ロジカルシンキングを越えて:10.「仮説作りたい、論点切りたい病」とその処方箋/伊藤 達夫
INSIGHT NOW! / 2018年9月14日 11時11分
伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社
これまでの段階を経て成長していれば、やることは明白ですが、それでも仮説を立てたり、論点を書いたりするのは、なかなか難しいと思います。
さらに困ったことに、仮説で考える、論点で考えるといった書籍がそれなりに出ているので、本をさらっと読んだ人は、仮説が必要だ、と意味ありげに言ったりします。が、たいてい仮説と論点について本質的な理解ができていない場合が多い。
そういう人が主導する会議で、「仮説を考えてみよう」とブレストをやると、どうにもならない意見ばかり出てきます。どうにもならない意見を多数集積しても、どうにもならないことに変わりはありません。
近年の研究では、ブレストの有用性を否定する研究が出てきていますので、ブレスト自体に意味がないかもしれません。コンサルティングでよく言われる格言としては「自分のブースで考えを完成させてからミーティングに臨め」です。ブレスト的なインターナルミーティングでも自分のロジックをある程度完成させてから臨まないと効率が悪いということです。
ミーティングでの発言のクオリティの差は準備の差だとよく言われるわけですが、じゃあ、どう準備すればいいの?ということになりますよね。そこで必要になるのが仮説思考なのだと思います。
ただ、どうも仮説思考に関して言えばレベル差が著しいのです。従って、ちょっと重層的になってしまいますが、仮説思考に関して、小学生、中学生、高校生、大学生のようなアナロジーで区分けをしてみていこうと思います。
仮説思考の小学生は、とりあえず仮説が大事だとどこかで聞いたことがあるレベル。でも、仮説がなぜ大事なのか?どう大事なのか?はわかっていない。
仮説思考の中学生は、「とりあえず仮説が大事だからブレストをしよう、みんなで否定しないでアイデアを出し合おうよ」ぐらいは言うレベル。そのあとどうすればいいかはわかっていない。そのアイデアをまとめればなんとかなるだろうといった認識です。
しかも、その仮説はアクション、具体的施策に偏ります。どうすればいいと思う?というところまでしか言えない。こういう人は結局、モグラ叩きに終始してしまいます。
仮説思考の高校生は、一応、アクション、具体的施策と、マーケットで何が起こっているのか?に関する因果関係の仮説の違いがわかっている。その上で、結果としての現象間の分析はできるが、深層までたどり着くことはできない。これでも相当レベルとしては高いでしょう。
仮説思考の大学生は、マーケットで起こっていることの深層まで仮説を展開できることもある。そして、マーケットがこうなっているから、こういうアクションがありえるという、全体のストーリーまで紡ぎだせることもある。つまり、全体を系、システム、あるいはモデルとして捉える認識ができているということです。しかし、再現性はあまりない。そういうレベルです。ただ、このレベルであっても、実感を伴って理解することはとても難しい。
とりあえず、仮説思考の大学生レベルには達して欲しい。そうすれば、たまにはいい企画ができるようになります。たまにいい企画が出れば相当なものです。
ただ、この仮説思考の大学生の認識に至ったとしても、仮説がそんなにすらすらとよどみなく出てくるものでもない。どうしても経験を積み重ねる必要がある。
では、順にどのようなことを学べばいいのか?を見ていきましょう。
まず、仮説思考の小学生。
あなたがいるのがこのレベルであると思うのであれば、仮説というものはなんなのか?を知りましょう。
本当に簡単に言えば、「現状の情報量で考えうる仮の結論」が仮説です。情報量がなくても、結論が出るの?と思うかもしれませんが、人間にはなんとなく正しい答えを出す能力がどうも備わっているようです。
よく言うのが、メンデルの法則を発見した生物学者メンデル先生の話です。
彼はえんどう豆を何世代も何世代も育てるという実験をしてメンデルの法則を検証したと言われます。なんとおよそ8年間の実験を続けたのだそうです。しかし、これだけ長い期間だったとしても、統計学的にはメンデル先生の試行回数では、法則が出てくるほど、結果が収束していくわけがない、と言われています。この結果がでる確率は1万分の1以下だそうです・・・。
どういうことか?
