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1枚の紙から、あらゆるものを作り出す―リメイク版『ペーパーマリオRPG』から振り返る“閉塞と転換の2000年代”

インサイド / 2024年6月8日 13時0分

5月23日にニンテンドースイッチ向けタイトルとして発売された『ペーパーマリオRPG』。これは2004年7月22日にゲームキューブ向けタイトルとして発売された同名作品のリメイク版です。


『マリオストーリー』(NINTENDO64向けに2000年発売)の実質的な続編である本作は、まるで飛び出し絵本のような世界観が特徴。マリオを含めた全てのキャラは、ペラペラの紙の上に書かれた絵として表現されています。


『ペーパーマリオRPG』は紙だからこそ、むしろ立体的な表現ができるということを証明した作品であり、また前作の『マリオストーリー』と共に“2000年代の方向性”を図らずも体現している点も見受けられます。これらが発売された当時の状況を振り返ってみましょう。


◆西暦2000年前後は「閉塞感の時代」


『マリオストーリー』が発売された西暦2000年は、日本にとっては決して良い時代ではありませんでした。


バブル崩壊後の不景気が長引き、それまで日本経済を牽引していた銀行や証券会社が次々と経営破綻を遂げます。1998年9月に日本銀行が発行した金融経済月報には、このようなことが書かれています。



わが国の経済情勢は全般に悪化を続けている。


最終需要面をみると、公共投資は下げ止まり傾向にあり、純輸出(輸出−輸入)も、輸入の減少を主因に、このところ増加している。その一方で、設備投資の大幅な減少が続いており、住宅投資も一段と減少している。個人消費については、特別減税の実施にもかかわらず、なお回復が確認されない状態が続いている。


金融経済日報1998年9月-日本銀行



上は文章の冒頭部分に過ぎませんが、ネガティブな言葉がズラリと並んでいます。この時代に大学を卒業した世代は、いわゆる「氷河期世代」。今とは違って就職そのものが難しく、せっかく大学を卒業したのにフリーターになるしかなかった……という人も珍しくありませんでした。


大人たちは目に見えて分かるほどの閉塞感を抱え、そしてその閉塞感から自力で抜け出す手段を持っていなかったことは、当時中学生だった筆者にもよく理解できました。


今までのやり方では、もはや通用しません。言われたものをただただ大量生産すればそれが飛ぶように売れた時代は、東西冷戦の終結と共に終わりました。来たる21世紀は、自分自身が創意工夫を凝らして新しいモノやコトを考える必要があります。


折り紙や飛び出し絵本といった紙工作は、各人の発想であらゆるものを作り出すことができます。これからの時代に求められるのは、個性に基づく発想力。2000年前後の日本人は、「意識の変革」という極めて重大なターニングポイントに立っていたのです。


◆「紙の可能性」は無限大


『ペーパーマリオRPG』の世界観、そしてゲーム性は徹頭徹尾「紙の特性」を前提にしています。


何の加工も施されていない紙は、それ1枚では奥行きが全くありません。しかし、頭の中の設計図を基に折り曲げて造形を構築し、さらにその造形物を複数個組み合わせることによって、一軒家の模型すらも作り上げてしまうことができます。そして、そんな紙製の一軒家をたくさん集めればゴロツキタウンのような町になります。


マリオ自身も、時として飛行機になったり隙間に入ったりしてダンジョンを攻略していきます。今まで進めなかった場所も、形を変えるだけで楽々行けるように。「付箋のようにめくれる壁」や「ハンマーの衝撃で倒れる背景」なども、世界観のベースが紙だからこその演出。「紙を上手く使えばこんなことができるんだよ!」と、マリオは当時の子供たちに語りかけたのでした。


◆紙工作への愛が伝わる作品


20年前に『ペーパーマリオRPG』を遊んでいた子供たちの中には、「ゲームをプレイするだけじゃなくて自分でゴロツキタウンを作ってみよう!」と考えた子もいるのでは……と筆者はおぼろげに考えています。


実際、今回のリメイク版をプレイする最中に「ボール紙と糊とハサミがあれば、ゴロツキタウンのジオラマを作ることができるんじゃないか?」と思ってしまったことが何度かありました。そう思わせるほどの「手作り感」がこの作品にはある、ということでもあります。


もしかしたら、『ペーパーマリオRPG』の開発陣は、子供たちに紙工作への関心と意欲を掻き立てる目的でこの作品を作ったのではないか……?


そう断定する根拠はもちろんありませんが、この作品は単に紙工作を設定の一部にしているだけではないということは感の鈍い筆者にも理解できます。少なくとも、紙工作そのものに対して並々ならぬ情熱を持っている人がゲーム開発に携わっている……と書いてしまっても問題はないでしょう。


『ペーパーマリオRPG』の中で筆者が一番大好きな場面は、マリオが宿屋のベッドに入って就寝するところです。このベッド、ボール紙でなくともそこら辺に落ちてるレシートとかで作れないか? と宿泊する度に思ってしまいます。そんな具合の「自分の手で再現できそうな世界観」が、今でも多くの人を虜にしていることは間違いありません。


◆マリオが予言した「21世紀半ばの光景」


20年前にマリオがくれたプレゼントは、「持続可能な開発」を実現する大きなヒントになっているのではと考えるのは筆者だけでしょうか。


身近にあるものを資材にして、自分の理想に沿った新しい世界を自分の手で作り出す。そして、その中でマリオのように冒険する。『ペーパーマリオRPG』の世界観は、「創意工夫が唯一無二の価値を持つ社会」を予言していたのかもしれません。


21世紀半ばを見据えた今だからこそ、『ペーパーマリオRPG』のリメイク版は極めて大きな意義を含んでいます。


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