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なぜ、日本の教育でICT化は進まないのか/猪口 真

INSIGHT NOW! / 2018年5月28日 8時7分

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猪口 真 / 株式会社パトス

eラーニング市場は順調に成長

BtoB、BtoCにかかわらず、国内eラーニング市場規模は拡大しているという。矢野経済研究所の調査結果によれば、2017年度の国内eラーニング市場規模は、前年度比13.2%増の2,000億円を見込むという。その内訳は法人向け(企業・団体内個人を含む)のBtoB市場規模が同3.9%増の620億円、個人向けのBtoC市場規模が同17.9%増の1,380億円であり、前年度に続き両市場ともに拡大見込み、だという。

さらに、2018年度の国内eラーニング市場規模は、前年度比3.6%増の2,071億円を予測している。その理由として、BtoB市場は良好な雇用環境を背景とする顧客企業の人材育成投資の活発化によって、堅調推移を継続させる、らしい。

(矢野経済研究所のリリースより)

この数字だけ見ると、いよいよ日本でも教育のICT化が本格化してきたかと思えるし、ほかの業種と比べても、けっこうな伸び率と見える。

EdTechの出現

しかし、果たしてそうなのだろうか。

昨年あたりから、EdTech(教育:Educationと技術:Technologyの頭文字を組み合わせた言葉)と称し、教育にデジタルテクノロジーを活用し、イノベーションを起こそうとする動きが活発化している。

なんと本家アメリカでは、そのEdTech 市場は、2022年時点では400億ドルを超える市場規模になると予想されているという。

もちろん、eラーニングとEdTechでは、概念が違うし、カバーする範囲もかなり違うだろうから、単純な市場規模比較はできないが、なぜこうも違うのかと単純な疑問が起きる。

もともとeラーニングは、PCやインターネットを使った学習のことであり、別の呼び名としては、CBT(Computer-Based Training)や WBT(Web-Based Training)などと言われたこともある。なので、どちらかといえば、通信教育がネットとPCに置き換わったぐらいの感覚であった。(カタログ通販がネット通販に置き換わっていったことと似ている)

しかし、eコマースが、これまでの通販の概念を大きく超えるほど発展してきたように、教育に活用できるデジタルテクノロジーは、eラーニングが出現したときとは大きく異なっている。

まず、モバイルの発展だ。電車に乗れば、全員がスマホをいじっている光景はもはや珍しいことではなく、子どもから高齢者まで、カバー範囲は広い。画面サイズや解像度に問題がなくなった現在のクオリティを考えれば、むしろ、応用範囲も広く、集合研修や通信教育では不可能だったことでも、モバイルなら実現できることも多い。

また、動画にしてもコミュニティにしても、無料プラットフォームが増加し、活用方法によっては、コスト面での不安がなくなるのも大きい。事業者的には、コストが下がるだけなら歓迎されないだろうが、コストがネックで実現できなかった企業や企業内個人にも開拓のチャンスは広がる。

ビッグデータが教育を変える?

教育のICT化で最もインパクトが大きそうなのが、個別カスタマイズ、教育コンテンツの自動生成などが可能になる、ビッグデータの活用だろう。

ある程度、デジタル化されたラーニングが進み、データが蓄積されれば、これまでのeラーニングとは大きな違いが出そうだ。

知識系のコンテンツはデジタル化しやすいうえに、AIによる判断も難しくないだろうから、受講者の回答レベルや内容に応じたコンテンツの生成やフォロープログラム管理、同じような課題を抱える人とのコミュニティへの誘導など、さまざまなことが可能になる。

さらに、受講時に生まれたナレッジを現場に生かせるように、ナレッジマネジメントとの連携が進めば、教育現場がイノベーションの場になることも夢ではない。

こうした点を考えれば、やはりポイントは、教育手段をどうするかということだけではなく、企業全体としての統合化されたデジタル化の推進が課題となりそうだ。

たとえば、eラーニングが普及している企業であっても、企業内のナレッジとeラーニングを管理するLMSが統合されている例を聞いたことはないし、せいぜい、集合研修などの受講記録と連動し、社員の研修受講管理が一元化されている程度だろう。

教育の現場でイノベーションを起こす

本来の教育目的は、研修や受講プログラムで得た知識やスキルを現場で生かすことなのだから、企業のバリューチェーンのなかですぐに活用できるように、経営者やマネージャーは、マーケティングや研究開発、組織づくりにおける情報のデジタル化を進め、教育現場との一体化を図るべきだろう。

現在、企業におけるビジネスの現場と教育現場が意識の乖離、あるいは信頼関係の欠如に陥っているという話をよく聞く。情報も共有されず、双方を管理できる人材もいないとしたら、それは当たり前のことだ。

eラーニングと言って、既存教育の置き換えをデジタルで行うという発想では、市場規模の拡大も起こらないだろうし、何より教育効果のアウトプットもたいして変わらないだろう。

大げさかもしれないが、EdTechの概念とは、EdTech自体がイノベーションであると同時に、教育の現場がイノベーションの場となるように、EdTechによってイノベーションを起こすという、新たなバリューチェーンの創出を意味するものであってほしいと願う。

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