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米朝会談の意義と半島の行方:世界史文明論の視座から/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2018年6月14日 17時11分

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

握手が何秒だったとか、語句が文章に入っていないとか、そういうちまいことは、テレビの「専門家たち」とやらに任せておこう。ほんとうの問題は、この会談が世界の歴史の中で、どのような意味を持つか、だ。

2015年7月、オバマ大統領がキューバと国交回復、17年1月就任したトランプ大統領は同年11月にヴェトナムを訪問、そして、今回の米朝会談。これらはいずれも冷戦の残滓の始末にすぎない。ミサイルやツィッターが大陸を越え、米国大統領が中ロの首脳と飛行機で直接に訪問し合う21世紀にあって、キューバも、ヴェトナムも、北朝鮮も、とっくに「前線」としての意味を失っていた。

もとはといえば、19世紀ナポレオン戦争後のウィーン体制。重厚長大な産業革命と資本主義が進展し、その資源と労働力、市場を確保するために国家主導で帝国主義と植民地が世界に拡大。ここにマルクスらは資本家と労働者の対立が深まると考えたが、実際は、英仏先行国は、スペインやポルトガル、オランダの旧植民地を奪取し、労働者を含めて生活水準が向上。一方、米独日伊の後発国の方で共産主義が普及。この状況を逆転すべく、これらの後発国は軍国主義で対外進出をもくろみ、旧世代国や先行国と緊張が高まって、ついには1914年の第一次世界大戦。そんな中、産業革命にも達していないロシアで17年に革命が起き、ソ連として中国などの植民地側の途上国との連携を拡大。旧世代国、先行国、後発国、途上国が複雑に絡み合って、39年の第二次世界大戦になだれ込む。

戦後は、旧世代国が世界の舞台から消え、米国が英国に代わって主導権を握り、これに戦火に焼かれた仏独伊日がぶら下がる。他方、ソ連は、中国など、解放された世界各地の旧植民地に拠点を築き、米国と冷戦へ。その最前線となったのが、朝鮮半島、東南アジア、中南米だ。また、植民地支配の弱まった中東やアフリカなどでは、軍事クーデタによる独裁政権が濫立。米ソ支援を巧みに利用し、その狭間で強固な基盤を確立していく。そして、北朝鮮も、「冷戦前線」と「軍事独裁」という二つの歴史軸の上に成り立ってきた。

しかし、戦後の歴史もまた、資本主義国の方が、資本家労働者対立どころか、生活水準を向上させた中産階級を出現させ、共産主義国の方が党員貴族と貧困庶民の極端な経済格差と腐敗汚職に陥ってしまう。その結果、89年にベルリンの壁が倒れ、東欧諸国に続いて91年にソ連本体が自滅的に瓦解。早くも78年から鄧小平が改革開放に舵を切っていた中国はうまく生き残り、その後、「世界の工場」として、米国をも凌ぐ国際的な立場を獲得。

すでに米ロは深い親交があり、米中に関しても、単純に対立できる状況ではない。そもそも、産業が、19世紀の重厚長大から生活物資や電子電脳へシフトしており、海域はともかく、資源や労働力や市場、つまり「植民地」を奪い合って領土を拡大する意味がない。それどころか、不要過剰な移民の流入をシャットアウトすることの方に、どの国も腐心している。また、第二次大戦後のミサイルは、二次元的な「前線」の意味を失わせた。そんなものは中国やロシアも持っており、軽く米国まで届く。

つまり、北朝鮮は、資源と労働力と市場の「植民地」として、また、資本主義と共産主義の「冷戦前線」として、とっくの昔に存在基盤を失ってしまっている。にもかかわらず、「軍事独裁」という片軸だけで、自国そのものが冷戦残滓の反米の「前線」となることで、東欧諸国などより四半世紀以上も延命してきた。しかし、かつての盟主、中国やロシアからすれば、あんな過剰人口だらけの超貧困国など、移民吹き出す旧連邦諸国以下のお荷物でしかない。中ロの支援の目途が立たたない以上、陸の孤島。いくらミサイルがあっても、瞬殺の報復で終わる。つまり、戦略的には、実際に手を打ってみるまでもなく、もう詰んでいる。あとは、武装解除、全面降伏、せめて敗戦日本のように体制護持を願うのみというところか。

じつは、韓国に関しても同様で、冷戦前線の軍事独裁国としてやってきたが、北朝鮮が米国との対立を叫んでいたからこそ、二次元的な「前線」として存在意義があっただけで、北朝鮮がミサイル開発に乗り出した時点で、韓国もまた、もはや「前線」ではなくなってしまっていた。今後、北朝鮮がどうでもいい国になれば、韓国もまた、いよいよ、どうでもいい国、でしかなくなる。いずれにせよ、半島は、どちらも、米中ロが多大な犠牲、高額の軍事費を消耗し合ってまで奪い合うほどの価値が無い。二次元の地政学では、半島は、内陸と太平洋、東北と西南を繋ぐ極東の要衝であったかもしれないが、三次元の21世紀では、外交も、経済も、貿易も、頭の上を飛び越え、米国内陸中西部のようになるだろう。

核兵器が廃棄されるか。北朝鮮がどうであれ、中国やロシアのものは、どのみち今後もなくなりはしない。むしろ北朝鮮が廃棄を急いでいるのは、国内で管理体制に不安を生じているからではないか。あの国は、体制護持のため、党員貴族を本丸の平壌に集中させすぎた。だから、少数の「民主改革」派でも、平壌で核兵器を使えば、一発で体制を崩すことができてしまう。この問題は、解放改革に方針転換しても変わらない。縮減される北朝鮮軍部は、ロシアのように、政治性を失った利権暴力マフィアになるだろう。そして、もっともカネになる核兵器をテロリストに売ることを考えるだろう。これだけは、国際社会としてまずい。

今後、東欧諸国をモデルとするような国際経済社会へのゆっくりとした取り込みを図っていくのだろうが、残存する武器弾薬が多すぎ、ユーゴスラビアのように局地的「内戦」が勃発する危険性もある。冷たく歴史を振り返るなら、あの半島がほんとうに単一民族であったことなどあるのだろうか。古来、さまざまな民族が入り込んでは奪い合い、半島内で争い続けてきた。そこから落ち延びてきて復興を企てる帰化人たちに騙され、日本も、その奪い合いに何度となく巻き込まれたが、そのたびに、ろくなことにはならなかった。隣の国だかなんだか知らないが、距離は関係が無いのが、飛行機とネットの現代社会。北だろうと、南だろうと、関わって、いいことは無い。米中ロも、本音は同じ思いなのではないか。だが、ミミズの缶詰は、開けたらもう元には戻せない。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)

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