ロジカルシンキングを越えて:6.現在のアイデア重視の潮流とその必然性/伊藤 達夫
INSIGHT NOW! / 2018年7月19日 7時30分
伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社
これまで述べてきたようなことは、関係者もうすうす感じていると思います。「ロジカルシンキング」は確かに普及してきたが、あまり使えないのではないか?と。
若い世代、2010年代以降に就職したビジネスパーソンにとって、ロジカルシンキングはある意味で必須スキルと喧伝されていました。そして、就職時にも、どのような内容であったにせよ、「ロジカルシンキング」と名前がついた研修を受けたと思います。
しかし、この若い世代の「ロジカルシンキング」がどうもおかしい、と感じている中堅ビジネスパーソンは多いと思います。
若手ビジネスパーソンは「口ではまっとうそうなことを言うのだが、何だか薄っぺらい」と思える。
ただ、中堅以上の社員はあまり言葉の扱いに慣れていないためか、彼らをうまく納得させられない。若手にしてみれば、なにか丸め込まれているような気がする。タヌキおやじが経験論、精神論を語っているように見える。
ある意味で、不毛な「世代間対立」が起こっているように思います。これは由々しき問題です。
確かに、今の若手ビジネスパーソンは勉強熱心です。ビジネス書もいろいろと読んでいるし、いろいろな人に話を聞いて知識も豊富ではあります。でも、肝心のところが抜け落ちている。
たとえば、「仕組み」をテーマにした仕事術本のブームが「ロジカルシンキング」ブームの後にあったように思います。
その頃、とある経営者に聞いた、「若手ビジネスパーソンの痛い話」がありました。
とある若者が独立したそうで、「こんなマーケティングパッケージを作りました。御社の顧客のメリットになるので、ぜひ、御社の顧客リストに告知させてください。このWin-Win仕組みで、弊社と御社はともに繁栄すると思います!」と言われたそうです。
その経営者は「頑張ってください」とだけ言って、帰っていただいたそうです。
また、とある若い女性グループが、「いろいろと売りたい。売って生活の足しにしたい」という話があったそうです。それで、その女性グループにいろいろアドバイスする立場になったコンサルタントがいました。
そのコンサルタントは、「とりあえずこんな感じでやってみよう」と案を作って、売ってみよう、ということになりました。
すると、その女性は「対面で売るなんてダサい。今はネットで仕組みを作れば売れる!」と主張し「いろいろと仕組みを作ってマーケティングをやる!」と言い出したそうです。
結果としては、全然売れずに終わったそうです。
確かに、ビジネスは結果的には「仕組み」を回すことで、お金が「チャリンチャリン」と落ちていくわけですが、その仕組みを回すプロセスに辿りつくまでが大変です。
仕組み化できるということは、既にある程度成功しているということと同義です。買う人がある程度いるから、買う人にいかに効率的にアプローチし、契約し、デリバリーするのか?というのが論点になるのです。
「どんな状況の人が買うのか?どうすれば買うのか?」がわからない状況で、仕組みもクソもないのです。
新規事業の立ち上げでは、この点が難しいわけです。そりゃ、既存の顧客リストを持っている企業はいいですよ。もしくは、ブランドがある企業、資金がある企業はいい。
でも、たいていは、そんなもんはないわけです。
そうすると、お客さんを作り出さなくてはならない。そんな時、お客さんとの出会いはある意味で「魂の出会い」なわけです。
例えば、現代に洗濯板を売る完璧な仕組みがあったとして、機能しないことはわかりますよね?もはや誰も買わない。
それでね、テストマーケティングでリスクを下げようがなんだろうが、どんな状況の人が買うかなんて、当初はわからないわけです。ひょっとしたら、誰も買わないかもしれない。その中でやらなければならない。
事前のリサーチで好評でも、誰も買わないなんてことは多々あります。
初めに「お客さんを作るにはどうすればいいのか?」に注力しないと、ビジネスなんてまわりません。お客さんに断られながら、いろいろ話を聞く中で、商品、売り方、アプローチ先を変えるアイデアを出し、試行錯誤を繰り返しながらやっていくわけです。
コンサルティング的なパッケージならなおさらです。売りながら修正していくものです。お客さんとの出会いが「魂の出会い」だからこそ、「初めてのお客さんは一生忘れない」とかそういうことになるわけです。
こういうことに対する経験が足りないが故の勘違いで、現場たたき上げのおじさんと、若者の会話がかみ合わないのだと思います。心あるタヌキおやじは、こういうことは経験的にわかっています。若手のビジネスパーソンはこういうことがわからないことが多い。
タヌキおやじの側は「お前は間違っている!」と言い、若手ビジネスパーソンは精神論としてしか受け取りません。「それは違う」と言っても、「使えないオヤジだな」くらいにしか思わないでしょう。
タヌキおやじの言いたいことは伝わらず、世代間断絶はなお進みます。
企画業務における世代間の誤解を解消するにはどうすればいいのか?
