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『かまいたちの夜×3』を初代しか知らないライターが遊びつくしたら、今でも変わらぬ面白さを感じつつベタ移植に惜しさを覚えた【プレイレビュー】

インサイド / 2024年10月19日 11時30分

※本記事は『かまいたちの夜×3』のネタバレを含みます。


スパイク・チュンソフトは9月19日、サウンドノベル『かまいたちの夜×3(トリプル)』をPS4/ニンテンドースイッチ/PC(Steam)向けに発売しました。


本作は、2006年にPS2向けに発売されたシリーズ完結編『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相(以下、かまいたちの夜×3)』のシリーズ30周年を記念した移植作で、初代『かまいたちの夜』と2作目『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄(以下、かまいたちの夜2)』のメインストーリーが収録されています。つまり本作を購入すれば『かまいたちの夜』シリーズの本筋を追えるというわけです。


ちなみに筆者はアドベンチャーゲーム好きを名乗りながら、本シリーズは学生時代に第1作『かまいたちの夜』をプレイした記憶はあるものの第2作以降は今回まで未プレイでした。本記事はそんな私が2024年に『かまいたちの夜×3』に触れてみて、改めてどう感じたかをレビューとしてお届けします。ちなみに核心的なネタバレは避けて紹介しますが、なにも情報を入れたくないという読者は注意してください。


◆そもそもサウンドノベルとは?


『かまいたちの夜』といえばサウンドノベルの名作ですが、今ではサウンドノベルに馴染みがない方も多いかもしれません。そのためジャンルとしての概要をおさらいしていきましょう。サウンドノベルはチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)が1992年にリリースした『弟切草』よりはじまった、画面全体に表示されるテキストをSEやBGMといった演出とともに読み進めていく、小説とゲームの融合。いわば「体験する小説」というイメージですが、選択肢が提示され物語の展開にプレイヤーが介入することができ、小説では味わいにくい臨場感や自らが主体となってストーリーを進めているという没入感が感じられます。


しかしフォロワー作品をのぞき、本家が展開するサウンドノベルは2011年にリリースされた『かまいたちの夜』シリーズの第4作『真かまいたちの夜 11人目の訪問者』から13年ほど音沙汰がありませんでした。そのため今回の移植版『かまいたちの夜×3』の発売はファンにとって大きな出来事で、馴染みの薄かった私にもその盛り上がりが伝わってくるほどでした。


◆今回発売された『かまいたちの夜×3』について


『かまいたちの夜×3』は前述したように、『かまいたちの夜』と『かまいたちの夜2』のメインストーリーが同梱しています。スキー旅行に出かけた大学生の主人公・透が、彼女である真理の叔父「小林二郎」夫妻が経営するペンション「シュプール」で惨劇に巻き込まれた第1作――が、なんと架空のタイトルだったという、衝撃的な幕開けからはじまった第2作。『かまいたちの夜2』はゲームが大ヒットしたお礼として、「我孫子武丸」を名乗る人物から三日月島に存在する別荘へ招待され、現実でも連続殺人事件に巻き込まれました。


そして描かれる本作の舞台は、『かまいたちの夜2』の1年後。お好み焼きのチェーン店を経営する香山が三日月島を買い取り、供養のために前作メンバーにふたたび島へ来るように呼び掛けるという導入からはじまります。本作の最大の特徴は複数主人公制を採用していること。過去作においてはストーリー=主人公「透」として統一されていましたが、本作では透を含めた4人の主人公たちがそれぞれ別々の視点で物語が描かれ、ある人物のささいな行動が別の視点に大きな影響をおよぼすザッピング形式で展開します。


今までは積極的には描かれてこなかった透以外の内面描写も充実しており、今までぼんやりと思い描いていた人物像といい意味での乖離を楽しむとともに、“人から見た透”の様子も確認できます。そのためプレイヤー視点では、少々おっちょこちょいだけどいざという時には役立つという彼のイメージも、人によっては軽薄に見られていたり、そもそも眼中にないのであまり気にされていなかったりするのは複数主人公の醍醐味だと感じました。


また本編クリア後には隠しシナリオとして「ちょっとエッチな番外編」、特定のバッドエンドへの到達で「犯人編」、そして、すべてのエンディングを見ることで「エピローグ」が解放されます。「犯人編」と「エピローグ」はあまりにクリティカルなネタバレなので本稿では言及を避けますが、「番外編」は主人公選択画面でピンクの栞を選択すると、プロローグの喫茶店の場面で分岐が発生して突入できます。


