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なぜ?リメイク発表で『ToHeart』が話題になる理由とは─現世代が知らない“四半世紀越えの名作”が与えた影響

インサイド / 2024年9月15日 11時0分

アクアプラスといえば、近年は『うたわれるもの』シリーズの展開が目立ちます。2000年代前半に始まったシリーズで、そのメインストーリーを連作で語ったほか、スマホ向けの『うたわれるもの ロストフラグ』、アクションRPGの『うたわれるもの斬』シリーズ、『モノクロームメビウス 刻ノ代贖』に『義賊探偵ノスリ』と、多数の関連作を生み出しています。


そのブランドとしての原点を辿っていくと、最も古い作品……いわば原点ともいえるのが、PS版『ToHeart』です。当時、PC向けに発売されていた同作品をPS向けにリリースする際、アクアプラスが扱う初タイトルとなりました。


■突然の『ToHeart』トレンド入りに沸く往年のファン


画像は、PS版『ToHeart』のパッケージ版です。

PC版『ToHeart』が発売されたのは1997年、PS版はその翌々年の1999年に登場しました。後にPS2版やPSP版も作られたものの、いずれも移植の範疇に留まっており、『ToHeart』の核となる部分は、PS版から数えても四半世紀も前に確立しています。


25年前のゲームなので、今50歳の人が発売直後に遊んだとしても、25歳の時です。40歳の人でも当時15歳になるため、このあたりがPS版を現役で遊んだぎりぎりの世代でしょう。


ゲームの進化は日進月歩。数年経てばガラッと変わることも珍しくありません。そんなめまぐるしいゲーム業界の中で、先日「『ToHeart』を新生させ、2025年に発売する」との発表が舞い込み、大きな話題となりました。


『ToHeart』は当時から名作と称えられていた恋愛ADVですが、25年という時間はどんなゲームでも色褪せてしまうほどの年月です。しかし『ToHeart』の再登場に反応したユーザーは数多く、新生の発表当時はX(旧Twitter)の各所が賑わい、トレンド入りするほどの盛り上がりを見せました。


PC版やPS版の発売時期を考えるまでもなく、若年層のゲームユーザーにとって、『ToHeart』で盛り上がる理由は全く不明でしょう。しかし『ToHeart』は、ゲーム自体が優れていただけでなく、当時のギャルゲー業界の転機になったほど、大きな影響力を与えた作品でした。


現役で遊んだファンはもちろん、あの時の衝撃や功績を色濃く覚えていたユーザーも加わったため、新生『ToHeart』の発表に多数の注目が集まりました。これほどの人たちを動かした『ToHeart』の、当時の背景と活躍に迫ります。





■盛り上がり、そして落ち着きを見せていた、当時のギャルゲー市場


ギャルゲー(美少女ゲームと区別して呼ばれる場合もありますが、本稿ではどちらも内包して統一)の歴史はかなり古いのですが、ADV系列でブームを起こしたギャルゲーの先駆者としては、『同級生』(1992年~)が代表格として知られています。


『同級生』はPC向けだったこともあり、遊べるのは一部のユーザーに限られていました。その状況を打破したのが、PCエンジンSUPER CD-ROM2向けにリリースされた『ときめきメモリアル』です。この作品のヒットをきっかけに、家庭用ゲームの世界にギャルゲーの大きな波が訪れます。


しかし『ときメモ』は、ADV形式のギャルゲーではなく、育成シミュレーションでした。『卒業』のように美少女を育成する作品もありますが、『ときメモ』はプレイヤーの分身となる男子学生を育成し、女の子の好みに当てはまるように自分磨きに勤しみます。


『ときメモ』の育成過程はゲーム性が高く、考えなしに日々を過ごすだけでは好きな女の子と結ばれず、バランス調整もしっかりしていました。ですが、ブームを後追いした他作品の育成シミュレーションゲームは作り込みが甘いものも多く、『ときメモ』がきっかけとなった家庭用ゲーム業界のギャルゲーブームは、徐々に勢いを失っていきます。


そんな揺れ動く時代に、物語性とビジュアルを重視したADV主体のノベルゲームが急激な盛り上がりを見せました。『弟切草』(1992年発売)から始まった、テキストと音、映像演出を軸とする「サウンドノベル」と区別するため、「ビジュアルノベル」とも呼ばれます。


