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「アスキーアートは、枯山水にも現代アートにもなりえる」令和のAA職人が語る、葛藤と推し活の末に見いだした未来

インサイド / 2024年12月28日 17時0分

スマートフォンアプリ『モンスターストライク』にて、「とある科学の超電磁砲」とのコラボイベントが2024年12月13日から翌年1月2日にかけて開催。そのCMにキャラクターを文字や記号だけで表現するアスキーアート(以下、AA)が使われ大きな話題となりました。


AAはテキストによる交流が中心だったインターネット黎明期において大流行するものの、画像や動画が手軽に投稿できるSNSが普及した現代では衰退の一途を辿っています。



しかし、前述した『モンスターストライク』のコラボCMにおいてAAの作成を担当した「いのっく」さんは、今も独自にAAを作り続けているとのこと。さらにそれを自身の“推し活”にも活用しているというのです。


果たして令和のAA職人は、どんなところに魅力を感じているのか。お話を伺いました。


◆「やる夫スレ」の作者を支援したいという思いで、AA職人の道へ


書籍化されるほど人気だった「やる夫」。 COPYRIGHT(C) WANI BOOKS Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

―AAを作り始めた時期や、きっかけを教えてください。


いのっく:初めてAAを知ったのが、2011年頃ですね。私が当時使っていたPCのスペックが低く、動画やゲームを快適に楽しめない環境でした。でもネットの掲示板なら問題なく見れますし、その中でも「やる夫スレ」が面白くてハマっていきました。


最初は一読者として楽しんでいたのですが、とある作品の面白さに衝撃を受け、「自分もこの作者さんを支援したい」という気持ちからAAを作り始めました。


―どんなことから始めたんですか?


いのっく:当時は“御三家”と呼ばれる人気作品のキャラクターにAAが集中し、使いたいキャラクターがいてもAAは顔のアップや上半身だけ、バトルシーンは他キャラクターの体部分を流用という状況でした。作者さんもそういった部分に苦労されていて、そこを手助けできないかと考え、最初は既存のAAに手を加えるところから始めました。


そこから最終的に2,000個以上のAAを作り、「ご自由にお使いください」というスタンスでその作者さんを中心に「やる夫スレ」を支援し続けました。当時の私にとって、AAを作ることが今で言う“推し活”だったんですね。私の作ったAAが、作者さんや作品の力になればという気持ちが原動力でした。


◆トレースでは決してうまくいかない。隠されたAA職人ならではの“技術”


―それほどAAを作り続けるって物凄い情熱ですよね。素朴な疑問なんですが、AAってどうやって作るんですか?


いのっく:私は主に「(´д`)Edit」というAA作成ツールを使っています。非常に古くて2009年頃からアップデートされていませんが、多くの方がスクリプトを作って改修しており、冗長性があるツールです。


AAを作る際は画面左半分に元絵を表示し、それを見ながら画面右半分のテキストボックスに文字を配置していきます。その打ち込んだ文字が元絵にも重なって表示されるので、あとはパズルのように形の合うものをを一つ一つ打っていくという感じです。


AA作成の様子。画面右のテキストボックスに打ち込んだ内容が、画面左の元絵に重なるようになっている。

―うわあ、地道……!失礼なお話かもしれませんが、ただ単に絵の線をなぞっているのでは無いのですね。


いのっく:そうなんです。AAは元絵を機械的になぞっているだけと思われがちなのですが、自分で作ることの出来ないフォントではどうやっても元絵通りの綺麗な線を描くことは出来ません。


全てのフォントは縦18dotとなり、横幅は.や半角のiやlが最小の3dot、全角のiやlが4dot、半角空白が5dot、全角空白が11dot、漢字は16dotと決まっています。このように、横幅のdot数を計算して上下で繋がるようにフォントを配置していく必要があるんです。


AAとして作りやすいように、少しパーツの角度を変える時もあります。例として今回は「インサイドちゃん」のAAを作成しましたが、右手の角度が元絵より真っ直ぐになってますよね。


今回、サンプルとして作成頂いた「インサイドちゃん」の元絵。
「いのっく」さんに作成頂いたAA(ありがとうございます!)

―あ、本当だ。


いのっく:フォントには斜め線の選択肢が少なく、無理になぞろうとするとガタガタになってしまうのでアレンジしています。こういった比較的小さな画像サイズでもAAが崩れず見えているのは、“AA職人の技術"の賜物なんです。


―知らないことばっかりだ。他にはどんな工夫があるんですか?


