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内定取消しの理由と不当な取消しを受けた場合の対処法/労働問題の解決に役立つ法律メディア 労働問題弁護士ナビ編集部

INSIGHT NOW! / 2018年5月7日 7時30分


        内定取消しの理由と不当な取消しを受けた場合の対処法/労働問題の解決に役立つ法律メディア 労働問題弁護士ナビ編集部

労働問題の解決に役立つ法律メディア 労働問題弁護士ナビ編集部 / 株式会社アシロ

内定取消し(ないていとりけし)とは、一般的に、企業から採用可として雇用契約の締結を約束された(内定をもらった)のに、企業側からこれを一方的に取り消されることを言います。

もしも、内定者がその企業に入社することが決まったことを理由に他の企業からのお誘いを全て断ってしまったような場合、突然の内定取消しは絶望的なものといって良いでしょう。

この場合、内定者は何もできないかというとそんなことはありません。仮に不当な理由により内定を取り消されたような場合、法的な主張をすることで雇用上の地位を確保したり、内定取消しにより生じた損害を賠償してもらうことが可能です。この点について十分な知識を有していれば、泣き寝入りを防ぐことも可能かもしれません。

この記事では、内定取消しにあった際に、あなたが全力で抗う方法をお伝えします。

内定取消しが不当・正当となる理由(事由)とは?

内定取り消しが不当となる事由・ケース

採用の内定取消しについては、最高裁の判例があります。具体的には大日本印刷採用内定取消事件(昭和54年7月20日判決)という判例で、

「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」

と判示されています。したがって、このような理由に拠らない内定取消しは違法・無効ということになります。

裁判年月日 昭和54年 7月20日

裁判所名 最高裁第二小法廷 裁判区分 判決

事件番号 昭52(オ)94号

事件名 大日本印刷採用内定取消事件

文献番号 1979WLJPCA07200002

つまり、

  • 単に社風に合わない
  • 印象が悪い

などといった抽象的・主観的な理由は基本的には正当な理由となりません。また、

  • 決算で赤字になったから
  • 採用をする余裕がない など

相当程度合理的な理由であっても、これが採用内定時にも容易に予測し得るような場合であれば、やはり正当な理由ではないと評価される可能性は十分にあります。

他方、以下のような理由(事由)がある場合は、内定取り消しが適切と判断される可能性が高いと考えられています。

内定取消しが正当だと判断される4つの理由

(1)

内定後の事情から、内定者を雇い入れると人件費が経営を圧迫して行き詰まることが明らかであり、既存の社員の解雇を回避するためには、内定取消しがやむを得ない場合

(2)

内定者が、内定後に病気や怪我をしたことによって正常な勤務ができなくなった場合

(3)

内定後の調査により、内定者が申告していた経歴や学歴の重要部分に虚偽があったことが判明した場合

(4)

内定者が、大学を卒業できなかった場合

上記のとおり、内定後の予測の範囲を超える経営悪化は内定取消しの理由たり得ます。

もっとも、このような正当な理由がある場合であっても内定者に対して十分な期間を持って説明を行うなどの配慮は必要と考えられており、例えばまた、入社日の2週間前になり突然、経営悪化を理由に突然内定を取り消す行為は内定者への配慮を欠くものとして損害賠償の対象となる可能性があります。

内定取消しとは「解雇」と同じ扱い

企業が採用内定を通知してから、実際に働き始める前に、これを取り消す「内定取消し」は、会社から一方的に関係を破棄されるという意味においては「解雇」と同様です。

労働者側は、内定が出ればその企業に入ることを前提に求職活動を中止したり前職を退職するなどの準備を行うため、突然の内定取消しは労働者の人生プランを破壊する行為と言えます。

求職者が知らない内定の定義

内定をもらっただけでは、会社側と雇用契約が結ばれていないと考えている方がほとんどでしょう。しかし、実は企業が求職者に対して内定を出した時点で、雇用契約が成立したものと考えられます。

法的に具体的にいうと、求職者が応募することが「雇用契約の申し込み」に該当し、それに対して内定を出すということは、この申込に対して承諾したものと評価されます。

※もっとも、通常の雇用契約と同じではなく、始期付解約権留保付の雇用契約と考えられています。

したがって、会社が一方的な内定取消しをする行為は、法的にも「雇用契約の解約=解雇」になる訳です。

企業によって「内定」と「内々定」の定義が違う

企業によっては、内定前に「内々定」が行われることがあります。

内々定の方式はケースバイケースでしょうが、例えば採用担当者から「採用はほぼ決まりである」とか「採用するので追って正式通知を送る」等の連絡や通知を受けた場合がこれに該当すると思われます。

このような内々定は、雇用契約締結を承諾する旨の意思表示(すなわち内定の意思表示)とは評価されない場合が多いといわれています。

法律的には、内定はあくまで正式に内定手続きを行った場合を意味し、その準備段階や前段階では雇用契約締結のための承諾行為は行われていないという考え方が一般的です。

したがって、採用担当者から内々定を得たものの、正式内定は未了という段階では労働契約が成立しているとは考えにくいでしょう。

そうなると、「内々定」の取消し通知は、労働契約そのものの解除ではないことになりますので、解雇ではないことなり、この効力を争って雇用上の地位を主張するということは難しいかもしれません。

