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令和に“コマンド型ADV”は通用するのか? 『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』で、その真価に触れる【プレイレポ】

インサイド / 2024年8月29日 18時0分

もうじき8月が終わりを迎えますが、ゲーム業界の夏はまだまだ終わりません。今月は月末に話題作が集中しており、恐ろしい連続殺人事件に挑む『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』も、8月29日に発売されます。


本作は、ファミコン時代に始まったADVシリーズの最新作。久しぶりの復活に期待が高まる一方、久しぶりの完全復活に一抹の不安を感じる人も少なからずいます。


オーソドックスなコマンド型ADVは、この令和6年に通用するのか。その疑問と向き合うべく、発売日に先駆けて配信されている体験版をプレイし、本作の実体や手触りに迫ってみました。なお、今回は序盤(第2章)までの内容に基づくプレイレポとなります。


■『笑み男』がなぜ話題に?『ファミコン探偵倶楽部』の歴史と歩み


『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』の体験版について触れる前に、本シリーズを軽く紹介します。


まだ年号が“昭和”だった1988年に、今も名作として語り継がれている『ファミコン探偵倶楽部』の記念すべき1作目『消えた後継者』(ファミコン)が幕を上げ、華々しい活躍を見せました。


その翌年には、続編の『ファミコン探偵倶楽部PartII うしろに立つ少女』(ファミコン)が登場し、こちらも好評を博します。また1997年には、 スーパーファミコンのサテラビューに『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』が配信されたほか、リメイク版『うしろに立つ少女』(スーパーファミコン)を1998年に発売し、こちらも話題となりました。


しかし、以降の展開はかなり大人しくなり、ゲームボーイアドバンス向けに移植されたり、バーチャルコンソール版が配信された程度に留まりました。特にバーチャルコンソール版は、今はもう新規購入ができず、名作へのアクセス手段はひどく限られてしまいます。


その状況は、令和も3年目に突入した2021年に大きく変わりました。基本的なストーリーを引き継ぎつつも、グラフィックやUIなどを一新した1作目と2作目のリメイク版が、ニンテンドースイッチ向けに登場。大きく手を入れた作品としては、リメイク版『うしろに立つ少女』から数え、23年振りの新展開となりました。


ですが、シリーズの躍進はまだ終わりません。冒頭でもお伝えした通り、2024年8月29日に、『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』が発売されます。リメイクや移植ではない完全新作は、1997年の『雪に消えた過去』から数えて、実に27年越しの展開となります。


ファミコン時代から続く人気シリーズはいくつもありますが、27年もの時間を経て完全新作が作られるのは、非常に稀な事態です。文字通り夢のような現実に、ファンはもちろん多くのゲームユーザーにも驚きと衝撃を与えました。その話題作が、いよいよ発売を迎えようとしています。


■『笑み男』の幕開けに、“時代が追いついた”感を覚える


こうした背景を持つ『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』が、一体どのようなゲームに仕上がっているのか。気になる人も多いことでしょう。歴代作品を楽しませてもらった筆者にとっても、ライターという立場だけでなく、ひとりのファンとして非常に気になる作品です。


発売日が待ちきれずに体験版をダウンロードし、さっそく本作を立ち上げてみました。まずタイトル画面ですが、舞台であろう街並みを背景に、タイトルロゴをシンプルに配した作りになっており、全体的にシンプルです。


もちろん画像はきめ細かいものの、色数が抑えられているためか、どこかレトロな雰囲気が漂っています。そのため、筆者の勝手な私見ですが、どこかファミコン風なテイストも感じられました。


本作は推理系ADVなので、ストーリーの紹介がそのままネタバレに繋がりかねません。そのため、物語面については伏せておきますが、主人公=プレイヤーは「空木探偵事務所」に籍を置く探偵助手。デフォルトネームはなく、プレイヤーが入力した名前で物語が進みます。


プレイを開始して最初に実感したのは、展開の早さです。ADVに限った話ではありませんが、物語性の高いゲームの場合、主人公や主要人物の説明やその関係性、自分が置かれている立場などを最初に描写する作品も少なくありません。


しかし本作は、「空木探偵事務所」のドアをくぐり、所長の空木との会話や状況説明を交えたテキストウィンドウを11回見るだけで、事件が起きた遺体発見現場へと場面が切り替わります。つまり、最小ならボタンを11回押すだけで、物語の本筋である殺人事件に関わるという、実にスピーディな展開を遂げます。