特にPC版『ToHeart』は、ゲームブランド「Leaf」が贈るビジュアルノベルシリーズの3作目として登場したたため、ユーザーの認知だけでなく実質的にも「ビジュアルノベル」を代表する作品のひとつとなりました。





■『ToHeart』は「Leaf」の新機軸として登場


『ToHeart』に限らず「ビジュアルノベル」全般の共通点ですが、「ビジュアルノベル」は会話や行動の選択肢で物語が分岐し、複数のエンディングに到達します。恋愛系の作品では、シナリオの分岐が各ヒロインのルート分けと同じ意味になる場合が多く、『ToHeart』も選択によってルートが分かれ、ハッピーエンドやバッドエンドに辿り着きます。


「ビジュアルノベル」は、特別なルールを覚える必要がほとんどなく、違う作品でも概ね同じ操作感でプレイ可能。そのため、プレイヤー側の負荷がかなり少なくて済みます。また、シンプルな構造で済むため、育成シミュレーションなどと比べると開発の規模や費用を押さえやすいといった、開発側のメリットも存在します。


ですが、「遊びやすい」「作りやすい」といった事情だけでは、大きなブームには成り得ません。「ビジュアルノベル」に火が付くきっかけには、やはり魅力的なゲームの存在が欠かせません。その一躍を担ったのが『ToHeart』ですが、いきなり本作が登場して盛り上がったわけではなく、まず「Leaf」のビジュアルノベルシリーズの1作目・2作目を飾った『雫』と『痕』の存在も重要な役目を果たしました。


『雫』と『痕』は、1996年に発売されたPC向けのビジュアルノベルです。ただし、その内容は恋愛がメインではなく、『雫』は人の精神に深く関わる物語を展開し、『痕』は怪奇的な側面も伴うなど、どちらもサスペンス要素が濃厚なADVでした。


しかし『雫』と『痕』は、それぞれ強烈かつ魅力的な物語を描き、万人向けではないテーマながらも多くのファンを獲得。その抜きん出た完成度の高さで、たちまち注目を集めました。また、開発の中心的な人物である高橋龍也氏(脚本)と水無月徹氏(原画)も、作品同様に高く評価されます。(※高橋氏の「高」は、正しくは「はしごだか」表記)


この両名が手がける新たな作品となれば、当時話題にならないはずがありません。しかも、これまでの路線と全く異なる、学園を舞台とした恋愛系ビジュアルノベルという新境地です。『雫』『痕』とのギャップの大きさも追い風となり、多くのPCユーザーが『ToHeart』の登場を待ち焦がれました。





■青春、学園、恋愛を丁寧に描き、ユーザーの心を揺さぶった『ToHeart』


『ToHeart』は開発規模も広がり、より多くのスタッフが関わりましたが、これまでと同じく高橋氏と水無月氏が中心となり、鮮やかな青春物語を作り上げました。


各ルートの素晴らしさを解説すると膨大になってしまいますが、魅力的なヒロインと学園モノに相応しい瑞々しい展開は、実生活では既に学校を卒業したユーザーたちの心を瞬時に掴み、クリアまで捉えて離しません。(※PC版は成人向けのため、この時のユーザーは18歳以上)


本作が紡いだ物語面の素晴らしさは、学生時代の男女の機微や学生生活を丁寧に描き、眩しくも地に足の着いた描写で描いた点にあります。奇をてらわず、正面から青春を描き切った筆致と展開に、共感を覚えたユーザーたちが心を震わせます。


『ToHeart』が後に影響を与えた分かりやすい一例が、ヒロインのひとり「マルチ」の存在です。正確な本名は、「HMX-12マルチ」。彼女は人間ではなく、一般家庭の生活をサポートするメイドロボの試作機でした。人と交流を図る実証実験のため、主人公のいる学校へとやってきます。


主人に奉仕する「メイド」や、作られた存在である「ロボット」は、創作上でも長く人気を持つモチーフです。ただし、そのふたつを組み合わせる「メイドロボ」というキャラクターは当時珍しく、椎名高志氏による漫画「電化製品に乾杯!」に登場した「ミソッカス90F」などがいましたが、近しい存在はまだまだ少なく希少でした。


