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フレックスタイム制の仕組みと実態から見る残業代が発生した場合の対策/労働問題の解決に役立つ法律メディア 労働問題弁護士ナビ編集部

INSIGHT NOW! / 2018年6月29日 12時15分

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労働問題の解決に役立つ法律メディア 労働問題弁護士ナビ編集部 / 株式会社アシロ

フレックスタイム制(ふれっくすたいむせい)とは、労働者自身が出社時間と退社時間を決めることのできる、変形時間労働制のうちの一つです。

1987年の労働基準法改正に際に出来た制度で、労働基準法第32条3号で定められています。

第三十二条の三 使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることとした労働者については、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第二号の清算期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、同条の規定にかかわらず、一週間において同項の労働時間又は一日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
引用元:労働基準法第32条の3

以前の労働基準法では、1日8時間、1週間に48時間が最長の労働時間でしたが、改正で1日8時間の上限はそのままに、1週間の労働時間が最長で40時間に変更されましたという変更もありました。

労働者にとっては出退勤時間に自由度が出て、効率良く仕事が行える取り組みとして、主に労働者側にメリットがある制度として、従業員満足度の為にフレックスタイム制を取り入れる企業も増えてきています。

しかし、フレックスタイム制という特殊な勤務体系によって様々な問題が出ているのも現実です。今回は、フレックスタイム制の仕組みと、それに関連したメリット・デメリットを解説していきます。

フレックスタイム制の仕組み

繰り返しになりますが、フレックスタイム制で労働者の出退勤時間に自由度が出てくるため、社内での打ち合わせがスムースになると思われます。ただ、管理問題等もありますので、1日に必ず出勤していないといけない時間(コアタイム)を設ける場合も多いと思われます。

フレックスタイム制は、時間の自由度が高い制度ではありますが、各月就労を要する労働時間(総労働時間)が定められています。この定められた時間を超えれば残業代が発生しますし、不足する時間があれば不足分について賃金を控除することができます

フレックスタイム制の一日の見本

まず、フレックスタイム制には、2種類の時間の定義がありますのでそちらがフレックスタイム制の特徴になります。

コアタイム

コアタイムとは、フレックスタイム制の中で必ず出勤していないといけない時間のことで、通常の働き方で言う定時のことです。つまり、始めの時間にいなければ遅刻になりますし、コアタイムの途中で帰ると早退になります。

会議や外部とのやり取りなどがある場合は、通常このコアタイムに設けますが、労使協定のもと、合意の下であれば自由に決めらます。ただ、コアタイムは必ず設ける必要性はありません。

労使協定(ろうしきょうてい)とは
労働者と使用者(会社)との間で書面にて締結される協定のこと。

フレキシブルタイム

コアタイムの前後に設けるものがフレキシブルタイムになり、この時間にはいつでも出退勤が可能です。フレキシブルタイムはコアタイムの前後に設ける必要があり、前後どちらか片方に設けることは出来ません。

フレックスタイム制における労使協定の内容は重要

先ほど、コアタイムを設けるには労働者と使用者との間で「労使協定」をもとに決める場合があるとお伝えしましたが、フレックルタイム制を導入するためには労使協定は必須です。

書きでは、一般的なその項目を簡単にご紹介しておきます。

誰が対象者か

労働者全員なのか?個人なのか?部署ごとなのかを定めます。

清算期間

毎月1日から月末までなど。この範囲は1ヶ月以内となっています。

清算期間の起算日

上記と付随しますが、例えば「毎月1日」などの具合的な起算日を設けます。

総労働時間

所定労働時間のこと。1週間の労働時間は40時間以内など。

1日の労働時間

フレックスタイム制の対象者が年次有給休暇を1日取得した場合には、その日に標準となる1日の労働時間労働したものとして取扱うことが必要。

コアタイム

労働者が1日のうちで必ず働かなければならない時間帯

フレキシブルタイム

労働することができる時間帯に制限を設ける場合は、その時間帯の開始及び終了の時刻を定める必要がある。

参考:東京労働局|フレックスタイム制の適正な導入のために

フレックスタイム制は、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねているものの、使用者には、実労働時間を把握する義務があります。把握した実労働時間と総労働時間とを比較して適切な賃金清算を行ってください。
引用元:東京労働局|フレックスタイム制の適正な導入のために