一概に、物語の幕開けが短いほど素晴らしいとは言い切れません。設定や状況に即した前振りが必要な場合も、決して少なくないでしょう。一方で昨今は“タイパ”という言葉が定着するほど、時短が望まれている風潮もあります。


受け手側の興味を一刻も早く引くこと。この令和において、それは重要な戦略のひとつとなりました。ただし、『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』がこの風潮を敏感に察知し、現代風な演出を本作で新たに取り入れたのかと聞かれれば、それには「NO」と答えます。


というのも、1作目の『消えた後継者』(ファミコン版)では、「あなたは だれかに だきかかえられていた」という一文でゲームが始まり、開幕直後から急転直下。しかも、記憶を失っている状態で物語が幕を開けます。


シリーズ1作目の時点で、ゲーム開始直後に主人公が記憶喪失という“掴み”から始まった本シリーズ。この歩みを振り返れば、『笑み男』の展開の速さも付け焼刃ではなく、シリーズの特徴が本作で受け継がれた結果だと考える方が自然です。


“受け手側の興味を一刻も早く引く”という手法を、昭和の時点で実現させた『ファミコン探偵倶楽部』の先見性に、この令和でようやく時代が追い付いた……とも言えるでしょう。





■シンプルなコマンドADVに秘められた、間口の広さと丁寧な作り込み


こうしたスピーディさは、最序盤の展開だけに限りません。ゲーム全体の作りは王道的なコマンド型ADVなので、シンプルで誰もが戸惑うことなく操作できます。そのためゲーム進行も分かりやすく、操作面で行き詰まることはまずありません。


ロード時間も体感で気になるタイミングは見当たらず、場面展開も実にスムーズ。また、(少なくとも体験版の範囲では)特定の場所を頻繁に行き来するような捜査はなく、「全ての情報を集めたら次の場面に移る」という構成になっています。こまめな場所移動で時間を食うことがないため、ロード時間をストレスに感じる場面は皆無と言っていいほどです。


そして、ゲーム性の主軸となる“コマンドによる捜査”は、能動的なアクションは「移動する」「呼ぶ」「聞く」「見る・調べる」「携帯電話」「考える」と、分かりやすくまとめられています。このほかには、集めた情報を再確認できる「手帳を開く」や、ゲームを終える「捜査やめる」などがあります。


「聞く」を選ぶと、質問内容がさらに選択できまる場合もありますが、それも状況に即したものに絞られており、深く悩む必要はなし。何度も繰り返し「聞く」場面もあるものの、情報を全部出しきった後は「これ以上繰り返しても無駄っぽいな」という反応を見せてくれるので、見切りをつけやすい点もユーザーフレンドリーで助かります。


また、「見る・調べる」を選んだ後に、カーソルを動かして調べたい対象を絞り込む時、カーソルと対象物が重なると「対象の名前」が出ます。この名前表示があるおかげで、ADVにありがちな「ここに何かあるの? それともただの背景?」というジレンマから解放されます。


そして、こうしたゲームシステム側の配慮に加え、会話や捜査の流れをプレイヤーが掴みやすいようにテキストが構成されているように感じました。次に聞くべき質問や取るべき行動が予想しやすく、流れに乗っているだけなのに重要な情報を聞き出せたり、新たな事実を発見したりと、体験版の範囲だけでも探偵気分を手軽に味わえました。


その気持ちよさは、シナリオと演出のお手柄といえるでしょう。会話やテキストから次に注目すべき点へ誘導する手腕は、一見目立ちにくい要素ですが、こうしたADVゲームでは特に重要な要素です。本作は、そうした細かい配慮もしっかりと行き届いています。





■“シンプル”は“単調”にあらず! 細かな演出と節目の展開で「探偵気分」が盛り上がる


ゲームシステムとテキストによる巧みな誘導のおかげで、探偵気分に浸りながら速やかな展開を味わわせてくれる『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』(の体験版)。しかし、ゲーム自体がシンプルかといえば、細かい演出から推理系ADVとしての要所を押さえた作りまで揃っており、決して侮れません。


まず、グラフィックを含めたビジュアル面ですが、過度な演出は少なくとも序盤にはありません。しかし、キャラクターの立ち絵は名無しのモブであっても静止画ではなく、ボイスと連動する口パクはもちろん、ちょっとした動きが基本的につけられおり、シチュエーションによっては大きな動きを見せる場面も。


例えば、女子生徒との会話中に背後から教師に声をかけられると、生徒が振り返って手を振る立ち絵に差し替えられます。ちょっとした絵を省きたいなら、声をかける教師も立ち絵で並べたり、振り向く絵を出さずに一旦消したりと、いくらでも手はあるはず。しかし、細かな絵もしっかりと用意し、没入感を削がない丁寧な演出が行われています。


また遺体現場では、背景に指紋を採取する鑑識の人がいましたが、これも静止画ではなく常に動いており、視覚から入るほどよい情報量が没入感を促してくれます。この辺りはプレイヤー側の好みが分かれる向きもあるかと思いますが、「シンプルだが単調ではない」という的確なバランスだと感じました。


もうひとつ押さえておきたいポイントは、1日の終わりに訪れる推理パートです。パートといっても特別な要素ではなく、会話と選択肢を通して判明した事実をまとめるという流れになります。


特別な操作は求められず、集めた情報を正しく覚えていれば特に難しいことはありません。ですが、知ったかぶりでそれっぽい選択肢を選ぶと、「情報の整理、きちんとしていかなくちゃ」といった感じで、同僚にやんわりと釘を刺されてしまうことも。


もちろん的確な答えを選べば、「私も負けていられないわね」と賞賛してくれます。この正誤がゲーム全体にどのような影響を及ぼすのか、体験版の時点では分かりませんが、どうせならやっぱり褒められたいもの。名探偵気分は、こうした箇所でも味わえます。


また、こうしたやりとりがあるおかげで、物語や事件を改めて見つめ直すきっかけになります。そのおかげで理解度も自然と高まり、これも没入感に寄与する要素になっているのかもしれません。





■令和の「コマンド型ADV」は、思い出補正抜きで面白い!


今ではADVと一口にいっても、そのゲーム性は多岐に広がっています。物語や設定に即した専用のゲームシステムがあったりと、独自性で競い合う作品も数多く存在しています。


そうした現代のゲーム業界において、本作のようなオーソドックスなコマンドADVは、むしろ珍しい存在と言えるかもしれません。しかし、「オーソドックスだから古臭い」「シンプルなので単調」といったワードが必ずしも結び付くとは限らないと、他ならぬ『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』が証明しているように思いました。


近年のADV作品をも上回る早さで、本題である殺人事件に関わる迅速な展開。シンプルゆえにプレイヤーを選ばない間口の広さ。見栄え重視の派手さはなくとも、没入感を促す適切な演出とグラフィック。探偵気分を高めてくれる、細心のテキスト運び。節目ごとに捜査を振り返る仕組みで理解度を助ける構成など、全体的に見られる丁寧な作りに好感を覚えます。


ネタバレを考慮してストーリーそのものには触れませんでしたが、作中で起きた痛ましい事件と、類似性を帯びた都市伝説の交錯は、捜査に不可解な影を落とし、物語に奥深さを与えており、プレイ意欲に拍車をかけてくれました。


こうしたホラーと事件の両立は、『ファミコン探偵倶楽部』シリーズの定番的な要素で、歴代作品が高く評価されている点のひとつ。本作『笑み男』でも、「なぜ被害者が“笑顔が描かれた紙袋”を被らされているのか」という謎が都市伝説と絡み合い、奇怪で不気味な空気を醸し出すことに成功しています。


また、オートセーブのタイミングやスキップモードの対象、文章の表示速度、主人公の音声のON/OFFなど、個々人で好みが分かれるプレイ環境は、オプションで変更が可能。シリーズ従来の魅力を受け継ぎつつ、ストレスを軽減する配慮も必要十分です。


コマンド型ADVに「古臭さ」を感じる人もいるかもしれません。しかし、間口を広げながら、推理する楽しさを味わえる選択肢として、コマンド選択は今も有効だと改めて実感しました。


コマンドひとつを選ぶことも推理なのだと、久しぶりに思い出させてくれた『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』。体験版で高まったプレイ意欲がどんな体験に辿り着くのか、製品版への期待が募るばかりです。




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