ここには2つの可能性があります。メンデル先生がデータを自分で作ってしまったか、たまたまそうなったかの2つです。
本当にデータをメンデル先生が自分でつくってしまったのか、たまたまそうなったかはわかりませんが、メンデル先生には、はじめからこの結果が見えていたのでしょう。メンデル先生が結論が見えていたとして、これが人間の仮説を作り出す力の例ですね。
まず、これぐらいのお話を知っていれば、仮説思考の中学生レベルまでは行けます。
では次に中学生。
特に企画にかかわらない人は、仮説思考の中学生レベルで止まっている人も多いと思います。「ブレストをした、出てきたアイデアをまとめた。おしまい。」というレベルです。
ここから先に行くには、施策レベルの仮説とマーケットに関する仮説が違うことがわかることが大事です。どんなアイデアでもいいというならば、アクションレベルでの仮説を作るのは、マーケットに関する仮説を作るよりは簡単な面もあります。
「うちの会社は何をすればいいと思う?」と問われれば、「従業員の給料を上げるべきだ!」でもいいし、「顧客満足度を上げるべきだ!」でもいいし、「CSRをすべきだ!」でもいいわけです。ブレストの時であれば、こういうアイデアでも否定されない。言うのはそれなりに簡単です。好きに思うことを言えばいい。でも、これで終わってしまっては、仮説思考の中学生です。
仮説思考の高校生レベルになって、顧客満足度を上げることがクリティカルであるマーケットの状況を想定するのは、そんなに簡単ではありません。
高校生のレベルに至るには、まずは、仮説は「施策のアイデアレベルのもの」と「マーケットの因果関係に関する仮説」があるということを知る、という段階があります。その上で、いくつかのアイデアが成立しうるマーケットの状況について考え、検証し続けるという経験が要ります。
こういった仮説を上司から求められ続ければ嫌でもわかりますが、もし社内で誰も仮説について知らない場合、にこのやり方を自力で考え出すのは難しいと思います。
独学で辿りついている人もたまにいますが、そういう人は企画業務の無茶振りをされ続けてはや10年といった感じの人が多いですね。10年やっているうちになんとなくわかった、と。
あるいは、「CSRをすべきだ!」と言った上で、CSRが企業価値の向上につながるようなことはあるのか?それはどんな時なのか?を考えるのも難しいと思います。
では、このケースで仮説思考の中学生、高校生、大学生の差と、成長に必要なことを見てみましょう。
ブレストで「CSRをすべきだ!」という主張をした人に、「CSRと企業価値はどんな関係にあるか?の仮説を考えて検証してみてくれ」と言うと、たいていは固まります。どうしよう?と。固まって終わりでは仮説思考の中学生レベルです。
ここで「CSRをすると企業価値が上がる」がこの世界において正しいのか、そうでないのか?現在はそうでなくても、今後そうなると言えるのか?といったことを考えればいい、と思えるか思えないか?でけっこう差がつくと思います。
この段階で大事なのは、企画とは「未来にいいことをもたらすためにやることである」という目的意識だと思います。
「これをすると当社は未来に儲かる」と言えるのならば、「これ」は当社がするとよいかもしれないですよね?当然、企業の資源は有限ですから、儲かると言えるアクションが100個あったとして、すべてやれるわけではないですけど・・・。
だから、「CSRをすると儲かる」とか、「CSRをすると企業価値が上がる」といった仮説がこれまでの世界で正しいと言えるか、を検証すればいいのです。
こういう認識ができると、仮説思考の高校生にはなれるでしょう。
ただね、「仮説をもっと深めていく作業ができるかできないか」でまた差がついてしまう。ここが高校生と大学生の違いです。
もしも、CSRと業績の関係について調べたとして、初めは現在のCSR投資の金額と企業価値が変数になったテーブルを作って、ひたすら相関をみることになるわけですが、これで言える可能性があることは、CSR投資の金額と企業価値には、高い正の相関がある、相関が低い、高い負の相関がある、のいずれかです。
仮に高い正の相関があったとしましょう。
正の相関があったとして、「CSRをすると企業価値が上がる」が言えるかというとそうでもないですよね。
この場合、CSRをがんばってしたから企業価値が上がったのか、企業価値が高い豊かな会社がCSRを実施したのか、の2つの可能性がある。
ただ、この可能性を始めから想定できないと、データを集める作業が非効率になります。
なぜなら、この2つの可能性が初めからわかっていれば、企業の規模別での検証が必須になるだろうから、変数として、企業規模などを表す指標などを始めから調べておくことができるからです。
