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ロジカルシンキングを越えて:7.プランニングスタッフの典型的成長過程/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2018年8月6日 9時35分

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伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

企画業務に長年携わり、また多数の部下、クライアントに企画業務を教えてきてわかったことは、いいプランニングスタッフになっていくための「典型的成長過程」とも言うべきものがある、ということです。

どうも、いくら成長意欲を持ったとしても、それぞれの段階を飛ばして一気にできるようになるというようなことはないし、マネジメント側が成長させようとしても、そういう成長をさせることはできないようです。

一気にできるようになればそれが一番理想なのですが、どうしても、それぞれの部分でつまずき、自分から深く考え、突破口を見出すという経験が必要なようです。

しかも、なかなか抜けられない悪循環にはまり込んでしまう人もいます。また、とんでもない方向に行って、戻って来られないような人もいます。たいていの企業では、そういう人はプランニングスタッフに向かなかったという処理の仕方になってしまうとは思いますが、それでは救いがありません。

企画を教える側としてできることがあるとすれば、この悪循環からうまく抜け出る方向に導くことや、とんでもない方向に行ってしまった人を、適切なポイントに引き戻すことだと思います。

「私はできていない・・・。」「とんでもない方向に行ってしまっている・・・。」と思っても大丈夫です。たいていのビジネスパーソンは企画ができません。できたらいいな、と思っているだけで全くできないことのほうが多い。逆に言えば、できていなくて当たり前なのです。

そうでなければ、コンサルティングのようなビジネス形態が成立し続ける理由はないではありませんか。コンサルティングファームの存在自体が、このことを証明している面もあるわけです。安心して勉強して、これからできるようになりましょう。

それではまず、その成長過程を明らかにします。

プランニングスタッフが陥る「病」を4つにまとめました。これらは、もし最速で成長できたとしても「風邪」のように年に1度はかかるものではないか?ということで「病」というアナロジーを使いました。

この病を1つずつ克服していくことで、プランニングスタッフは成長していく。企画部門に配属されてから経営層を満足させられて、実際に成功する企画を作れるようになっていくまでにかかる典型的「病」を見ていきましょう。

まず、企画部門に初めて配属されて、企画を作ろうとすると、ひたすら調べるところから始まります。国会図書館や、民間のデータベース、日経テレコンなどをひたすら調べて、調べているうちにいろいろ興味が出てきて面白くなり、ひたすら調べる。

しかし、調べているうちに、「なんのために調べていたんだっけ?」となってしまう。これを「知りたい病」と名付けました。

調べることは知識欲を満たしてくれます。調べだすと、世界にはこれほど多くの事象があったのか!と感動にも近い感覚を覚えます。しかし、なんらかの目的をもって調べているわけで、調べるために、知識欲を満たすために、調べているわけではないのです。

たまに、役員クラスの方でもいらっしゃいますね。「こういうデータ、ありますか?ちょっと知りたいんだけど」と思いつきで言われる方。それは本当に企業の企画にとって必要な情報でしょうか?と突っ込みたくなるような情報を欲しがる方。

事実を押さえる、ファクトベースで考えることは確かに大事ではあります。情報量が少ない人は薄っぺらい企画しか作れないことも確かです。その意味ではこの病にかからないで企画業務に携わろうなどというのは、勘違いも甚だしいということになります。

しかし、調べているうちに、何を調べていたかを忘れてしまったりするようでは、企画の達人へのみちのりは遠いと言わざるをえません。

そして、ある程度の情報処理能力がついて、しっかり目的を持って調べたりすることができるようになると、次にかかる病は「海の水を全て沸かす病」という病です。

この段階では目的にかんがみて、調べることができるようにはなっている。「知りたい」だけの動機で時間を無駄にしない。それはいいことなのですが、非常に効率の悪いアプローチをとる、というのがこの「病」の症状です。

たとえば、会社にあるデータをひっぱり出してきて、ひたすらクロス集計をかけたりする。最近では、会社にはデータは溢れていますから、相関があるデータを出すのに、クロス集計を100個もやれば、1個はなにか意味ありげなデータが出る。