これに対する解は、経験ある40代から50代のビジネスパーソンが、本当の「ロジカルシンキング」を学び、若手ビジネスパーソンを導いていくべきだと思っています。そして、若手ビジネスパーソンのほうは、「ロジカルシンキング」を学ぶよりも、じっくりと経験を積んでいくべきだと思っています。
しかし、このように書くと、若手ビジネスパーソンからは単に「おじさんの説教」にしか見えない面があると思うので、その経験を高速で積んでいくために必要な方法論をこの本では提示していこうと思います。
もう1つ、示唆深いお話をしたいと思います。
投資会社から「大会社を再建する!」というのが、一時もてはやされたと思います。戦略ファーム出身のコンサルタントが投資会社から再建先の企業に社長として送り込まれる。若いビジネスパーソンはこういうターンアラウンドマネジャーみたいなものに憧れることもあったかと思います。
それで、とあるビジネス誌を読んでいたら、そういうターンアラウンドを任されて、投資会社から社長として送り込まれる人のインタビューが出ていました。
そのインタビューを読んで驚きました。
なんと、その社長は「ダメな会社を俺が再建してやる!こうすればいいんだ!」といったことが書かれていました。私は、「こんなこと言って大丈夫かな・・・」と思いました。
なぜだかわかりますか?
結論から言うと、この社長は大した成果をあげられず、投資先の社長をやめ、その後、その投資会社にも所属していません。
なぜか?
その「ダメな会社」と言われた会社にも既存のメンバーはいるし、これまでいろいろがんばってやってきたわけです。その人々の協力を得ないと、会社の再建なんてうまくいくわけもありません。先の「ダメな会社を俺が再建してやる!こうすればいいんだ!」といった発言はこういったことを踏まえているでしょうか?
記事によると、この方は、学部卒でコンサルタントになり、コンサルティング一筋でやってきた方だそうなので、こういった側面が弱かったのかもしれません。コンサルティングと経営は違う、という格言の具体例を見たような気分になりました。
真相はよくわかりませんけどね。
ただ、この話も、深く理解するには「経験」が必要な事柄ですよね。血の通ったビジネス経験はこういうことの重要性を教えてくれます。
ちなみに、この「経験」という解決策はあまりに地道なので、ビジネス書を仕掛ける方々は最近では誰も飛びつきません。せいぜい、偉人の伝記ですとか、大企業の社長の話とか、そういうところにしか出てきません。
確かに書籍で経験を積むのは難しいです。
ですので、今、ビジネス書を仕掛ける人々が注目しているのは「ストーリー」と「アイデア」、「新しい思考法」のようです。ストーリー仕立てのビジネス書は確かにありますよね。そして、アイデア発想法の書籍も増えてきています。
確かに、現在、巷に普及しているようなロジカルシンキングを学んでも、豊かな発想にはなかなかつなげられません。
私は「アイデアを生むのは豊かな経験でしかない」と思っていますが、それでは身もふたもないので、後で、ケーススタディーとなるようなストーリーも書いてみようと思っています。そのストーリーをじっくり読み込むことで疑似的に経験を積んでいただければと思います。
本当の経験に勝るストーリーです!と言いたいところですが、そこまで言うと誇大広告です。読んでみて、「そんなもんなんだろうなあ」と思っていただいて、実際の経験に備えてください。
そして、もっと最後の方で「イメージ」も含めた「新しいビジネスにおける思考術」をまとめて解説していこうと思います。
ただ、私は企画業務に日々携わる方がこの本を読んでいると思うので、その方々が、今、どの段階にいるのか?とその段階ではどうすればいいのか?がわかったほうが、成長につながると思っています。そのため、この後は企画業務に携わる人が、成長のプロセスにおいて「患いがちな病と処方箋」の全体観を示し、それぞれのプロセスにおけるブレイクスルーのポイントについて書いていこうと思います。
これは、私が患った病でもあります。しかし、そのプロセスを飛び越えることは残念ながら不可能です。しかし、だからこそ高速で通過してほしい。
実は、このプロセスには、はじまりに戻る、前のコマに戻る、というループが用意されています・・・。素直に上の段階に行けるといいのですが、ループを繰り返している企画マンは多数います。そこを回避するためにも、ぜひともここから先を読んでほしいですね。
そして、「企画業務における悪循環の無限ループ」という「不治の病」を横目でみながら、涼しい微笑みを浮かべてここを通り抜けて欲しい。
それでは、次回から、企画業務において、企画ができるようになる過程で「患いがちな病と処方箋」に関して見ていきましょう。
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