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神に“死”を与える『たねつみの歌』が描く、「16歳同士の3世代」を通して見る人と世界の関係性─柔らかな筆致で本質に迫る体験版をレビュー

インサイド / 2024年10月11日 18時0分

50万ダウンロードを突破した『ATRI -My Dear Moments-』をはじめ、『徒花異譚』や『ヒラヒラヒヒル』を続々と展開している「ANIPLEX.EXE」。「ノベルゲームだから、おもしろい」という力強いメッセージが、魅力的な作品を通して徐々に広まっています。


その活動は今も勢いづいており、この冬に新たなノベルゲーム『たねつみの歌』がPC向け(Steam・DMM GAMES・DLsite)にリリースする予定です。また、発売に先駆けて、その魅力を垣間見られる体験版の配信が、本日10月11日に始まりました。


この体験版にひと足早く触れる機会に恵まれたので、そのプレイ体験を通した先行レビューをお届けします。本作に興味はあるけど詳しい内容を知らない人や、体験版を遊ぶか悩んでいる方は、こちらの記事を参考にどうぞ。


なお、ネタバレを防止するため、物語そのものには詳しく触れていません。安心して記事をご覧ください。


■「みすず」が遭遇した、あり得ない出会い


本作の物語は、2023年に16歳の誕生日を迎えた少女「みすず」の視点で描かれます。彼女は、幼い頃に母親の「陽子」を病気で亡くしていますが、父や祖父母から豊かな愛情を受け取り、健やかに育ちました。


その誕生日の夜、「みすず」の元にひとりの女性が訪れます。同じく16歳の「陽子」──1996年の世界からやってきた、将来自分の母親となる少女と。さらに、2050年の世界へと移動し、16歳になった自分の娘「ツムギ」との出会いも果たします。


時間を超えた巡り合いは、不死の神々に死をもたらす儀式を行う「たねつみの巫女」となり、「常世の国」を渡り歩く旅へと繋がります。「みすず」から見て、亡くなったはずの母親と、まだ出会っていない我が子と共に歩む、本来あり得なかった奇跡の“旅”に。


■「同い年の3世代」の視点で描かれる物語


三世代の母娘たちは紛れもなく「家族」という繋がりで結ばれていますが、16歳時点の「陽子」にとって「みすず」との対面は今回が初めて。また「みすず」にとって、母親である陽子と共に過ごした時間は6歳までなので、記憶も思い出も遠くなっていました。そんな存在がいきなり16歳の少女として現れたため、その“非現実的な現実”に戸惑いを隠せません。


一方、2050年の「ツムギ」は、母親のみすずからこの時の出来事を断片的に聞いており、事態や事情は比較的すんなりと受け入れます。しかし、2050年時点で43歳になった母親のみすずのことはよく知っているのに、突如現れた少女の「みすず」のことは全く知らず、その隔たりや共通点を最も強く感じる立場にあります。


また、「陽子」と「ツムギ」は、現実世界で出会うことのなかった祖母と孫。関係は深いが接点はなかった者同士が、この旅を通して初めて直接関わるなど、どの角度から切り取っても興味深い関係性が綴られていきます。


母であり、娘であり、祖母と孫である彼女たちは、しかし全員16歳の少女で、その目線は同じ高さ。神の世界を旅するファンタジックな要素もある作品ですが、その中心で描かれるのは、三者三様な少女たちが感じるリアルな感情と新たな繋がりです。





■同い年でも三者三様。その狭間から生まれる様々なドラマ


「みすず」は、ほとんど記憶のない母親である「陽子」をどのように受け入れればいいのか、すんなりと答えは出せません。「常世の国」への旅に誘われても、その手を取っていいのか躊躇してしまいます。


「陽子」は生まれつき身体が弱く、また未来の自分がどんな結末を迎えるのか、どうやら悟っているようです。そのためか、「みすず」との出会いを心待ちにし、共に旅ができる喜びに溢れていました。


「みすず」にとって「ツムギ」は全く未知の人物ですが。「ツムギ」からすればよく知る母親の過去。性格や振る舞いに共通する部分も多く、親しみやすい相手のようです。


また、「ツムギ」にとって「陽子」は、自分が生まれる前に亡くなっており、想像するのも難しい相手でしょう。「陽子」にとっても、「ツムギ」の存在はあまりに未来過ぎて、「守るべき相手」という認識こそあれど、祖母と孫という実感は(16歳時点なので当たり前ですが)かなり希薄です。


世代間ギャップも手伝って、意見がぶつかることも多い「陽子」と「ツムギ」。その間の世代となる「みすず」が緩衝役になるのは、性格的な役割分担なのか、母子三代の立場ゆえか。世代は異なるが年は同じ、という不思議な繋がりから生まれる会話と関係性は、「女子高生同士の接点」だけではない深みと奥行きを感じさせてくれました。


■繊細な距離感を柔らかな筆致で紡ぐテキスト


かといって、堅苦しいやりとりが多いのかと言えば、その心配は全く不要です。神が相手でも物怖じせず、自分の意見をはっきりと口にする「陽子」。境界線を引きがちですが、自分の意志を大事にする「ツムギ」。一見のんびりしていると思われがちですが、「身近な人物の死」を最もよく知っている「みすず」。


