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ロジカルシンキングを越えて:3.MECEとロジックツリーの誤解/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2018年6月11日 22時22分

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伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

ロジカルシンキングの本を開くと、一番初めに必ずMECEという用語が出てきます。これは、「ミューチュアリーエクスクルーシブ、コレクトリーエグゾースティブ」の略なのですが、日本語では「もれなくダブりなく」ということです。

これを教えて満足気な講師も昔はいましたし、いいことを聞いたと帰っていくビジネスマンもいました。でも、一ミリも使えないことが多いですね。

とあるロジカルシンキング本には、「世界を地域と国に分けるとこうなりますよね、こういうふうに分けるとわかりやすい。ビジネスでも、こういうふうに分けましょう」と書いてあったりします。

しかし、これを聞いて会社に帰ると、確かに分けてはあるけれど・・・、というような整理をしてあるビジネス文章に落ちるだけです。

MECEはある意味で「はさみ」のようなものです。はさみで切って分けて切って分けて、とやっていくようなものです。単に切っていくだけ、分けていくだけでは、そのうち、すべてが細切れになってしまうだけです。

研修から帰ってきて気づくのです。「分けてからどうすればいいんだろう?」と。これでは困ってしまいます。

また、大学生の就職活動の指導にまでMECEは使われているようです。以前、マックカフェでコーヒーを飲んでいたら、隣の席に座ったいかにも就職活動中の女子大生のような女の子が「自己P、MECEに言えたよー」と言っていました。

おそらく、巷に自己PRのフレームワークみたいなものが流通しているのでしょう。この女子大生が言っているのは、「漏れなくダブりなく自己PRを伝えられた」というような意味なのだと思います。

コンサルティングの研修を受けたような人たちが、さもそれっぽく自己PRの書き方を教えてお金を取るにはいいのかもしれません。ただし、これは本来のMECEではありません。

そもそも、コンサルティング会社の中では、MECEというものはどのように使われてきたのでしょうか?

先に書いたように、初期のコンサルティング会社内には、そもそもワークプランもありませんでした。職人が職人芸として仕事をする時に、ワークプランなんてありえませんよね・・・。

しかし、戦略の実行支援、業務改革が全盛となり、コンサルティング会社内にコンサルタントを量産するようになった時、一定のプロセス管理が必要となってきました。

例えば、大企業全社の業務改革の検討領域は多岐にわたります。それをさすがに分業せずにやるのは至難の業です。ある程度、検討領域を分けた上で、更にその領域を詳細化していく際に、分業が必要となります。

そういう時に、MECEという技術とロジックツリーという表現形式が共有されていれば非常に便利です。

プロジェクトの検討領域を大きく分けて領域別に担当者に渡していけば、検討領域が詳細化されていく。その詳細化されたものを見れば、クオリティ管理もできてしまう。

検討すべき論点を考え、詳細化していく際に、MECEは力を発揮します。企業のリソースは有限です。費用効果的に大規模な検討をするには、MECEに論点を分けていくことが非常によいのです。

余談ですが、ある時、「MECEなアクション」とおっしゃっているコンサルタントがいて、ちょっとびっくりしました。漏れなくダブりないアクションを実行するというのは、平均的なことをひたすらやり続けるということに他なりません。戦略概念の完全な否定ですね・・・。

検討する時に、重要なことがあるといけないので、あまり漏らしたくない。かといって、だぶっていると効率が悪い。

だから、コンサルティングの検討においては、論点をMECEに分けていくことが求められるのです。

しかし、だからといって、すべての領域を検討することなどできません。時間とコストの問題があってなかなか現実的ではない。そうすると、プロジェクトマネジャーによる判断で、どのあたりをより深くやっていこう、ということが決まるわけです。

どうやって決まるか?というと、乱暴にいえば感覚です。このへんに大事なことがありそうだ、と。

MECEなどのロジカルシンキングの普及時に、誤解が多々あったと思うのは、このあたりです。結局、要所要所で人間の感覚の「決め」があって、プロジェクトは進んでいく。全て「客観的」に根拠をもって進んでいくわけではない。

もう少し言えば、「客観的に」正しいアクションなど存在しません。未来にならなければその成否はわからない。

有名な例を引いてみてみましょう。2010年、南アフリカでサッカーのワールドカップが開催され、日本は大方の予想を覆し、ベスト16という結果を残しました。開催前のインタビューで日本代表の岡田監督が「ベスト4を目標とします」と言った時、サポーターが「根拠を示せ」と言っていたのが印象的でした。

一般的に言った場合、果たして未来の目標に根拠はあるのでしょうか?

