのツーショットは、ある意味、軍のプロパガンダに乗っかった行為でもあると知るべきだろう。兵士は兵士なのだ。一度命令が下れば、容赦なくその銃口を水平にして引き金を引く。そのような状況で、クーデターに反対するタイの人々は、その意味では命がけの行為だ。その中にわけもわからない外国人は入るべきではない。
また、もしも不幸にも偶発的な事態に巻き込まれたらどうなるのだろう? 少しだけでも想像力を働かせてほしい。日本人観光客が軍とデモ隊の小競り合いに巻き込まれ、流れ弾に当たり重傷、あるいは死亡、そんなニュースが流れようものなら、日本からの観光客は最低でも向こう1年以上は激減するだろう。おりしも、タイから日本を訪れる観光客が倍増している中で、そんな事態に誰がなってほしいと望むのか?
わざわざそんな危ないところへ行かずとも、バンコクの観光名所は他にもたくさんある。バンコクに暮らす多くの日本人は、これまでとほとんど何も変わりなく働き、暮らしている。夜間外出禁止令のせいで、夜は不自由を強いられるかもしれないが、日中はすべてのショッピングセンターもアトラクションも営業している。
また、その夜の規制も、タイらしく、なし崩しになる気配を、すでに見せてきている。カオサン通りでは午後10時以降も平時と変わらずにバッグパッカーたちが闊歩してるのだ。
少し前までの反政府デモの時、いや、タクシン元首相が追い出されたころからずっと、この問題は、タイの問題であり、我々外国人がとやかく言うべきものでは決してない。
興味本位で近寄った結果、どうなるか。それはその一人の問題ではなく、強いてはその国とタイの観光業全体を左右する問題になってしまうのだ。特に日本人は、かつて、スマトラ沖地震での津波被害を受けたタイ南部プーケットに観光客として戻るまでに5~6年の歳月を要したという実例があるように、こうしたことへの回復が世界一遅いとも言われている。
わたしが初めてバンコクを訪れた1992年5月。王宮などでは軍隊が民衆に発砲していた。その結末は、王様が双方のリーダーを王宮に呼び仲裁をしたというものだった。その時、わたしと言えば、そんな歴史的大事件があったことなど、ほとんど知らずに旅行を続けていたのだ。危ないスポットを避ければ、今もこれまで通りの旅行も暮らしもできる。これぞアメージング・タイランドだ。そんな国でわざわざ危険に近寄るような事は絶対にやめてほしいものだ。
<お断り>
日々刻々と状況は変わります。ここに書いたことはいつの時でも念頭においてほしい事柄ではありますが、5月27日現在の状況において書いたことをご了承ください。
【執筆:そむちゃい吉田】
※記事提供:グローバルニュースアジア
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