世代や立場だけでなく、性格や考え方もまったく異なるからこそ、対応や反応に違いが生まれ、軽い会話の中にも個性が浮かび上がってきます。16歳の少女同士という繋がりが、関係性の重さをいい意味で軽やかにし、没入しやすい雰囲気作りに一役買っているように感じました。


また本作のテキストは、登場人物の複雑な心情を豊かに分かりやすく描くだけでなく、起こさなかった行動から人物の考え方や在り方を暗喩する一面もあり、個の文章としても魅力的でした。


例えば「陽子」は、「みすず」の時代に来た際、みすずの祖父母──「陽子」にとっての父と母の顔を見てから旅立ちましたが、大人になった自分を探そうとはしませんでした。その「起こさなかった行動」を第三者の視点から見ると、彼女が自分の未来を知っている(=既に死んでいるので探すのは無意味)のでは、と察することができます。


その行動に関して後に「みすず」も指摘していますが、「祖父母を探す」ことで「自分を探さない」というギャップを生み出し、プレイヤーに想像を促すという手法ひとつをとっても、非常に秀逸なテキストだと分かります。





■神々にもたらされる「死」が、世界に影響を与える


本作の中心人物は、間違いなく前述の3人(と、彼女たちの旅に同行するヒルコ)ですが、「たねつみの巫女」となって巡る神々の国──「常世の国」での出来事も、作中において重要な意味を持ちます。


「常世の国」の神は不死の存在ですが、大地に穢れをもたらす“本当の冬”が到来する前に“古い神の長”たちが命を大地に還さなければなりません。これは新たな時代へと世代交代させる役割を担っており、この継承──「たねつみの儀式」を行うのが、「みすず」たちの役目となります。


「みすず」たちは普通の人間なので、言うまでもなくいずれ死ぬ定めにあります。先代が子を成し育み、次代の礎を整えた後、死を迎えます。次代は先代の後を引き継ぎ、同じように次々世代を生み育てていく。この生と死の繰り返しで、人間という種が積み重なっていきました。


この世界の神々は「不死」ですが、決して「非死」ではないとのこと。そのままでは死なないものの、死をもって世代を受け継いできた“人”である「たねつみの巫女」の血を取り込むことで「死」を受け入れ、その命を大地に還すことができるのです。


「死」の影響は、単に個人の命が失われるだけではありません。喪失感は見送った側にこそ強く残り、後の人生に影響を与えます。また、誰かの「死」を通して、別の誰かとの関係性が変わることもあるでしょう。


そうした変化を、まさに身をもって味わってきた人間ですら、「死」から受ける影響は小さなものではありません。これまで死ぬことのなかった神とその周囲にとっては、その衝撃と喪失も初めてのもの。


神であっても、いや、神だからこそ、「死」に怯えたとしても不思議ではありません。国の長たる神は、「死」をどのように受け入れるのか。そして、周囲や国にどのような影響を与えていくのか。こうした「死」がコミュニティに与える影響を如実に描いているのも、『たねつみの歌』が取り組む重要なテーマのひとつです。


■避けられぬ「結末」に向かう『たねつみの歌』という物語


また本作は、ノベルゲームですが選択肢は一切なく、ゲーム性は皆無です。始まりから終わり、「みすず」たちの行動からその結末まで、プレイヤーが介入できる余地はほとんどありません。


彼女たちの道のりは決まっており、その結末も不変。解釈こそプレイヤーの自由ですが、作中で起きた事実に変化の余地はなく、製品版が登場した時点で全てが定められています。


この「選択肢もマルチエンドもないノベルゲーム」を、味気ないと感じる人がいてもおかしくありません。そこは個々人の趣味嗜好なので、肯定・否定のどちらも同じく価値のある話です。しかし、「選択肢もマルチエンドもないなら、遊ぶ意味はない」といった考えまで突き詰めてしまうのは、個人的に少々もったいなく感じます。


選択肢もマルチエンドもない本作の在り方は、人間の結末に必ず「死」が待ち構え、回避する余地がないという現実をどこか連想させます。人間は誰もが死にますが、「いつか死ぬなら、生きることに価値はない」と考える人は少ないでしょう。むしろ「死」が待つからこそ「生」に意味を見出したり、いかに生きるべきかと向き合う人もいます。


結末が変わる要素がなくとも、「みすず」たちが何を考え、どのように行動するのか。神々がいかにして、「死」を受け入れるのか。そして、世界にどんな影響を与えていくのか。その旅路を見守ることは、誰かの人生を見守ることにも似ています。


『たねつみの歌』は、決して派手なゲームではありません。火花が飛び散るバトルもなければ、身を焦がす激情の恋などが語られることはなく、女子高生3人とヒルコによる儀式の旅が穏やかに柔らかく描かれるのみです。(少なくとも、体験版の範囲では)


しかしそこには、「人同士の関係性」と「いずれ迎える死とその影響」という、誰もが身近に感じ、避けて通れない命題が明確に刻み込まれています。その本質をどのように受け取るのかが、本作における唯一無二の“選択肢”なのかもしれません。


『たねつみの歌』が描く物語には血肉が通っており、地に足の着いた厚みも感じさせてくれます。想像の翼を広げるほど雄弁さを増す物語が、製品版でどのような“変わることなき結末”を見せてくれるのか、期待が高まる体験版プレイとなりました。興味が沸いた人は、まずは体験版でその魅力に触れてみましょう。


(C)Aniplex Inc. All rights reserved.


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