仮説を立てて、「結果が出るか出ないか」によって、仮説を進化させていく作業をしなくてはいけません。進化というのは仮説が徐々に深層に向かっていくイメージでしょうか。
この仮説を深層に向かって進化させるストーリーを組みながら検証できるには、やはり経験が要ります。アクションの仮説から、それが成り立つマーケットの仮説を考え、それを検証するという作業を5回~10回は経験しないと、「仮説がどう進化していくのか?」「仮説の進化のパターンは?」といったことの想定はなかなかできない。
こういったことを経て、仮説思考の大学生とも言うべき人が誕生します。ここまで来れば、相当高いレベルです。胸を張っていい。
でもね、この段階をすんなり進んで素直に大学生まで成長していってくれるか?というとそうでもないのです。
とんでもないところに行ってしまったり、どこかの段階でとどまってしまったりといった人もたくさんいます。
そもそも、ブレストをして、「こんなことをすればいい」というのが浮かんで来たりするわけですが、これはどこからやってくるのでしょう?ありていに言えば、自分があってほしいと思う施策アイデアなわけじゃないですか。これが、本当に会社の望む世界なのか?は考える余地があります。
「従業員の給与を上げるべきだ!」という主張などは特に自分に都合がいいだけじゃないの?という問いが必要な施策アイデアです。
「従業員の給与をどういう評価基準で上げるの?」という質問をすると、朝早起きの人は、「朝、しっかり遅刻しないで来る人の給与を上げたほうがいいと思います」と主張したり、英語ができる人は、「TOEICの点数などを職能給に加えてはどうでしょうか?」と主張したりします。
それじゃあ、我田引水ではないのか・・・、と思ったりするわけです。
(給与の問題はGHQの当初の設計では労働運動によって上がるはずだったのが、企業別の労働組合の成立や労働運動が盛り上がらないことなどによって大企業以外は停滞していて、企業間の賃金格差等いろいろと問題があります。が、そのあたりの議論にはここでは触れません。)
この我田引水病とも言うべき病に陥っている仮説思考の中学生はたくさんいます。仮説の世界の「中二病」だと思っておいてください。ブレストでは批判してはいけないというのが拡大解釈されているのか、好き放題にみなさん主張して、我田引水なアイデアばかり、ということは多々あります。
企画の目的はあくまで「当社が、当該企業が、収益を上げること」につながっていなくてはなりません。
「企業価値の向上」を目的においてもかまいません。企業価値が上がれば、資金調達がしやすくなり、資金制約からより自由になっていき、事業機会を逃さないことで、収益につなげられますからね。
ここを越えるには、いわゆる「客観的」に物事を見るほうへ移行していく必要があります。もしくは、自分と違う目的、経験を持ち、全く違う世界を見ている「他人」が世界にはたくさんいることがわかるようになる、ということでもいいですね。
人は、自分の「個性」を信じたい面もあるのですが、自分が見えているものがスタンダードであることを信じて疑わない面もあります。でも、これでは中学生です。
ここを越えるにはどうすればいいのか私も教えながら悩んだのですが、一番手っ取り早いのは「価値観」という言葉を定義しなおすことができると、ここを越えられるようになると思います。
どうも、「悪しき就職活動」の洗礼を受けている人が2000年ぐらいの就職氷河期以降に多いからなのか、「価値観」という言葉を間違ってとらえている人が多いのです。子供向けの教材にもしっかり書いてあるのですけどね。それが就活生になると、なぜか間違った定義を受け入れてしまう。
どういうことか解説していきます。
まず、価値観とは何か?と言えば、「ある人の大事な物事とその順序」です。
それで、価値観は人によって違います。当たり前ですね。価値観が同じ人はあまりいないでしょう。
それで、その大事なものによって、見えている世界が違いますね。バレエを真剣にならっている人が、とある町を歩いたら、バレエショップが目に入ってきますよね。でも、普通の人にとっては、バレエショップなんて目に入らない。せいぜい、自分に関係あるものに見間違えることでしか、バレエショップを知る機会なんてないです。
Twitterでの空目の例を前の章で出しましたが、人は、自分の大事なもの、関心があるものに関係するという目線で世界を見ている。従って、Twitterでは空目が多発する。もう一度書きましょう。
・「待つよ」を「侍つよ!」に空目。
・「動け!」を「働け!」に空目した・・・。
・「ボカロクラスタ」を「ボロカスクラスタ」に空目してしまった。
・「ブブゼラ」を「ブルセラ」に空目した。死にたい・・・。
・「ソムリエ」を「ソニエリ(ソニーエリクソン)」に空目した。あるある。
そうするとね、自分の価値観で我田引水するような仮説を自分が作ってしまうこともわかりますよね?