いのっく:私の場合、AAは目、鼻、口から作っています。この最初が上手く作れると良いAAになると確信出来ます。


―よく見ると、瞳の部分に「心」って漢字が使われていますね。こんな独特な形の文字でも、瞳のパーツに見えてくるから不思議です。


いのっく:目に関しては、AA職人達の技術の蓄積ですね。「心」という漢字は、丸みの部分が瞳のカーブに上手くハマって使いやすいんですよね。


それと元絵のインサイドちゃんはメガネを掛けていますが、右目のフレーム下部分を省いています。これはちょうど良い高さの横線がフォントにないからです。けれど他の部分をちゃんと書いておけば、人間の目は不足している部分を自然に補完してくれるので、違和感なくメガネに見えるって寸法です。


―確かに、言われると気付きますね…。


いのっく:同様に口も両端の角度だけ書けば笑ってるって見えるので、一部省いています。髪飾りも左側のボタン部分は「◯」と「A」の部分が見やすくなるように角度を変え、右側の十字部分はAAとして表現するのが難しいので簡略化しました。このようにAAを手打ちする場合は、省ける部分はとにかく省きます。元絵だと色が塗られている部分であっても、それを全部再現しようとするとゴチャついて見えにくくなってしまいますからね。


あとはなんだろうなぁ……。例えば髪の毛は「:」で埋めると綺麗に見えますが、より黒髪らしさを表現したければ「/」や「l」を使います。特に「l」は半角なら3dot、全角なら4dotなので調整がしやすい便利なフォントです。更に色濃くしたい時は「州」「洲」などの漢字を使います。フォントの密度が濃いほど濃い髪色を表現出来ます。


―AA作りが途方もない作業というのがよくわかりました。参考までに、今回のAA作成にどれくらい時間が掛かったのでしょう。


いのっく:一通り作るのに2時間ほどで、あとは細かい調整という感じですね。私はこういった作業が大好きで、パズル感覚で楽しんでいます。


―今回、いのっくさんにはデフォルメイラストのインサイドちゃんも作って頂きました。デフォルメのほうがAA化しやすかったりするんですか?


デフォルメ版「インサイドちゃん」の元絵。
こちらが「いのっく」さんに作成頂いたAA。 特徴が抑えられてる!

いのっく:いえ、デフォルメのほうが苦労しましたね。画像サイズを大きくすればなんとでもなるんですけども、同じAA職人から「こいつ、日和ったな」なんて思われるのも癪なので、「やったろうじゃないか」と小さめで作りました(笑)。


元絵と見比べて頂くと分かるんですが、スカートの部分は大きく変えています。この画像サイズでフリルを再現するのは不可能なので、丸みのあるフォントや「Y」を繋いでスカートっぽく表現しました。


口の形は当てはまるフォントが無かったので、上唇を強調する形にアレンジしています。胸元のボタンも元絵では3つありますね。AAでは最初「X」を一つ打ちましたが、その後「爻(こう)」という漢字を当てました。こうすることで、一文字でボタンが2つあるように見えます。


一ひええ、凄すぎる……!そういえばデフォルメイラストのAAは、最初にご提出頂いたあとに訂正版を頂きましたよね。どこを変えたんですか?


いのっく:あー、前髪の毛先に当たる、点の部分を別のフォントに置き換えました(笑)。AA職人って1dotにこだわっちゃうんですよね。パッと見では分からないとは思うんですが、つい修正したくなっちゃうというか。


一(とんでもない世界だ……)


◆ホロライブ「儒烏風亭らでん」さんの推し活として、しばらく離れていたAA作りを再開


「いのっく」さん作成。ホロライブ「儒烏風亭らでん」さんを描いたもの。

一ここ最近はホロライブ所属のVTuber「儒烏風亭らでん」さんの推し活として、AA作成を再開したと伺いました。なぜ推し活とAAが繋がったのでしょう?


