任天堂の『パルワールド』提訴から考える、パクリと“掛け合わせ”の境界線
インサイド / 2024年9月19日 23時10分
2024年9月18日、任天堂と株式会社ポケモンが共同で、ポケットペアに対して特許権の侵害訴訟を起こしました。ポケットペアが開発・販売する『Palworld/パルワールド』(以下、パルワールド)が複数の特許権を侵害していると指摘し、侵害行為の差止及び損害賠償を求めるものとなります。
このように、権利侵害の恐れがあるとし、訴訟を提起することはゲーム業界でもままあります。しかし、どこからが権利の侵害にあたるのか、その線引きは非常に難しく、個々人でも意見が分かれるところです。
特にゲーム業界は、同じジャンルなら共通する部分が多くなりがちですし、ゲームシステムが類似することも少なくありません。また、特定の要素の組み合わせで新たなゲーム体験が生まれることもあり、その全てをパクリと判断するのも性急です。
■『ポケモン』を連想する人も多かった『パルワールド』
今回の訴訟の的となった『パルワールド』については、一部のゲームファンから「ポケモンに似ている」といった声が以前から上がっていました。
『パルワールド』では、「パル」と呼ばれる不思議な生き物を仲間にし、パル同士で戦わせたり、騎乗して広大なフィールドを探索する楽しさなどが味わえます。こうした要素のいくつかに、『ポケモン』を連想させやすい部分もあります。
『パルワールド』を直接的に言及したものではありませんが、株式会社ポケモンは「ポケモンに類似しているというご意見」が届いているとし、侵害行為があった場合は「知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です」といったコメントを、2024年1月に公開しています。
こうした声明が出ていること、ユーザーの間でも類似性が問題となっていたことから、今回の訴訟はより大きな関心を集め、話題となっています。
ただし、この訴訟自体がどのように転がるかはまだ分かりませんし、類似性がそのまま権利の侵害に繋がると一概には言えません。
■『ポケモン』も採用していた「コマンド選択」という既存要素
例えば『ポケモン』自体も、他のゲーム作品と類似する部分はいくつもあります。例えば、初代『ポケモン』のバトルは「コマンド選択による行動決定」を行いますが、これは『ドラゴンクエスト』シリーズを想起させる要素とも言えるでしょう。
しかし、初代『ポケモン』のゲーム性は、コマンド選択によるターン制バトルだけが特徴ではありません。「野生のポケモンを捕まえて仲間にする「トレーナーたちがそれぞれのポケモンを駆使して戦う」「通信によるポケモンの交換や対戦」「目的がボスの討伐ではなくポケモン図鑑の完成」など、当時のRPGにはあまり見られない斬新な要素をいくつも詰め込み、その刺激的な体験が爆発的なヒットへと繋がりました。
また『ドラゴンクエスト』のコマンド選択も、系譜を辿るとADVゲームに遡ります。元々は、『ドラクエ』以前に堀井雄二氏が手がけたADV『ポートピア連続殺人事件』を移植するにあたり、快適なプレイ環境を提供するためにコマンド選択が用意されました。
「RPG」で味わえる冒険の楽しさと、「ADV」のコマンド選択による快適性、ふたつの要素を組み合わせた結果、『ドラゴンクエスト』が生まれました。このように、従来の要素を合わせることで新たなゲーム体験が生まれることも多く、その方程式は『ポケモン』にも当てはまります。
■ポケットペアの代表・溝部拓郎氏が提唱する“掛け合わせ”手法
元々ある作品に新たな要素を足すことで、爆発的に面白くなったというゲームはいくつもあります。『パルワールド』を開発したポケットペアの代表・溝部拓郎氏は、Game*Sparkが行ったインタビューにて、こうした制作方法を“掛け合わせ”と表現しました。
ハードウェアが劇的に進化する一方、アイデアを抽出する方法自体に大きな変化はなく、そして時間が経つごとにアイデアは次々と実現されていきます。そうした現状を踏まえ、溝部氏は「現実からゲームを作ることに限界が来ていて、“ゲームからゲームを作る”ようになっていると考えています」と明言しています。
また、掛け合わせや組み合わせでゲームを作る手法は一般的になっていると指摘し、「英語で「ゼルダ・ミーツ・〇〇」みたいな表現がそのままSteamのストアページに載ることもあるくらいです」といった見解も述べました。
■“掛け合わせ”がゲーム体験を広げた一面も
“掛け合わせ”のケースとしては、「メトロイドヴァニア」が広く定着した好例といえるでしょう。「メトロイドヴァニア」は元々公式の用語ではなく、『メトロイド』と『キャッスルヴァニア』(悪魔城ドラキュラ)の両シリーズが持つ特徴的な要素を備えた作品に対して、ユーザー側から生まれた俗称でした。
「メトロイドヴァニア」の確固たる定義はありませんが、「行き来できる広いマップの探索が楽しめる、横スクロールの2DアクションRPG」を指す場合が多く、インディーゲームを中心に数多くのメトロイドヴァニア作品が生み出されています。
また近年では、異変の有無で進むか引き返すかを選択し、怪奇渦巻く地下通路からの脱出を目指す『8番出口』の大ヒットを受け、同作のゲーム性をモチーフにした“8番ライク”作品が多数登場しました。
シンプルに模倣した作品もあれば、独自の要素を加えて新たな刺激を作り出した作品もあり、その多様性に驚かされるばかりです。例えば、『8番出口』の枠組みに恋愛要素を加えた『8番彼氏』も、かけ合わせたことで生まれた斬新な作品のひとつと言えます。
改めて『ポケモン』に焦点を戻すなら、メインシリーズの最新作『ポケモン スカーレット・バイオレット』では、歴代で初めてオープンワールド制を採用しました。このゲーム性を導入するにあたり、これまでに作られた数多のオープンワールド作品を研究し、その魅力を解析・昇華して作られたのは間違いないでしょう。
このように、要素を掛け合わせることで新しい体験が生まれる一面があるのは、否定できない事実です。だからといって、野放図に行っていいわけでもありません。パクリと“掛け合わせ”の境界線はとても曖昧なので線引きには困難ですし、また各社の方針によっても対応が変わります。
今回、任天堂がポケットペアを訴えましたが、その内容は「特許権の侵害訴訟」と明かしたのみで、詳細はまだ未公開です。訴えにある通り、特許の侵害──技術的なパクリがあったのか、それとも訴えが退けられるのか。今後の続報にも、関心が集まることでしょう。
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