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「貢献の輪」と「強みの輪」(【連載10】新しい『日本的人事論』)/川口 雅裕

INSIGHT NOW! / 2018年6月29日 15時35分


        「貢献の輪」と「強みの輪」(【連載10】新しい『日本的人事論』)/川口 雅裕

川口 雅裕 / 組織人事研究者

キャリアとは、貢献の軌跡である。過去に所属していた組織やそこでの役職・役割・結果等では情報不足で、キャリアを十分に表現したことにはならない。キャリアは、次の5点で表現される。

①いつ、誰とどのような業務・課題に取り組み、どのような結果・成果を残したか。

②その際、どのような困難・障害があり、どのようにして乗り越えたか。

③その仕事の顧客・関係者は、何を得て、どのように変わったのか。

④その仕事の経験によって、自分は何を得たか、身に付けたか、学んだか。

⑤その仕事の客観的な評価および自己評価は、どうか。

これらの情報を時系列に列挙したものが「実質的なキャリア」であり、所属組織や肩書きやポジションや資格や表彰の履歴といったものは、「外形」に過ぎない。外形だけで評価されるのは、大企業経営者や政治家、官僚、芸術家などの限られた職業だけであり、ほとんどの職業人にとっては、キャリアの実質を振り返って表現しておくことが、豊かな職業人生を送る上で極めて重要だ。転職などの機会でなくとも、数年に一度はキャリアの実質に関する記述に取り組むべきだし、人事部も従業員の履歴を外形ではない形で把握しようとする姿勢が求められる。

①~③を見れば一目瞭然だが、キャリアを積み重ねるには「貢献」が必要である。顧客や組織に対してどのように貢献してきたかという軌跡がキャリアなのであり、役職やポジションや表彰暦などはその時々の外形的な結果に過ぎない。だから、良質なキャリアを築こうとするのであれば、常に「どのようにして、顧客や組織に対する貢献の機会を得るか」を考えることだ。ただし、この答は簡単である。貢献の機会は、貢献した者に与えられる。貢献した者は期待を集めるから、また新たな機会を与えられる。そして、その貢献が大きければ大きいほど、大きな貢献の機会が与えられる。貢献の大きさと、与えられる機会の大きさは比例する。キャリアを築くには顧客や組織への貢献が必要だが、貢献する機会のほとんどは過去に行った貢献によって得られ、同時に貢献の程度が大きいほど、次に大きな機会を得られるのである。

与えられた機会によって、能力も伸長する。能力は、機会における他者からの刺激によって伸びていく。座学や研修や読書は、能力を磨く手段というよりも、機会を得て経験したことを体系化・抽象化・原則化するための手段として、あるいは機会の意味づけやこれから得る機会への備えとして有効なものである。貢献できず、その結果として機会も得られない状態で、座学や研修や読書に励んでも能力の向上はたいして期待できないし、それらから学んだことだけで顧客や組織に貢献することも難しい。

貢献の機会を得るには、貢献したという結果とともに、相互の信頼関係も欠かせない。機会を与えてくれる者からの「彼ならやってくれる」という信頼を、強固にしていく努力が重要だ。そして、そのためにできるのは、今、与えられている機会に全力で取り組むことだけである。これから先、いつどのような機会が与えられるかは、機会を与えてくれる者を信頼して任せておくのがよい。機会に全力で取り組まず、貢献しようとする意識が低いままに、機会だけ欲しがっても決して与えられることはない。自分の能力向上に関する計画や与えられる機会に関する計画を立てたって、機会を与えてくれる者からの信頼や機会を与えてくれる者に対する貢献がなければ、それらが実現することは決してない。キャリアは機会(とそれに対する貢献)によって形作られる。しかし、当人は与えられた機会に全力を注げばよく、次の機会については与えてくれる者を信頼して任せる(委任する:entrust)のがよい。これが、キャリア・エントラストの考え方である。


●貢献の輪(貢献の4C)

貢献(contribution)するには、遠回りのようでも相互の信頼(credit)関係の構築から入るのがよい。貢献するには、機会(chance)が必要で、その機会を与えられるためには信頼が欠かせないからだ。また、信頼関係が未成熟な状態で、十分な相互理解やコミュニケーションがないままに貢献しようと努力しても、空回りや筋違いや場合によっては余計なお世話や邪魔にもなりかねない。あらゆる挑戦(challenge)は、十分な信頼関係を土台にして与えられる機会であるからこそ意味を持つ。貢献によって信頼がより厚くなっていき、このサイクルが大きく自律的に回るようになれば、キャリアはどんどん豊かになっていくはずだ。


●強みの輪(強みの4E)

信頼とともに、貢献するために必要なのは「強み」(edge)である。他者とは異なる、他者より少しでも優れた、知識・技術・ノウハウ・ネットワーク・感性・言動の特性・判断力・実行力といったものだ。信頼と強みによって、私達は組織に貢献することができる。強みを手に入れるには、遠回りのようでも、自分の役割や仕事といった貢献の機会について組織を信じて委任(entrust)するのがよい。仮にそれが予想外であったり、不本意であったりしても受け入れ、懸命に取り組むことを約束する(engage)べきだ。なぜなら、与えられた機会の内容こそが、現実の自分への期待であり評価なのであって、それを拒んだり、その機会に対する努力を怠ったりすれば、組織と自己の期待・評価の乖離が大きくなり、強みを伸ばす機会を失う可能性が高いからである。

組織を信じて自らの仕事の機会を委任し、やりたいこととは違ってもその機会を受け入れて、真摯に実行(execute)していく。そこで得られた強みは、それまで自分が勝手に得たいと思っていた強みとは違い、組織にとって非常に貴重な能力となるだろう。組織にとって貴重な能力であればあるほど、貢献しやすくなるのは当然であり、だからこそ貢献の機会も得やすくなり、優れたキャリアにつながっていくのである。

何でもかんでも組織の意向に従え、と主張しているのではない。あらゆる努力が自らが属する組織の要請と調和し、組織(の業績や組織力)にとっても自分(の処遇やキャリア)にとっても良い結果を得るためには、「信頼からはじめる貢献」「委任からはじめる強みの獲得」という発想が欠かせないというである。

【つづく】

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