いのっく:AAを作り始めた2011年から数年「やる夫スレ」で活動しましたが、私も支援していた作者さんも生活環境の変化でなかなか時間が取れなくなってしまい、自然にAAから離れていきました。


らでんさんを知ったのは、2023年9月のデビュー配信からです。元々和風が好きだったこともあり、そこから彼女の話し方や、美術や伝統芸能に関するトークに惹かれました。かつて「やる夫スレ」にハマった理由と同じで、新しい分野の知識が得られるって面白いんですよね。


一確かに学芸員の資格を持つらでんさんのトークは勉強になると、ファンが多いですね。


いのっく:そうですね。で、最初は見て応援するだけだったんですが、色々な絵師さんがファンアートを投稿する様子を見て羨ましくなり……(笑)。絵は描けない自分でも特別な推し活ができないかと考えて、AAを思い出したんです。


一「やる夫スレ」と同じ流れだ!(笑)


いのっく:いや、そうなんですよ(笑)。それにらでんさんがとある配信で「曼荼羅」を解説した際に、「アスキーアートを知らなかった」と語っていたのも、AAが推し活になるのではと考えるきっかけになりました。でも一つだけ問題があって……。


「アスキーアートを知らなかった」と語る、らでんさん。(再生時間 37:28〜)

一と、いいますと?


いのっく:AAは元絵を参考にして作るんですけど、それがいわゆる“トレパク問題”みたいになってしまわないかが心配でした。


そんなとき、らでんさんが配信内で、画家「ヨハネス・フェルメール」はカメラのような器具を使い、そこに映った画像をトレースして絵を描いたという説(カメラ・オブスクラ)を紹介したんです。これを聞いて、AAと同じかもってハッとしました。


一フェルメールが生きた1600年代に、そんな技術が。


いのっく:でも同時に、「トレースって当時、ズルって思われたんじゃないの?」なんて疑問を持ったんです。そこで後日、「#教えてらでんちゃん」という質問募集配信に投稿したところ、「カメラ・オブスクラによるトレースは絵を描くための一工程、補助道具であった」という見解を頂き、私がAAに対して抱いていた引け目がスッと解消されました。


「カメラ・オブスクラによるトレースは絵を描くための一工程、補助道具であった」と語る配信。(再生時間 31:09〜)

そこから約6年ぶりにAAを作ろうと思い、かつての制作環境を用意すべく実家に置きっぱなしだった当時のノートPCからデータを回収しました。昔作った2,000個以上のAAも残ってて、安心しましたね。


一良かった!ちゃんと残ってて良かった!


いのっく:そうですね。でもAAの作り方なんて、完全に忘れちゃってて……。そこからなんとか完成させて投稿したところ、多くの方にとってAAは新鮮だったようで、凄く好評でした。


らでんさん本人や、他のホロライブリスナーの方から「いいね」が届いてとても嬉しかったです。今では、らでんさんであれば元絵無しでAAが作れるようになってきました。


AA作成再開後、リハビリで作ったという作品。十分綺麗に見えますが、 ご本人曰く「立体感に欠けるあたり、勘が戻っていなかった」とのこと。
復帰第一作の反省から、立体感を意識して制作されたAA。 「非常に繊細で満足のいく作品に仕上がりました。」(本人談)
「箱根ガラスの森美術館」の音声ガイドを担当することを記念して作成したAA。 らでんさんはある程度自分で下絵を描いてから、作成したそうです。

◆AAは白黒写真であり、枯山水。その技術は現代アートにもなりえる


一「いのっく」さんにとって、AAの魅力を教えてください。


いのっく:以前、とあるアニメの絵コンテ集を見た時、その中にとても綺麗に描かれた線画が掲載されていてブワッと引き込まれたんです。色が無いほうが線の美しさが際立つっていうんでしょうか。


らでんさんも配信内で白黒写真について、「色の要素が無くなるので、その物の形に更に注目がいく」と語っていて。色が無いことで美しく繋がった線に惹き込まれる。これこそまさに私がAAに感じていた魅力なのだと思います。


さらに最近は、水を使わず白砂(はくさ)と石だけで海や山を描く枯山水を知り、「AAは現代の枯山水ではないか?」と感じるようにもなりました。


らでんさんの登録者100万人&クリスマス記念で作成した最新作品。「アスキーアートの魅力がひと目で分かる傑作となったと思っております」(本人談)

一AAが枯山水……!いや、でも確かにこれだけ画像や動画が溢れる現代において、文字や記号だけで表現を完結させるAAには、侘び寂び的な要素があるのかも。これってAAが最盛期だった平成の頃には、絶対に湧いてこなかった感情ですね。


いのっく:ええ、AAはかつて流行った掲示板サイトで気軽に画像が貼れないからこそ、流行った技術です。現在主流のSNSでアスキーアートが廃れていくのも自然な流れでしょう。


でもだからこそ、珍しがられるところがあると思います。例えば名刺にアスキーアートの絵を入れてみたら、新鮮だと思いませんか?ゆくゆくは文字で絵を描くという技術そのものはポスターなどの広告として、あるいは現代アートとして用いられることもあるかもしれませんね。

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