なんどやってもうまくいかない人:連打バカの袋小路/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2018年6月3日 17時36分
![なんどやってもうまくいかない人:連打バカの袋小路/純丘曜彰 教授博士](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_10074_0-small.jpg)
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
「先生、これ、なんどやっても、うまくいかないんすよ!」と、学生が文句を言う。講義のレポートをネット提出させているのだ。しかし、その手もとを見ると、こう言いながらも、画面を、ベシ、ベシ、ベシ、ベシ、と連打しまくっている。どう思う?
こんなこともあった。もう三十年以上も前のことだが、実話だ。機械に弱い旧世代の上司が、珍しく早出してきて、誰もおらず、仕方なく自分でやってみたらしい。おい、ほら、あれだ、あのファックス、壊れてたぞ。なんべん送っても、紙が戻ってきちゃうんだよ。どうもファックスを空間転送装置のようなものと思っていたらしい。その場にいたスタッフはみな、凍りついて、言葉を失う。先方も、朝っぱらから、床に散乱する大量の受信紙を前に、なにか嫌がらせ、インネン付けとしか思えなかっただろう。
これも、実話。仕事のできない事務局の教授が、学会案内の無圧縮画像入り超巨大ファイルを数百人の全会員向けメールに貼り付けて送信。それがすぐにうまくいかないものだから、その同じ超巨大メールを何十回と連打。個人のメーラーアプリはもちろん、あちこちの大学のメールサーバーさえも機能停止させ、大騒ぎになった。会員の方が各自、所属大学の方に説明を求められ、腹立たしい、腹立たしい。
うまくいかない、もう一度、やってみる、またうまくいかない。それでまたやってみる、やっぱりうまくいかない。そして、なんどもやってみる。そのうち、いらついて連打! 機械に限らない。ストーカーなども、同じ種の連打バカ。いっぺん振られたら、そこで立ち止まって、我が身を振り返るべきなのに、そのままなんども連打。それで、犯罪者扱いへ直行。
試験に落ちまくっているやつ、酒・タバコ・ギャンブルが止められないやつ、女癖・男癖、手癖・始末が悪いやつ、転職や借金を繰り返しているやつ、宗教や病院を渡り歩いているやつ、人生に失敗しまくっているやつ。みんなたいてい、この連打バカ。同じことしかしていないのに、次こそはうまくいく、なんとかなる、と、理由も無く簡単に信じられる脳天気な人々。
たかだかメールで、送り先や設定が間違っていて、送信できない、相手に届かないというだけなら、まだまし。どこか知らない、間違った相手に届くと、えらい迷惑。もっとまずいのは、よく知っている相手への御送信。内容によっては、大変なことになる。まして人間関係や生活関係では、一度でも大問題なのに、それを繰り返すようでは、人として話にならない。
ところが、本人は、機械が壊れている、相手が間違っている、と強固に信じ、自分を被害者のように思い込んで、それを広言するから、いよいよ周囲を呆れさせる。機械が壊れている、相手が間違っているせいで、自分はこんなひどい目に遭っている! みんな聞いてくれ! だが、機械が壊れている、相手が間違っていると思うなら、もうそこですぐに止めればいいのに、それでも連打し続けることで、どんどん問題を大きくして、自分を袋小路に追いやる。そればかりか、周囲からも、ああ、あの変なやつ、あの使えないやつ、また騒いでるよ、とレッテルを貼られ、いよいよその状況から脱出できなくなる。
うまくいかないから、またやってみる、連打する、という発想は、いったいどこから出てくるのだろう。古い機械仕掛けなどだと、それでサビかなにかが取れて、うまくいく、ということでも、子供のころにあったのだろうか。だが、電子機器となると、一度、うまくいかないことは、おそらくまず、同じことをまたやっても、また同じように、うまくはいくまい。人間関係でも同じで、押しの一手で、どうにか、などということは、まず通用しない。そんなやつは、よけい嫌われ、かえって絶対にうまくいかなくなる。
だが、こういう連打バカは世に少なくないらしい。最近のサーバーは、たいてい、そういうバカの連打送信を、スパムとしてブロックするようになっている。そして、いったん連打でスパムとして記録されたら、その後でいくらやり直しても、もうダメ。人間関係でも、こういう連打バカは、確実に出禁だろう。それでさらにクレームで絡めば、つきまとい、ストーカーとして、いよいよ接見禁止。
うまくいかなかったら、その場ですぐに、自分のやり方の方を疑う、というのが、第一。それに問題が無いのを改めて十分に確かめた上で、できれば人に相談して、別の目で見てもらった上で、慎重またやってみて、それでやはりうまくいかないなら、機械や先方のバグを疑う、というのが、第二。そして、これ以上は、もう同じことを繰り返し試しても、かえってトラブルを拡大するだけ。だから、ここでいったん諦めるのが無難。それでも、どうしても、と言うのであれば、第三は、ほかの人に、ほかの機械、ほかの窓口から、後で試してもらう。なんにしても、なにも考えず、ただ同じように力任せに連打しまくるのは、無駄なだけ、本人が行き詰まるだけでなく、周囲や世間としても、たいへんな迷惑。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)
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