フレックスタイム制の労働時間の管理方法とは

フレックスタイム制は、日毎で労働時間が変動し、長い日と短い日の差が出てきます。ですので、週ごともしくは月ごとの労働時間を設定します。

週ごと、月ごとに労働時間の設定をする期間を清算期間と言い、フレックスタイム制を取り入れている会社は、清算期間での総労働時間が通常の働き方の定時のような基準となります。

清算期間から総労働時間の計算方法

この総労働時間は、社内で設定することが可能ですが、上限があります。これは、通常の働き方での基準になっている法定労働時間(いわゆる定時)内に収まるようにしなければなりません。

聞いたことはないでしょうか?1日8時間以内、1週間40時間と定められているものです。ですので、フレックスタイム制の会社は、40時間もしくは月に◯時間以内に総労働時間を定めなくてはなりません。

月の法定労働時間は月ごとの日数で変わりますので、以下のようになります。

28日

160.0時間

29日

165.7時間

30日

171.4時間

31日

177.1時間

計算式としては

総労働時間 ≦ 清算期間(日数) ÷ 7日 × 40時間

が成り立ちます。

特例措置対象事業場は週の法定労働時間が44時間になる

一部、週の法定労働時間が長くなる「特例措置」というものがあり、この場合、週の法定労働時間が44時間になります。対象になる事業場は、以下のような業種で、常時労働者の人数が10名未満の事業場に限ります。

業種

主な内容

商業

卸売・小売・不動産管理・出版などの商業

映画・演劇業

映画の映写・演劇などの興業

保険・衛生業

病院・診療所・保育園・老人ホームなどの社会福祉施設

接客・娯楽業

旅館・飲食店・理美容・遊園地などの接客娯楽

清算期間の総労働時間を出す計算も、上記の式の「40時間」を「44時間」に変えて計算します。

総労働時間を超えれば残業代が発生する

総労働時間に関して、ご理解いただけたでしょうか。簡単に説明すると、この総労働時間を超えれば、それは残業となり、残業代が支払われなければなりません。詳しくは下記の「フレックスタイム制でも残業代は出る」で言及します。

総労働時間に満たなかった場合は賃金カット、もしくは翌月へ労働時間を繰越できる

フレックスタイム制を取り入れていると、極端に労働時間が少ない労働者も出てきます。極端な例を上げれば、コアタイムしか出勤せず、毎日5時間で働くような労働者です。

その場合、総労働時間に不足した労働時間を翌月に繰り越したり、不足分の賃金をカットすることが出来ます。

会社全体でフレックスタイム制を取り入れる必要はない

フレックスタイム制には、向き不向きがあります。例えば、従業員数が揃わないと作業が進められないようだと、コアタイムでしか作業が進みませんし、お客様対応が主な業務だと、フレキシブルタイムに担当者不在が起きてしまいます。

同じ会社でも、企画をする部署から、制作、営業と様々あります。フレックスタイム制は、社内全体で設けなくても、部署ごと、もしくは個人で設けることが出来ます。

フレックスタイム制導入のポイント

いかがでしょうか。フレックスタイム制についておおよそご理解いただけたでしょうか。補足にはなりますが、フレックスタイム制導入にあたっての注意点がありますので、簡単にご確認ください。従業員の方は以下の内容にきちんと合致しているかを確認しましょう。

フレックスタイム制について労使協定を締結すること

まず、フレックスタイム制を導入するにあたって労使協定を締結することが必須です。これは労働基準法に明記されており、労使協定を締結していない場合は労使間で合意があってもフレックスタイム制の導入はできません。

フレックスタイム制が労働条件となっていること

端的に言えば、フレックスタイム制の適用について就業規則等に明確に定め、これを従業員に周知する必要があるということです。ここでいう周知とは、規定内容を明確に認識させることまでは不要であり、従業員が規定を確認しようと思えばいつでも確認し得る状態に置いてあることで足ります。

例えば社内のイントラネット上に規定がアップロードされており、従業員はいつでもアクセスできる場合は現実にアクセスしたことがなくとも周知はされていると考えられます。

他方、就業規則は作成しているものの、従業員がその存在を知らなかったり、閲覧やアクセスの方法を知らなかったりと言う場合は周知は足りないと考えられます。

【就業規則の例】

(適用労働者の範囲)
第○条 第○条の規定にかかわらず、企画部に所属する従業員にフレックスタイム制を適用する。
第○条 フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の自主的決
定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午前6時
から午前 10 時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午後3時から午後7
時までの間とする。
② 午前 10 時から午後3時までの間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、所属
長の承認のないかぎり、所定の労働に従事しなければならない。
(清算期間及び総労働時間)
第○条 清算期間は1箇月間とし、毎月 26 日を起算日とする。
② 清算期間中に労働すべき総労働時間は、 154 時間とする。
(標準労働時間)
第○条 標準となる1日の労働時間は、7時間とする。
(その他)
第○条 前条に掲げる事項以外については労使で協議する。
参照:東京労働局