もしくは、多変量解析や、データマイニングに目覚めて、データをいろいろな手法で分析する。あたかも統計分析のプロになってしまうかのように。

確かに、大量データを扱うことには意味がある場合もありますし、統計レベルで有意なデータを出せれば、それはそれで素晴らしいことだと思います。

ただし、事業会社でもコンサルティング会社でも、このアプローチでやり続けると、体がもちません。たまたまいい分析結果が出るまで、みんな徹夜でやり続けるといった激務が待っています。信じられないかもしれませんが、こういったアプローチでやり続けて体を壊し、コンサルティング会社を去っていくビジネスパーソンがいることも確かです。

また、事業会社内でこのアプローチをやっても、効率は上がりません。意味ありげな分析をしたとしても、「こんなもんは使えない」「机上の空論だ」「だからどうした」とたたき上げの営業部長あたりに一喝されるのが関の山です。

ただし、数字やデータを使ってどのようなことが言うことが可能なのか?ということを知っているというのは非常に重要ですし、これをある程度やると、「こういうデータのこのあたりでこういう結果が出そうだ」というのが、なんとなくわかるようになってきます。

統計系の研究分野で修士号でも持っていれば、学生時代にそういった経験ができるのですが、そういうビジネスパーソンは稀です。数字の扱い、データの扱いを知るためにも、大量のデータと戦うという経験は意味があると考えています。

そして、この段階を越えると、仮説や論点をしっかり作った上での効率的なアプローチが必要だと考えるようになります。当初から因果関係仮説をもって調べないと効率が悪いことが身にしみてわかる段階です。

余談ですが、最近は、「仮説」「論点」を扱ったビジネス書がそれなりに売れているようです。この段階に達しているビジネスパーソンが増えているということでしょう。それはそれで素晴らしいことです。

しかし、仮説と論点というのは、扱いが少し高度です。ちょっと難しい。みんなでブレストをやろうと言って、仮説がほいほいと出てくればいいのですが、実際にやってみると、なかなか出てこないのです。

出てこないとどうするかというと、「論点をしっかりMECEに書いてみよう!」とコンサルティングテクニック本を読んでいる人は言い出したりしますが、論点は機械的に分けられるのか?というとそんなわけはないのです。

「あれ?研修では国を地域に分けたりして、うまく書けたのにどうしてできないのだろう?」といった疑問が湧いてきます。しかし、その疑問に答えられる人は少数です。ちゃんとマネジャーレベルまでコンサルティングでやってきた人でないとわからないでしょう。

ざっくりとした答えを言うと、既に出ているアイデアを分類して、その答えが出るべき論点を逆算して考えると、論点がいくつか見えてきます。仮説=アイデアのほうをMECEに分けていこうとすることで、その仮説同士の関係が見えてきます。そうすると、結果的に論点もMECEに分けることができるのです。

これは、自分で論点をMECEに展開していくという作業をやったことがないと実感できないことではありますので、ぜひ、日々の企画業務で論点を考える際に、ここを意識してやってほしいと思っています。

また、この段階にはいろいろな落とし穴があります。ビジネス書にいろいろとフレームワークがのっていたりするので、それを無理やり持ってきたりする人も出てきます。フレームワークは典型的な論点の集まりですので、MECEに分かれているといえば分かれている。

フレームワークは確かに考える参考になるかもしれませんが、自社の現在のケースにあてはめようとすると、ちょっと違和感が出てくる場合が多々あります。むしろ、違和感を感じられる人はセンスがあるでしょう。違和感丸出しの社内資料を作って、それでよしとしているビジネスパーソンも当然おりますので。

もしくは、特定の経営コンセプト本にのっていた内容をそのまま持ってきて、その場を取り繕い続ける人も出てくる。「マネジメントとは・・・」「マーケティングとは・・・」とか、やり始める人が出てくる。その場はそれらしく取り繕われる面もありますが、ほぼ無駄です。

この段階で、「特定経営コンセプト原理主義」、「流行経営コンセプト追従症候群」ともいうべき状況に陥り、抜け出せない人が多数います。

一般論で経営ができるのならば、あなたがそこにいる意味はなんなのでしょうか?