目標があるから、現状とのギャップが生じ、そのギャップを埋めるために何をするか?どうするか?が決まっていく。その何をする、どうする?がなるべく再現性を持つように工夫する。そのヒントとしてファクトがある。これならわかりますが、目標に根拠をというならば、人は、企業はどのように成長すればいいのでしょうか?

この「根拠を示せ」という質問は、一見ロジカルですが、わかってない人の典型だと思いました。

MECEに検討したとしても、すべての情報が得られるわけではない。もしも、すべての情報を得られることが前提となり、情報を得るスピードや規模の勝負になったら、一番資本力がある所が勝ち続けることになるだけです。そうすると、戦略なんてあったものではないわけです。少し前に、業務系のコンサルティング会社が主張した「メガコンバージェンス」などはその典型ですね。

まとめますと、検討領域の大きな業務系のプロジェクトに、多数のコンサルタントを動員した場合に、効率を確保するために、MECEという技術が生まれたということです。

当然、分けていった後に、アクションに結び付けなくてはいけないわけですが、これがまた、MECEとは別の難しい技術が必要となってくるのですが、そんなことはなかなか書籍に書いてありませんし、教えることができる人もごく少数です。

それは何かと言えば、いわゆる「主語にとっての意味合い」を見出す技術です。

一昔前、「シンクタンクの報告書には主語がない」と揶揄する有名なコンサルタントがいました。確かに、シンクタンクの業務は、客観的な基礎データの整備と言う側面もあります。それはそれで社会的な価値はあります。しかし、報告書に事実を並べたところで、その事実の読み方、「意味合い」を提示しなければ、アクションに結びつきません。

コンサルティング流に言うと「意味合い」、もう少し普及している言葉でいえば、いわゆる「インサイト」に近い概念です。広告業界回りで流行った「コンシューマーインサイト」に近いは近いのですが、ちょっと違います。

まず、同じ事実でも見る人によって、「意味合い」は違うということを見てみましょう。

たとえば、学校のテストで、ずっと30点を取っていた小学生が60点を取るとします。そして、ずっと90点を取っていた小学生が60点を取るとします。この2つのケースは「小学生が60点を取る」という点においては同じ事実なわけですがこの2人の主語にとっては事実の意味が違いますよね。

30点ばかりとっていた人にとっては、「すごくいい点数だ!勉強しなくてもこれだけ取れるんだから、もう少し遊べるかな」と思うかもしれません。逆に、90点ばかりとっていた人にとっては、「ひどい点数だ。最近さぼっていたかもしれない。今後、もっと勉強しないと」と思うかもしれません。

また、90点を目標としている生徒がいたとします。その生徒の点数が、30点、30点ときて、60点になった。これはこれでまた意味合いが違います。

おそらく、その生徒は「目標に少し近づいたぞ。でも、まだあと30点の点数をとらなければならない。この60点を当たり前にする勉強、90点までのギャップを埋める勉強をしなくては!」と思うことでしょう。

これだけ聞くと簡単そうですが、企業の置かれた環境の中で、日々起こる事実の自社にとっての意味を考えていくことは、それほど簡単ではありません。企業の過去と、今後の戦略的方向性、現状の認識なども必要になります。が、このあたりの技術はビジネス界には、決定的に普及していません。

論理学でいうと、これは「語用論」の領域です。学者でいうと、オースティンの行為論が有名ですが、日本で論理学と言うと、構文論にばかり傾斜し、意味論を考える人ですらごくわずかです。そして、語用論となると、学部レベルで知っている人はほとんどいません。まともにこのあたりを語れる人はほとんどいないわけです。

ひたすらにありがちな誤解を書き続けて恐縮ですが、もう少しロジカルシンキングについてありがちな誤解を書き連ねていこうと思いますので我慢してお付き合いください。まずは「違う」ということ「誤解」について明らかにしていきたいと思いますので。

次回はファクトベース、積み上げをめぐる誤解について書いていきたいと思います。

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