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ロジカルシンキングを越えて:4.ファクトベース、積み上げをめぐる誤解/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2018年6月27日 22時47分


        ロジカルシンキングを越えて:4.ファクトベース、積み上げをめぐる誤解/伊藤 達夫

伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

「客観的にファクトを集めて、積み上げていった結果、こんな結論に至りました。」

コンサルティングサイドから出てくるブルーブック(報告書)は、さもこうであるかのように書いてあります。いわゆる、「そら、あめ、かさ」はまさにこういった考え方です。

「そら、あめ、かさ」とは、「空を見て、雨が降りそうだから、傘を持って出かけよう。」という枠組みのことです。知らない方のために、解説を試みます。

出かけたい人が、空を見る。空を見ると、どうも雲がある。風は北西の風。湿った空気が流れ込んできている。

空を見れば、多くのファクトが得られます。天気を決定する大きな要因は、大気の状態です。温度、湿度、雲の発生。上空の気圧や、周囲の気圧状況までは見ただけでは中々分かりませんけれど。

でも、出かけたい人は思うんです。「うーん。これは雨が降りそうだ」と。

ここは、よく考えるとすごいことを言っています。空を見ただけで「雨が降りそうだ!」と言ってしまう。判断してしまう。この人は天気予報職人でしょうか?

「雨が降りそうだ」はあくまで予測で、当たるかもしれないし、当たらないかもしれない。でも、出かけたい人はそう思った。だから、「傘を持っていこう!」ということを決める。

ここで「なぜ、傘なのか?」というのは大事なことです。傘しか持っていない人なのでしょうか? 雨合羽はスタイルに合わないから着ないのかもしれません。雨が降るとしても、持っていくものにいくつかの選択肢がある中で、傘を持っていくのです。そういうことを決めているのです。

これはビジネスに置き換えると、「環境を分析した結果、当社にとってはこのような意味合いが考えられるので、当社のリソース、ポジショニングもかんがみて、このようなアクションをしましょう」ということです。事実が正しく、その分析も見事で、アクションもクリエイティブであれば、確かに申し分がないです。

でもね、繰り返し述べているように、コンサルタントはこの順序で考えていません。この順序で報告しているだけです。

「そら、あめ、かさ」の例えを見てしまうと、さも、事実から考えて積み上げて行っているようですが、違うのです。コンサルタントには初めから、傘かレインコートが答えになりそうだなあ、というのが見えているのです。

見えていた上で、空を見ているのです。闇雲に空を見ても、あらゆることが目についてしまいます。

そう、事実は無限と思えるぐらい存在している。そこから可能性を考えて行ったら、それこそ無限の情報量を処理しなくてはなりません。

そんなことは人間には不可能です。また、そもそも人間の外部環境の認識もそんなふうにはできていません。

実は、「人間は意味合い優位」で物事を見ています。

たとえば、Twitter。ここでは「空目」という現象がよく観測されます。タイムラインを眺めていると、見間違いが多発します。いくつか、印象に残ったつぶやきを拾ってみると・・・

・「待つよ」を「侍つよ!」に空目。

・「動け!」を「働け!」に空目した・・・。

・「ボカロクラスタ」を「ボロカスクラスタ」に空目してしまった。

・「ブブゼラ」を「ブルセラ」に空目した。死にたい・・・。

・「ソムリエ」を「ソニエリ(ソニーエリクソン)」に空目した。あるある。

本当ですか?と思うような空目がやまほどありますが、こういうふうに人は空目をしてしまう。そもそも、人は事実を見ているというよりは、既に過去に見たものがかぶさって見えているのです。こういう、過去に得た知識を伴って知覚することを「認知」と言います認知心理学では基本的な考え方です。

未来にゴールを設定し、意思を持てば、それに伴った意味合いで事実が見えてきます。未来と過去があって、その上で事実認識をしているのに、人は事実を認識しているつもりになっている。

「傘を持っていく、レインコートを着ていく」が解としてイメージされていれば、雲や湿った風などの「雨が降りそうな事実」が際立って見えてくるわけです。そうでなければ、事実の選択などできません。積み上げているように見えても、必ずどこかから引っ張っているのです。

しかし、困ったことに上場企業は合理的な意思決定が求められます。「事実に基づいた客観的な意思決定をしないと、株主に対しての説明責任が果たせない」といったことに悩む経営者がいました。彼の口癖は「客観的なデータに基づく選択肢を持ってこい」でした。

事実に基づいて客観的な意思決定をするなどということは、そもそも不可能であり、できたとして費用対効果は非常に低そうなことはわかりそうなものですが、人は時にそういう幻想に囚われるのです。

この幻想を利用して業務改革を売りまくったコンサルタントもいます。「ベストプラクティスで属人性が排除されます!」などのメッセージがよく使われたと記憶しています。システムコンサルタントが基幹業務システムを売る時の常套句でした。

でも、よくよく考えてみればそんなことは起こりえません。自社の競争優位の源泉を考えてみたときに、それがどこにあるのかにもよりますが、みんなが導入していいものは、横並びになるだけです。みんなが何かしら同じものを導入したら、保有リソースが大きい会社が勝つだけです。

リソースの保有量が他社を圧倒するようなナンバーワン企業はそれでいいかもしれませんが、そうでない企業は、そうならないために違うアクションを実行するのです。これは戦略概念の基本中の基本です。

むしろ、あらゆる事実を検討してはならないのです。自社の固有の未来、固有の過去から見えてくる固有の事実が自社の差別化の源泉なのですから。

では、そのような固有の未来をどう発想するのか?が問題となってきます。そう、それは最近流行している「仮説」と「論点」のお話です。

次回は仮説と論点をめぐる誤解について書いていこうと思います。

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