コアタイムの前後にフレキシブタイムが設けられていること

上記で簡単に触れましたが、コアタイムの前後には必ずフレキシブルタイムを設ける必要があります。言い換えると、フレックスタイム制では、出退勤時間はフレキシブルでないといけません。

18歳未満にはフレックスタイム制は導入できない

満18歳未満の年少者は、労働基準法第60条の規定によって、フレックスタイム制を導入することはできません。

フレックスタイム制にも休憩時間は必要

フレックスタイム制でも休憩時間を設ける必要があります。多くの企業は休憩時間を一斉に与えているため休憩時間はコアタイム中に設けています。しかし、別途労使協定を締結することで休憩時間についても労働者の自由な判断に委ねることは可能です。


フレックスタイム制のメリット

フレックスタイム制は、本来労働者にメリットの多い制度になっています。

個人が効率的に働くことで、無駄な残業が減る

毎日定時の時間が決まっていても、仕事が多い日と少ない日に差が出てきます。そうなると、仕事が少ない日は、定時まで時間を潰して、多い日は遅くまで残って、という風にどうしても無駄が出てきます。

フレックスタイム制は、仕事が少ない日にサッと帰って、多い日に時間を回すような効率的な働き方が出来ます。

ライフワークバランスが整い、生産性が上がる可能性がある

定時での働き方だと、前日遅くまで残業して、次の日早くに出勤する負担のある働き方が出てきます。フレックスタイム制は、前日遅くまで働いたのであれば、個人の判断で出勤を遅らせ、無理のない働き方が出来ます。

フレックスタイム制は労働者にも依然人気で求人が集まる

フレックスタイム制は、依然人気で、求人をするにあたって、一つのアピールポイントになります。フレックスタイム制を有効に活用できるような、自己管理のできる人材を採用できれば、会社の生産性も格段に上がります。

フレックスタイム制のデメリット

ある程度の自由度があるからこそ問題も発生してきます。

社員同士の情報共有が取りづらい

フレックスタイム制は、社員が同時にそれって仕事を始め、同時に終わることが無いため、社員同士の連携が希薄になりがちです。各々が業務をこなし、それぞれで連動できれば非常に良い形ですが、バラバラになってしまうと、相違が起こりトラブルの元になります。

取引先・外部との連携が取りづらい

フレックスタイム制は、各個人が必ず社内にいる時間が限られてくるので、外部との連絡が多い業務には向いていません。

フレキシブルな働き方に甘えてしまう労働者が出てきてしまう

フレックスタイム制では、ある程度の自由度はありますが、やはりその自由に甘えてしまう人は出てきてしまいます。極端に仕事も終わらせず、すぐ帰るようでしたら、上記のように総労働時間の繰り越しや、賃金カットもできます。

これは、フレックスタイム制に限ったことではありませんが、メリハリの無い働き方をしてしまう人がいます。

フレックスタイム制導入の実態

このように、比較的に会社にも労働者にもメリットの多いフレックスタイム制ですが、実際のところどれほどの企業がフレックスタイム制を導入しているのでしょうか。厚生労働省の「就労状況総合調査結果」によると、以下の調査結果が出ています。

フレックスタイム制導入企業の割合と推移

フレックスタイム制導入の推移
フレックスタイム制を導入する企業は、上の図ように5%前後を推移しています。少しずつですが減少傾向にあり、人気があるとは言え、導入している企業が減っていっているということが事実として考えられます。

平成20年が大幅に下がった理由としては、世界金融危機により、フレックスタイム制を導入する余裕がない企業が増えたことが背景として考えられます(あくまで憶測です。)

フレックスタイム制は従業員数が多いほど導入している割合が多い

従業員数

導入率

1,000人以上

21.7%

300~999人

13.2%

100~299人

6.9%

30~99人

2.2%

参照:「H27年就労概況時間制度|厚生労働省」

また、従業員数によるフレックスタイム制を導入している企業の割合ですが、平成27年の調査によると、上記のように従業員数が多い企業ほどフレックスタイム制を導入している傾向にあります。