もっとも、内々定を得た労働者が一切保護されないということはなく、雇用契約締結への合理的期待が不当に侵害されたと認められる場合は、別途慰謝料請求等が可能です。

まとめると、

  • 「内定」:雇用契約とみなされる
  • 「内々定」:雇用契約と認めさせるのは難しいが損害賠償請求ができる可能性は残っている。

内定取消しが争われた裁判例

実際に内定取消しが裁判で争われたケースをご紹介します。

インフォミックス事件;中途採用の内定取消し

他会社からスカウトを受け内定を受けたのちに、スカウトを行った会社の業績悪化を理由に内定取り消しを受けた事件です。判決として、内定取り消しの無効と、1年分の賃金仮払いの仮処分を受けました。

大日本印刷事件:新卒採用の内定取消し

新卒労働者は在籍大学の推薦を受けて求人募集に応じ、筆記試験と適性検査を受け採用内定の通知を受けるが、新卒労働者の在籍大学が求人募集に対する学生の推薦に関し、「二社制限、先決優先主義」を徹底していた為、新卒労働者は内定通知を受けた後、大学の推薦で応募していた他社への応募を辞退した。

しかし、入社予定日の約2ヵ月前に突然、採用内定取消しの通知があり、理由も示されていなかった。取消し通知のあった時期が遅かったため他の企業への就職が事実上不可能となり、就職することもなく大学を卒業するに至る。

そこで、採用内定取消しは合理的理由を欠き無効である等主張して、従業員としての地位確認等の訴えを提起。

判決:労働者側勝訴

企業側の採用内定取消しは無効とされた。

採用内定により、労働者が働くのは大学卒業直後とし、それまでの間に企業と学生が取り交わした誓約書に記載されている採用内定取消し事由があれば会社が解約することができることを約した労働契約が成立したと認められた事例です。

World LSK事件|損害賠償請求事件

被告から、当時の勤務先の退職日翌日から就業を開始する旨の採用内定が出されたことから、原被告間では、同日を就業開始日とする解約留保権付労働契約が成立したと主張する原告が、被告は合理的かつ相当な理由を示すことなく一方的に採用内定を取り消したなどとして、損害賠償を求めた事案。

被告の代表者が、具体的に確定した雇用条件で原告を採用する旨の意思表示をした時点をもって、本件労働契約が成立したと認められるところ、被告は、本件労働契約が成立しているにもかかわらず、原告に対し、原告の就業開始日翌日に、突然、採用を取り消す旨の意思表示をしました。

また、その点につき何ら合理性のある理由を説明していないから、違法な採用内定の取消しを行ったというべきであるとして、132万7,800円の支払いが命じられた。

裁判年月日 平成24年 7月30日

裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決

事件番号 平23(ワ)38272号

事件名 World LSK事件

裁判結果 一部認容、一部棄却

文献番号 2012WLJPCA07308001

その他:損害賠償請求が伴った裁判

【事件名】コーセーアールイー事件

控訴人から採用の内々定を得ていた被控訴人が、内定通知書授与日の直前に内々定の取消しを受けたことについて損害賠償を請求した事例。

判決:被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

裁判年月日 平成23年 3月10日

裁判所名 福岡高裁 裁判区分 判決

事件番号 平22(ネ)664号 ・ 平22(ネ)883号

事件名 損害賠償請求控訴事件、同付帯控訴事件〔内々定取り消し訴訟・控訴審〕

裁判結果 原判決変更、附帯控訴棄却 上訴等 確定

文献番号 2011WLJPCA03106001

新卒者が知っておくべき内定に対する厚生労働省の取り組み

求職者には以外と知られていませんが、新規学校卒業者、いわゆる「新卒者」には、厚生労働省から、「新規学校卒業者の採用内定取消し・入職時期繰下げ等への対応について」という政策があり、ある程度の保護施策が実施されていますので、参考にしていいただければと思います。

新規学校卒業者(新卒者)に対して

内定取消をされた学生に対して、ハローワークの紹介

  1. 採用内定取消しの通知を受けた場合や、内定辞退を強要された場合の対応についてのアドバイス
  2. 入職時期繰下げ(自宅待機・入社日の延期など)の通知を受けた場合の対応についてのアドバイス
  3. 全国の学卒求人情報の提供、職業紹介など、就職活動のサポート

上記のサポート等を実施しています。

適正な募集・採用計画の立案採用を行う事業主に対して

・事業主は、募集人数の決定にあたり、「若干名」「◯◯人以内」等の不明確な表現、実際の採用人数を超えた募集等は避け、採用人数を明確にするよう努める。

内定取消しについて

  1. 事業主は採用内定を取消さないものとする。
  2. 事業主は、採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講じること