そんな時代に登場した「マルチ」はドジでミスも多く、完璧なメイドロボとはかけ離れたキャラでした。しかし、一途で健気な振る舞いや、常に誰かを思いやる姿勢は、見る者にとって人間以上の優しさや温かみを感じさせ、エンディングではユーザーたちの涙腺を大いに刺激します。


この「マルチ」の人気は凄まじく、ゲーム雑誌やアニメ雑誌(後にアニメ化されたため)の人気キャラランキングでは、首位や上位を飾ることもしばしば。作品の枠を超えて圧倒的な支持を得た「マルチ」は、サブカルチャー史に名を刻むほどの存在として広まりました。





■ジャンルを活性化させ、モチーフに再び光を当てた存在に


その完成度と心に刺さるプレイ体験が多くのユーザーを動かし、こぞって『ToHeart』を賞賛しました。この動きがきっかけとなってビジュアルノベルやギャルゲーに再び注目が集まり、それを察知したメーカーが追従して様々な作品を生み出します。その結果、新たな名作が続々と飛び出し、業界がさらなる盛り上がりを見せました。


主だった例では、PC版『ToHeart』が発売された1997年以降、『ONE ~輝く季節へ~』(1998年)、『Kanon』(1999年)、『AIR』(2000年)、『CLANNAD』(2004年)などの作品が、ギャルゲー業界を大いに盛り上げます。また「Leaf」も、『WHITE ALBUM』(1998年)でさらなる人気を獲得しました。


『ONE ~輝く季節へ~』の主要スタッフを中心に作られたゲームブランド「Key」が、『Kanon』『AIR』『CLANNAD』を手がけており、『ToHeart』を生み出した「Leaf」と並ぶ2大巨頭として名を馳せました。この2つのブランドはあまりに強く、「葉鍵」(各ブランドの通称をかけ合わせた造語)というジャンル名が、俗称としてまかり通ったほどです。


「Key」の作品も素晴らしい名作ですが、『ToHeart』のヒットで恋愛系ADVが活気づいていたのも、成功を後押しした大事な要因のひとつといえます。『To Heart』は自身のヒットだけでなく、恋愛モノや学園モノ、メイドにロボットといったモチーフを再注目させ、改めて飛躍させる礎ともなったのです。


そして冒頭で触れた通り、PS版『ToHeart』がアクアプラスより発売されました。PC版発売から2年後の1999年、今度は誰でも遊べる全年齢版として、家庭用ゲーム向けに登場。しかも、一部キャラクターのルートはほぼ書き下ろしという、予想を上回る嬉しい仕様での再デビューでした。


そのため、『ToHeart』未経験者だけでなく、PC版を経験済みのユーザーも見逃せず、新規・従来のファンともにPS版『ToHeart』に手を伸ばし、それぞれが心行くまで恋愛と青春を満喫しました。


もちろんPS版『ToHeart』も、恋愛ADVとして異例の大ヒットを遂げます。こうして『ToHeart』は、PC向けのみならず家庭用ゲームにも上陸を果たし、その影響力をさらに広げたのです。




1990年代に盛り上がり、そして落ち着きを見せ始めたギャルゲーというジャンルに、新たな衝撃として登場した『ToHeart』。その活躍と成功が、1990年後期から2000年代に続く恋愛ADVブームを招く起爆剤となり、後の作品にも大きな影響を与えました。


そんな功績を残した名作の復活が決まった時、四半世紀程度の時間では『ToHeart』の存在をかき消すには至らなかったのだと、実際に証明する形となりました。25年の時を経てもなお、盛り上がれるコンテンツである──それを、『ToHeart』自身が明らかとしたのです。


奇しくも『同級生』はひと足先にリメイクされており、PC版が発売されたほか、2024年4月にスイッチとPS4向けに登場したばかり。また、リマスター化を遂げる『ときめきメモリアル~forever with you~ エモーショナル』が、2025年に発売されます。


まるで示し合わせたかのように、ギャルゲーを盛り上げ、ブームとなった名作たちが次々と復活します。新生する『ToHeart』も、その一翼を担い、この令和に蘇ります。


発表内容の詳細はまだ不明ですが、2024年11月9日・10日にわたって行われる「大アクアプラス祭 -30th Anniversary-」にて、『ToHeart』に関する続報も明かされる模様です。一時代を築いた名作が、どのような形で蘇るのか。新情報にご期待ください。


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