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購買業務のIT活用は何故進まないのか/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2018年8月8日 10時0分


        購買業務のIT活用は何故進まないのか/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社クニエ

私が調達購買コンサルタントになって約20年近く経ちますが調達購買業務でのIT活用は多くの日本企業で20年前と比較してもそれほど進んでいないように感じます。

何故進まないのでしょうか。

まずはその理由を考察する前に現状を再確認してみましょう。
多くの企業で最優先で導入がされていたのは直接材の手配システムです。これは生産管理システムと連携し、基幹システムとして真っ先に導入・活用されました。生産計画に基づき部品表から所要量展開を行い(MRP)在庫と発注残を元にサプライヤへ発注をする仕組みです。

ここがIT化されていない企業はほぼないでしょう。何故なら所要量の計算や発注をしないと企業は製品が作れないからです。またこれらの計算は複雑であり、コンピューターを使わないとできないからです。そして90年代後半位からメインフレームで動くカスタマイズの生産手配システムからERPへ進化しました。また直接材の購買システムは発注データをサプライヤへ伝達するためのEDIの導入や予測、計画系システムの活用へ範囲が広がっていったのです。

一方で直接材のソーシングプロセスでの見積のやり取りをサポートするシステムは多くの企業で殆ど活用されていないのが実態です。今でもソーシングプロセスはメールでやり取りしていたり、システム化されていたとしてもERPとは別のスタンドアローンのシステムだったりが一般的でしょう。

またソーシング、購買実行(手配、発注)を取引系システムと総称し、もう一方のシステムを情報系システムと呼びますが、情報系システムの活用も進んでいません。情報系システムとは
サプライヤ情報や契約情報、購入品目の情報などの管理を行うものです。以前CSM(コンポーネンツサプライヤマネジメント)ツールとして着目されましたが、日本企業においては一部の
企業で導入活用されただけと記憶しています。

確かに間接材購買システムの導入は殆ど企業で進んだかもしれません。間接材購買システムはカタログ購買ツールやサプライヤへの見積取得から発注、支払いの一連のプロセスをカバー
するシステムが多く、プロセスのカバー範囲も広いです。しかし、間接材購買システムを導入したものの活用が進まないという企業が殆どのようです。また間接材購買でシステム通過率が100%に近いという企業は殆どないのが実態でしょう。

これが実態ですが、それでは、何故調達購買業務でのIT活用はあまり進まないのでしょう。私は3つの理由があると考えています。

1点目はサプライヤのITリテラシーが低いという問題です。
調達購買システムを導入したが、サプライヤのITリテラシーが低く、システム利用が拡大しない、というのは今でも多くの企業で見られる課題です。特に発注業務でもEDIの利用率がなかなか上がらずに、未だにデータと紙の両方のオペレーションを残している、もしくは購買企業側で何らかの代理オペレーションを実施している、ということが発生しています。
この課題についてはグローバル化に伴いITリテラシーのないサプライヤとの取引を減らしていく、、ITリテラシーを高める方策をとる、などの諸施策により徐々に解決されていく方向です。

2点目はソーシングプロセスでのIT活用が進んでいないこと
に関してですが、これはプロセスの複雑性とトランザクションの量が影響しています。ソーシングプロセスをサポートするITシステムはeRFXとかSRMと呼ばれサプライヤと見積のやり取り
をするツールですが、購買実行プロセスと異なり、様々な機会で業務が発生します。

例えば新製品開発のソーシング機会は部品表も作成されていない段階でも発生しますし、量産部品表が作成された段階でも発生します。間接材などは年度契約の見直しのタイミングや購買の都度にソーシング機会が発生します。このように企業や業種、仕事の進め方、対象品目によって様々な機会でサポートすべきプロセスが発生するという複雑性が高いため、その機会を
全てサポートできるITツールがない、というのが理由の一つです。

またこのようなプロセスの複雑性は高いものの、プロセスの発生頻度は購買実行業務に比べれば1/10程度でしょう。つまり回数が少ない業務であり、複雑性も高いため、ITツールを活用することによる投資対効果のメリットが見いだし難い、というのがもう一つの理由になります。

多くの企業はソーシングプロセスは未だにメールとエクセルでサプライヤとやり取りしています。またスタンドアローンで安価なオークションシステムを活用している企業もあることからもこの2つの要因が理解できるでしょう。

3点目は情報系システムの活用の遅れの原因になります。
そもそも日本企業のバイヤーは情報収集→分析→戦略策定、といった業務ができていません。(慣れていません)以前から何度か指摘してきましたが、特に日本企業のバイヤーの弱みの一つが情報を活用した業務推進です。バイヤーには社外から重要な生きた情報が集まってきますが、それを重要な情報と認識し、分析し、戦略策定し、実行する、という業務の進め方ができていないのです。未だにKKD(経験、勘、度胸)と思い込みで仕事をしています。

これではそもそも情報をためておくITシステムやそれを分析するITシステムも必要ないでしょう。このような業務推進を進めるにはツールの整備だけでなく、分析手法やその意義を理解させることが必要です。

一方でRPA,AIの活用やグローバルでプロセスを標準化しITシステムの整備や活用を進めている先進企業も徐々にあらわれ始めています。

この先5年間位のスパンで企業の調達購買力を左右する大きな要因としてITを如何に整備し、活用できるか、ということが求められるでしょう。

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