そこで描かれる物語は本編とは打って変わり、男性キャラ3人がセクシーな女性幽霊の色仕掛けに耐えながら三日月島の迷宮を攻略するというコミカルなもの。青いシルエットというルールは守られながらも、アニメ調のキャラクターデザインは新鮮。時おり挟まれるターン制コマンドRPG風の画面演出もあわさり、シリアスなメインとのギャップやコテコテのギャグテキストで一息つけるサブストーリーとなっており、『かまいたちの夜』という作品の懐の広さを感じさせられました。


◆サウンドノベルの金字塔は今プレイしても色あせない


『かまいたちの夜×3』はシリーズの完結作として、『かまいたちの夜2』のベストエンディングから地続きのストーリーになっており、3つ合わせて1つの作品といってもよいほど密接な関係です。今回三部作のメインストーリーを通してプレイできたことにより、殺人事件に巻き込まれた過去をキャラクターと濃密に共有でき、関係性の変化や成長・苦悩という心情がダイレクトに伝わったのも魅力だと感じました。


そしてミステリー作品としても第1作は本格ミステリ、第2作は伝奇ホラー、完結作が群像劇とそれぞれ違ったジャンルで物語を飽きずに楽しめ、分岐を繰り返しながら情報を集めて推理を進めていき、犯人の姿が徐々に浮かび上がってくる感覚は手汗握る面白さでした。第1作でプレイを止めていた自分を恨むくらい本作で触れられて良かったです。


また本作はプレイヤーの選択によって変化する多種多様な展開が魅力ですが、上記した番外編や犯人編といったサブストーリーを通して作品の厚みも増しています。そうした細部からもアドベンチャーゲームとしての強度が感じられ、「これは伝説の作品になる」と今さらながら『かまいたちの夜』の色あせなさを再確認しました。


◆だからこそ惜しく感じる部分も……


しかし大いに楽しめたからこそ感じてしまう惜しさもあります。まず『かまいたちの夜×3』で実装された複数主人公によるザッピングは、本作の設定とあまり合っていないように感じました。ザッピングは同社のサウンドノベル『街 ~運命の交差点~』『428 ~封鎖された渋谷で~』(この2作はプレイ済みです)などで取り入れられたシステムですが、その最大の魅力は渋谷という大きな街を舞台に、それぞれがそれぞれの場所で行動するうちに“まさか”あの人物とこの人物が繋がるとは!という驚きです。


本作のように狭い1つの館というワンシチュエーションで展開し、全員が頻繁に顔を合わせる状況であれば、だれかの行動がほかの人に影響を与えるのは“必然”です。またどの視点でも発生する出来事はほとんど共通しているため、別視点といってもそれぞれの感じ方や見かたが少々変わる程度で広がりをあまり感じられません。1つの出来事を多角的に体験するという楽しさは存在しつつも、「展開が詰まったから別の主人公視点で同じ場面まで追いつく」ということを何度も繰り返していると、作業感の強いパズルを解いているような感覚に陥ってしまいました。


そして一番は、冒頭で記したように『かまいたちの夜』と『かまいたちの夜2』のメインストーリー“しか”収録されていないことです。


先ほど「番外編や犯人編といったサブストーリーを通して作品の厚みも増している」と書きましたが、本作ではその作品の大きな魅力である第1作と第2作に収録されていたサブストーリーが体験できないのです。ベタ移植だと最初から言われているのに何を言っているのだと思われるかもしれませんが、30周年記念で現代に復活したということであれば、各3作ともに完全な形で楽しんでみたかったというのが、このたび『かまいたちの夜』シリーズに入門した筆者の正直な気持ちです。


ただ、わがままを言いつつも今回『かまいたちの夜』が復活したという意義は大きいと考えています。それは、同じテキストを読むアドベンチャーゲームでもビジュアルノベルやテキストアドベンチャーとは異なる、サウンドノベルの「テキストを読む」という体験に特化したスタイルと没入感は、今なお色あせないと感じたからです。今後サウンドノベルの新作が発売されていくと良い、そう思わせてくれた『かまいたちの夜×3』のプレイ体験でした。


(C)Spike Chunsoft/我孫子武丸/田中啓文/牧野修


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