採用内定で労働契約が成立したと認められる場合

  1. 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効となる。(労働契約法第16条)
  2. やむを得ない事情により採用内定取消を行う場合、使用者は解雇予告等解雇手続を適正に行う必要があるとともに、採用内定者が採用内定取消の理由について証明書を請求した場合には、遅滞なくこれを交付する(労働基準法第20条、第22条)
  3. 事業主は、採用内定取消しの対象となった学生・生徒の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、学生・生徒からの補償等の要求には誠意を持って対応する

入職時期の繰り下げについて

  1. やむを得ない事情により、新規学校卒業者の採用内定取消しを行おうとする事業主 は、所定の様式により、あらかじめハローワーク及び施設の長に通知する(職業安定法施行規則第35条第2項)ただし、募集人数の合計より30人以上かつ3割以上減ずる場合に限る。
  2. 採用内定の際に定められていた入社日は変更しないものの、事業主の都合により休 業させ、実際の就業をさせない措置(自宅待機)を行う場合には、その期間について、 労働基準法第26条に定める休業手当を支払う必要がある
  3. 事業主の都合により、採用内定の際に定められていた入社日を延期する措置(入社 日の延期)を行う場合には、原則として採用内定者の合意を得る必要があります。
  4. 事業主は、入職時期繰下げを受けた学生・生徒からの補償等の要求には誠意を持って対応することが求められます。(新規学校卒業者の採用に関する指針)

その他に、『労働条件の変更』や『内定辞退の強要』についても記載があります。


突然の内定取消しに困っている場合の対処法

就職が決まっていて、その企業に入ることを前提に準備を進める求職者に対して、突然「やっぱり来なくていいです」はキツすぎます。就職率の低さが嘆かれる今の就労状況において、一旦働いていない『空白の期間』ができることははっきり言って致命的と言えます。

では、内定取消をされた場合に、どのような行動をとればいいのでしょうか?

1:何としてもその企業に入りたい場合

「大日本印刷事件:新卒採用の内定取消し」の例が参考になりますが、入社直前に言われても事実他社への就職が困難な場合、「従業員としての地位」を訴える訴訟を起こすことができます。

認められれば望む企業の従業員として働くことができる可能性があります。しかし、一旦内定を取り消された企業で働きたいかどうかは、個人の判断になります。

2:内定取消しに対する損害賠償請求

その企業には入りたくないが、せめて何かしらの形で再就職までの保障が欲しい場合、内定取消しに対する損害賠償請求です。

内定により雇用契約が成立していた場合は固より、内定前でも内々定通知書や具体的な労働条件の提示があるなどにより、雇用契約締結に合理的な期待が生じていたといえる場合は、認められる可能性があります。

3:未払い賃金の請求をすることもできる

もし、企業が採用内定取消しを撤回しない場合には、労働審判や裁判をして、従業員としての地位のあることの確認しつつ、就労予定日以降の未払賃金の請求をすることができます。

例えば、4月に入社予定だったとして、内定を違法な理由で取り消され、労働審判を6月に行ったとした場合、4~6月までの給与を請求します。その場合、内定により雇用契約が成立していることの証拠を集めることが必要です(内定通知書や採用担当者とのやり取りのメール等)。

具体的な手続きは、本人が行うことも可能ですが、専門性が高い手続きとなるため、本当に労働審判を起こす場合は、弁護士に依頼した方が精神的負担も軽くなりますし、正当な補償を獲得できると思います。

何より、企業によっては顧問弁護士がいるケースがほとんどですので、弁護士に対抗するには弁護士を雇うなどをしないと、勝てる裁判も勝てなくなる可能性があります。

内定取消しが解消されず無職になった場合

ここからはあなた自身の考え方によるところが大きいのですが、仮に内定取消しが無効と判断され、その会社で仕事ができるとしても、コンプライアンスを疎かにしている企業では、辛い労働環境の下に置かれるリスクがあります。

また、入社してからがっかりするより、早めに分かってむしろよかったと開き直ることも一つ考え方です。

幸い、厚生労働省やハローワークが連携して最低限のフォローをしてくれているので、可能な限り足を運んでみるのも良いかと思います。


まとめ

もし、内定取消しがわかって日が浅いのであれば、すぐに弁護士に相談されることをおすすめします。

専門家の意見を聞くことで、諦めていた企業への入社が可能になる可能性もありますし、入れなかったとしても、今後の人生において、会社側に対してどのような手段をとっていくべきか、今後の道筋が見えるはずです。

新卒採用は人生で一度しかない貴重な機会です。

それを一企業のせいで台無しにしないように、自分の望む、後悔のない選択をしていただければ幸いです。


出典元一覧

労働契約法の制定過程と今後の展望|労働政策研究・研修機構(JILPT)

厚生労働省|大卒等就職情報WEB提供サービス

厚生労働省|新規学校卒業者の採用に関する指針

インフォミックス事件|公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会

労働契約法

労働基準法

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