歴史や価値とともに変化する「お値段」④── 古書/LEADERS online
INSIGHT NOW! / 2018年6月7日 10時30分
LEADERS online / 南青山リーダーズ株式会社
出版界だけではない。縮小する古書業界?
現在、出版界は本の売り上げの落ち込みに苦しんでいます。新刊の販売総額は、1996年をピークに長期低落傾向にありましたが、2009年にはついに2兆円を割り込みました。新刊のみならず、月刊誌、週刊誌、コミック等の紙媒体は総じて減少傾向にあります。
一方、古書業界ではどうでしょうか。環境省がまとめた「リユースの市場動向調査結果」というレポートがあります。これはつまり、中古品の消費動向に関する調査です。ちなみに中古品の売買は、消費者物価指数などの踏系には反映されません。
この調査によると、2016(平成28)年の数字を2012(平成24)年度の調査と比較すると、「書籍」の推計購入者数は、2264万人から2073万人で192万人減。パーセンテージにすると、マイナス8.5%となります。推計市場規模は994億円から787億円で207億円減。こらちはマイナス20.9%となります。この結果からも古書業界も縮小傾向にあるようです。
ネットとは異なる独特の味わい。古書集めの楽しみ
「読書離れ」という言葉に代表されるような、先述した数字の変化(減少)は、本というものへの人々の意識が大きく変化しつつあることを示しているのでしょう。
しかし、世の中にはネットやテレビでは出合うことのできない情報も大量にありますし、とくに古い本にはネットとはまったく異なる独特の味わいがあります。これこそ、「古書マニア」という人たちが存在するゆえんでしょう。
現在では、古書の世界にブックオフやAmazonなどの新しい業態が登場したことで、古書をめぐる世界や概念も様変わりしました。
さて、古書の値段が高くなるためには、いくつかの条件があります。
●本文のページ折、書き込みなどがされていないこと。
●カバーや帯(本にまかれる宣伝文を記した横長の紙)など新刊時についていたものが欠けていないこと。
邪魔だなと感じる帯つきが、驚くような値段の古書に!
面白いのは、帯です。読んでいる時には「邪魔な紙片」だと思うこともありますが、出久根達郎氏の『作家の値段』によると、三島由紀夫の短編集『魔群の通過』(昭和24〈1949〉年、河出書房)は、美本の場合、本体だけで20万円ほどした貴重本ですが、帯がついているものはめったに世に出ることがなく、もし帯つきが出てきたら、「驚くような値段になるだろう」とされています。ちなみに現在では、ネット古書店では帯なしの『魔群の通過』は8万円ほどの値がついています。これほどの高値を見ると、まだまだ三島本の愛好者はいなくなっていないようです。
もう一つは、やはり初版本です。
初版でしかも著者のサインが入っていたりすると、やはり古書値は高くなります。
三島由紀夫は、通常の装丁と限定版の豪華本をよく作ったことでも有名ですが、こうした豪華本は古書マニアのあこがれの的です。
昭和39(1964)年に出版された豪華本『仮面の告白』は、毛筆の署名と番号入りで、しかも金属フレームのガラスの表紙で箱入り、限定1000部というものでした。現在ネットで3万円ほどとなっています。
誰も見ないような本でも、希少性が古書の価値を決める
古書の価値は、やはり希少性、つまり数が少ないことで決まります。
たとえば、時代小説を書く小説家や、歴史を研究する歴史家は、人が使っていない珍しい資料をいかに見つけらかに神経を注ぎます。
小説家の故阿川弘之氏は、生涯で一番高かった古書は『旧海軍恩給加算調書』(1964年、厚生省援護局、全7巻)で、数十万円したと書いています。
これは旧日本海軍の軍人恩給の算定の基礎資料なのですが、同書を見れば旧海軍のあらゆる戦艦の行動や寄港地のほとんどすべてがわかるという貴重な資料であり、希少性は非常に高いもの。ちなみに現在ネットでも、同書は流通していないようです。
そんな希少性が非常に高い本を「誰が必要とするんだ?」と思われるかもしれません。しかし、だれも顧みなくなった、特定の本にしか書いていないことはあるのです。そして「情報の価値」だけではなく、それ以上に、本には手触りや活字の味わいなど、やはりかえがたい魅力があります。
入手困難だった本が、奇跡の復活を遂げていることも
こうした魅力が得られるかぎり、縮小しつつあるとはいえ古書は残り続けることでしょう。いかにネット上で情報が氾濫しているとはいえ、ネットで調べることには限界があります。そして、ネットからは得られない情報もあまたあります。
そうした希少な情報や著作物を、パソコンの画面ではなく実際に手にした時の喜びは得難いもの。さらに最近は、絶版本を紙と電子で復元する動きが大手出版社などで行われており、入手困難とされていた本が奇跡の復活を遂げていることもあります。「もう一度、あの本が読みたい。でも、もう手に入らないし……」とあきらめている方がいれば、あらためてネットで検索してみるとよいかもしれません。
〈プロフィール〉
帰路游可比古[きろ・ゆかひこ]
福岡県生まれ。フリーランス編集者・ライター。専門は文字文化だが、現代美術や音楽にも関心が強い。30年ぶりにピアノの稽古を始めた。生きているうちにバッハの「シンフォニア」を弾けるようになりたい。
【記事元】
日本クラウド証券株式会社 https://crowdbank.jp
日本クラウド証券メディア マネセツ https://manesetsu.jp
【転載元】
リーダーズオンライン(専門家による経営者のための情報サイト)
https://leaders-online.jp/
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
学生街・早稲田から消える書店 崩れる共存共栄の構図
毎日新聞 / 2024年11月20日 8時0分
-
シリーズ累計6万部突破!TVドラマ化された話題の“絶対号泣”小説『さよならの向う側』新シリーズ『さよならの向う側 ’90s』、『さよならの向う側(文庫版)』が11月20日同時発売!
PR TIMES / 2024年11月18日 15時15分
-
明治大学が「山の上ホテル」を継承 ホテル機能を継続しつつ学生支援等に利活用
おたくま経済新聞 / 2024年11月15日 15時0分
-
明大が山の上ホテル土地&建物取得、創立150周年事業の一環、12・27公開のん主演映画舞台
日刊スポーツ / 2024年11月15日 11時49分
-
1990年代のコミックにこだわり 那覇市泊の古書ラテラ舎
沖縄タイムス+プラス / 2024年10月27日 13時0分
ランキング
-
1「バナナカレー」だと…? LCCピーチ、5年ぶりに「温かい機内食」提供…メニューは? 「ピーチ機内食の代名詞」も復活
乗りものニュース / 2024年11月24日 12時32分
-
2冬の味覚ハタハタ、海水温上昇で今季の漁獲量は過去最低か…産卵場所に卵ほとんど見つからず
読売新聞 / 2024年11月24日 11時52分
-
3異例の「ケーブル盗難でリフト運休」 スキーシーズン前に 捜査は継続中
乗りものニュース / 2024年11月24日 14時12分
-
4年収壁見直し、企業の9割賛成 撤廃や社保改革要請も
共同通信 / 2024年11月24日 16時22分
-
5「中間管理職を減らしたい」企業の盲点 リストラで起こる、3つのリスクに備えよ
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年11月24日 8時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください