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ナレッジワーカーの生産性はなぜ上がらないのか/猪口 真

INSIGHT NOW! / 2018年8月29日 19時0分


        ナレッジワーカーの生産性はなぜ上がらないのか/猪口 真

猪口 真 / 株式会社パトス

フレデリック・テイラーが、1911年に「科学的管理の原理」を出版して、100年以上の年月が経つ。

肉体労働者の生産性は画期的に高まったと言われているが、現在の大半のビジネスマンである、ナレッジワーカーの生産性はどうなっているのだろう?

さまざまなナレッジワーカーの労働生産性を向上させようと様々な試みがなされているが、いまだに、ナレッジワーカーの労働生産性を向上させる方程式はないと言ってもいいだろう。

管理監督がナレッジワーク?

物的生産にしてもナレッジワークにしても、労働生産性とは、労働による付加価値の大きさであり、ナレッジワーカーの付加価値といえば、自分の知的リソースから新たな知的アウトプットを生み出し、金銭的な価値に変換しなければならないということになるが、果たしてそんな人はどれだけいるのだろうか。

実際に、ナレッジワーカーの仕事のうち、かなりの部分を物的生産の管理・監督が占める。つまりフレデリック・テイラーの役割だ。当然、管理・監督としての付加価値を生み出せばいいのだが、残念ながらそうはなっていない。

これまで、多くの企業において、いわゆる管理職の人たちが、労働生産性の外にいたのは、物的生産の管理が仕事であり、管理者自体が何らかの知的付加価値を創出していたわけではないからだ。

今でも、多くのナレッジワーカーにおいて、自分自身の付加価値を正確に測ることはできない。企業では、さまざまな目標が設定され、チームから個人へと目標は落ちてくる。たとえば、マーケティングの担当者が、年間の目標として、Webサイトへの100万件のアクセス、1万人のメルマガ読者登録という目標を持っている。しかし、この目標を見事に達成できたとしても、果たしてその仕事が生み出した付加価値を正確に測ることは難しい。

企業の中にはこうした様々なKPIが存在しており、売り上げや利益と同じように、KPIも昨対いくつというように設定されるため、マネージャーも本人も、それを信じて仕事をしていくことになる。

また、目標はチームで設定されることも多く、チーム目標の達成に向けて、ナレッジワーカー同士で協力し合い、より高度な目標に向かうこともある。

しかし、残念なことに、こうした仕事の測定は、いくらやったところでマネジメントの域を出ることはない。あくまで管理が目的であって、生産性の向上や新たな付加価値の創出には向かっていない。

何かを変えたい、しかし…

何かを変えたい、今の沈滞ムードを払拭したい、と願う経営者やマネージャーは多いはずだ。同じことを繰り返していたら「より良い成果」は望めないし、新たなことにチャレンジしなければ未来がないことは、少しでもビジネスに携わった人ならば、すぐに気がつくことだ。

しかし、実際のビジネスにおいては、まったくそのようにはなっていない。新しい企画が起案され新規プロジェクトとして立ち上がることはまれで、よしんば立ち上がったとしても、そのプロジェクトが予定通りに実行され、成果を上げることはほとんどないのが実情だろう。

新たな戦略やプロジェクトを完遂させるには、想像をはるかに超えた力が必要になるからだ。この「新たな」というのが、実は曲者で、組織には「新たな」何かを妨害しようとするマインドや古くからの習わしや規制といった魑魅魍魎がうじゃうじゃしている。皮肉なことに、画期的でこれまでになかったようなアイデアほど、阻止しようと動く力は強力になる傾向がある。

人はもともと安定を求める

組織と人は同じようで違う。組織としては、必ずイノベーションや変化が望まれる。組織として同じことばかり繰り返していても、成長がないどころか、衰退してしまうからだ。安定した収益を得続けるためには、常に改善し、新しいことをやり続ける必要があり、そうしないと市場で生き残ることはできない。

ところが、人は安定を求める。ほとんどの人が変化など望んでいない。つらいし、しんどいからだ。実は大半のビジネス・パーソンが同じことを繰り返して安定したいと願っている。

それでも、「このままではだめだ、変えなければならない」と考える主体性を持った人がまれにいる。「こういうコンセプトを持った商品(ソリューション)をつくりたい。このソリューションを販売するには、この販路がいいと思うから、この業界の販路さえ開拓できれば相当いけるはずだ」などと、大きなチャレンジをしようとする。

そうした案は総論では賛成される。組織にとって必要なことだからだ。しかし実際に行動に移されることはまずない。多くの場合、その業界のことなど誰も知らず、販路については想像すらつかない、といったことが起こる。あるいは、「でもこれまでの古いお客様はどうするんだ?」「〇〇が黙っちゃいないだろう」などという人たちが出現する。

「創業者精神とイノベーションマインドを持って」とは、多くの経営者が語る言葉だが、そんなことが本当にできていれば、何も問題はない。

多くの組織がブレークスルーできずに、今の状態に甘んじてしまうのは、結局、それまでの慣習やプロセスを破りたくないからであり、そこに上下関係を含んだ人間関係がからむとなおさらだ。現在の人間関係を壊してまで、組織の中で新しいことを始めようとは誰も思わないものだ。

しかし、そこには大きな勘違いがある。基本的に仕事でつながっている人間関係は、仕事で強化していくしかない。新しいことを始めたら「人間関係を壊す」というのは思い込みであって、実際にはそうではないことのほうが多い。

現状に甘んじて受け身の仕事ばかりしていたら。いずれ「あいつは何もしないやつだ」という評価になり、仕事上の信頼関係は結局、崩れてしまうだろう。組織では、「いざというとき頼りになる」人が人望を集めるのだ。

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