これは、上記でもお伝えしたように、事業規模が大きくなるほど部署も複数に増え、その一部の部署でフレックスタイム制が導入されていると考えられます。

フレックスタイム制導入が多い業種と少ない業種

順位

業種

導入率

TOP1

情報通信業

17.0%

TOP2

複合サービス事業

14.4%

TOP3

学術研究、専門・技術サービス業

13.7%

WORST3

建設業/医療、福祉

2.0%

WORST2

教育、学習支援業

1.9%

WORST1

生活関連サービス業、娯楽業

0.6%

参照:「H27年就労概況時間制度|厚生労働省」

また、業種別にフレックスタイム制の導入が多い業種、少ない業種を見てみると、以上の結果になりました。特にフレックスタイム制を多く取り入れている情報通信業(IT)は、比較的新しい企業も多く、積極的にフレックスタイム制を取り入れていると考えられます。

下位になった業種の傾向としては、1日の稼働時間も多く、土日関係なく働くことも多い業種とも言えます。ただ、専門的もしくは対人的な業務内容が多いので、出退勤時間が決まっていないフレックスタイム制ではなく、変形労働時間制(シフト制に近い)で対応している企業が多くなっています。


フレックスタイム制でも残業代は出る

上記でも説明したとおり、フレックスタイム制の労働時間の基準は、清算期間による総労働時間になります。これを、週で設けている会社もあれば、月で設けている会社もあります。

この総労働時間を超えると、フレックスタイム制でも残業代は発生します。

1日の労働時間は基準にならない

フレックスタイム制では、例え1日12時間働いていても、月(週)トータルで総労働時間内に収まれば残業をしたことにはなりません。例として、1周間の総労働時間を40時間としていたとします。

すると、以下のような働き方でも、40時間を超えていないので、残業代は発生しません。

清算期間での総労働時間を超えると残業代が発生する

ですので、何度も繰り返しますが、会社で決めてある清算期間での総労働時間を超えた場合に残業代が発生します。確かに、1日12時間働いても残業代が発生しないこともありますが、フレックスタイム制の下で残業代が出ないということではありません。

残業時間の経緯算方法は簡単ですね。実労働時間-清算期間での総労働時間になります。

残業時間は繰越できない

総労働時間に満たなかった場合、翌月に繰越できると上記でも触れました。フレックスタイム制で、総労働時間を超えた(残業)月があれば、翌月の総労働時間を減らして、残業代を払わないということが考えられますが、これは禁止されています。

言い方を変えると、総労働時間の前月繰越ですが、禁止です。もし、その月に総労働時間を超えたのであれば、その月に必ず残業代を払わなくてはなりません。

未払いの残業代を請求する場合

もし未払いの残業代請求を検討しているのなら、1番最初に考えなければならないことは証拠集めです。そして、証拠を集める上で以下のことに注意をしてください。

  • 証拠集めは慎重に!隠される可能性がある
  • 自分の手元にコピーがあることが最低条件
  • 証拠がない状態で未払い請求は勝ち目がない

この3点を覚えておきましょう。

証拠になるもの

  • 雇用されたときの書類
  • 就業規則のコピー
  • 始業・終業時刻を立証する資料
  • 業務用メールアカウントの送受信記録履歴
  • 残業時間中の労働内容を立証する資料 など

フレックスタイム制の場合、タイムカードなどがない場合も考えられますので、どういったものが代用できるかは弁護士などの専門家を交えて進めていただくのが良いかもしれません。

残業代請求をするなら2年の時効に注意!

労働基準法第115条には「賃金や災害補償その他請求権は2年間」と定められていますので、ひょっとすると、請求できるはずだった過去の未払い残業代がどんどん減っていくのです。



すぐさま残業代請求を行わなくても、「内容証明郵便」などの過去の未払い残業代の請求権の時効を中断させることは考えましょう。


まとめ

いかがでしょうか、フレックスタイム制の仕組みを理解していただけたでしょうか。フレックスタイム制は、変則的な働き方で、労働者にもメリットのある制度です。

フレックスタイム制の導入を考えておられる方は、フレックスタイム制で生じる問題の対策を考えなくてはなりません。

一方、フレックスタイム制で働く労働者は、フレックスタイム制だからといって残業代が出ないようなことはありません。もしも、フレックスタイム制でも「仕事量が多く、長時間労働になりがちで、でも残業代が出ていない」……。

そのような方は、不当に残業代が支払われていない可能性が非常に高いです。実労働時間から、雇用契約書等に書かれている「清算期間による総労働時間」を引いて出てきた残業代を元に弁護士に相談してみてください。

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