例えば、外国人ですが日本でしか人気がない学者さんがいます。日本では大ベストセラーなのですが、米国では見向きもされません。その学者さんが意味ありげな格言集のような書籍を出しています。これがまた、たちが悪い。

その学者さんの言葉を語っていれば、何か意味ありげでその場がもってしまうのです。

とある企業の会議で、こういう企画をやる時は、「こんなコンセプト、こんなフレームワークがあるんだ」とか、「○○先生もこのようにおっしゃっている!」と言って悦に入っている方がいました。「それで、どうしましょう?」と聞くと、黙りこくってしまう。間が悪くなって、ほかの出席者の方が「そういえばケイパビリティが抜けていますね。」と指摘したりして、「そうだそうだ、それではいかん」(一同納得)というような会議が、本当に存在しています。

こういう会議では、スタッフの方に結局丸投げになって、「うまくまとめておいてよ」となるケースが多いと思います。会議後、スタッフの方がコンサルタントに泣きつく・・・。そして、徹夜をして、何の成果もなかった会議の参加者の気持ちをくみ取りながら、なんとかそれらしく仕上げる。一同、それを見て、「うんうん、我々の言っていることがよくまとまっているじゃないか」と言ったりする。

笑い話だと思われるかもしれませんが、このような会議、プロジェクトがかつては多数存在したことは事実です。これはなんとかしたい。良心的なコンサルタントが入っている場合はいいかもしれませんが、そんなケースは稀です。

確かに、仮説を作ることは非常に難しい。しかし、そこから逃げてしまって、あなたが仕事をしている意味はどこにあるのでしょう?仮説を、アイデアを作り、それをしっかり論点への解としてまとめる。その作業から逃げないことが大事だと思います。

この段階を越えることは、現在はなかなか難しいのですが、なんとかここを過ぎると、現状改善型の企画はできるようになってきます。

この段階に到達した人は、社内では高い評価を受けられるプランニングスタッフになっていることでしょう。しかし、胃が痛いことがあります。それは何かというと、例えば会社の戦略提案をするような役員プレゼンです。

そこでは、経営者という最大の難関が待っています。これまで培ってきたものを全てぶつけても「そんなことはわかっている」「何か面白くない」「うちではやらない」と言われてしまう。

トップ以外の根回しは完璧にできていたとしても、トップがやらないと言えばやらない。トップが評価しなければ、何の意味もない。この段階を越えることができているプランニングスタッフは非常に少ないと思います。この非常に少ない「企画ができる」人々の悩みのポイントはここにあるでしょう。

トップに「面白い」と言ってもらえない。我々はこの段階を「面白くない病」と名付けました。このレベルでも十分に企画職としては食っていける、社内では独り立ちしてやっていけるレベルなのですが、「企画の達人」としては少し物足りないレベルです。

多少話がそれますが、企業の「雇われ参謀」として、「コンサルタント」として食っていくには、経営者に「面白いね」「面白いね」と言われ続けなくてはなりません。それは緊張の連続ですが、人に「面白い」と言われるのは、けっこう楽しい体験です。コンサルタントとして独立して、クライアントから継続的に仕事を頂けているコンサルタントはこのレベルにあります。

そして、この「面白くない病」を越えられるならば、「民間に資金需要がない」といわれている日本市場に、しっかりとした新規事業を次々に起こしていけると考えています。ここがまさに日本の未来に対してクリティカルだと思います。では、この部分への処方箋は何か?

この部分への処方箋は「メタ的な思考ができるかできないか?」というところだと考えています。

ただ、ここはレベルが少し高いです。一応、後で書いてはみますが、その段階で悩んでいる方だけ、じっくり読んでいただければいいと思っています。

このようなプロセスを経て、どんな企画でも来ればいいと思えるような「企画の達人」へとたどり着くと考えています。初めに書いたように、どのプロセスでも学びがあるので、どのプロセスも飛ばすことはできません。

それでは、次回からそれぞれの病について、症状と処方箋をかっちりと見ていきたいと思いますのでお楽しみに。


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