朝早く会社に来ることが大事だと思っていない限り、朝早く会社に来たりしないし、朝早く会社に来る人の給料を上げようなんて主張はしないですよね?
英語が大事だと思っていない限り、TOEICのテストをわざわざ受けて高得点を取ったりしないし、TOEICの点数が高い人の給料を上げようなんて主張はしないですよね?
いいでしょうか?自分の価値観で世界を見ていると、自然と自分が大事だと思っていることを中心に物事を見てしまっているわけです。
それでね、ここが大事なのですが、価値観を変えられないと思っていたら、救いはないわけです。しかし、価値観はいくらでも変えられます。繰り返しますが、子供向けの教材にすら書いてあります。「経験を通して価値観が変化すること、大事だと思う物事が変化していくことを成長という」と。
これは先ほど悪しき就職活動でひっくり返ると言っていたことです。就職活動をすると突然、自分の価値観に合った仕事がある、適職があると言い出したりします。特に2000年あたりの就職氷河期以降に目立つようになってきた考え方だと思います。でも、違いますよね。
仕事をする過程で、自分の大事なものを増やしていく、優先順位を変えていく、そして見える世界が広がってくる、変わってくる。これが成長なのです。これまでの価値観で適職を選ぶって、あなたは成長しないつもりなのでしょうか?
就職して自分のやりたいことがやれないから、自分の価値観と合わないから辞めるといった人も増えているようですが、これは成長の放棄ですよね。経験を通じて価値観を変えていく。これが成長です。自分が思ったことと違うことをやってみて、一旦それに合わせてみる。それが成長をもたらすのです。程度問題ではあるにせよ、自分の価値観が完全に固定化されているかのような物言いが目立つように思います。
自分の価値観を固定化し、それに合わないものを排除していくのが、果たして大人と言えるでしょうか?
このあたりがわかるようになると、他人が世界にいて、その人たちは自分たちと違う物事が見えていて、行動が違っていて、マーケットの動きを読むのは実は難しいということがよくわかってきます。そして、我田引水をしている自分にも自覚的になってきます。また、他者への敬意を少しずつ持つことができるようになってきます。つまり、大人になるということですね。
余談ですが、このことに気づくには恋愛が一番ではないかと私は思います。恋愛とは他人と相互理解をしようとする数少ない機会です。彼女は何を考えているのだろう?今は何をやっているのだろう?どんな景色を見ているのだろう?それが自分と違うことが出来事を経るたびに実感できます。
一緒に暮らしていれば似てくるとも言われていますが、恋愛の初期には、価値観のぶつかりあいも起こるでしょう。そういった恋愛経験を経ていると、この段階を越えるのも、すんなり行く面があると思います。
では、次は仮説思考の高校生に移ります。
施策のアイデアとマーケットの因果関係について認識することができる。でも、現象面の分析に留まり、深層まではわからないという状態です。
ここを越えるにはどうすればいいのでしょうか?
私も悩みましたし、悩んでいる部下も見てきました。どうすればマーケットの深層の因果関係を感じられるようになるのだろう、と。未だ数字になっていない部分を感じ取る能力。それはどう身につければいいのか?
この段階で患う2つの病を見ていて気づいた面があります。ああそうか、と。この2つの病を統合すればいいんだ!と。
私が見てきた人たちで、どういう人がいたかといいいますと、なんでも特定の社会現象で説明してマーケットはこうだと言ってしまう人がいたのです。会議で見かけませんか?
例えば、なんでも「少子高齢化」が起きているからこうなっている!と主張したりするということです。いや、そりゃ要因の1つではあるけど、もうちょっとマーケットって複雑じゃない?と言いたくなるような人。我々はこういう症状をマクロ病と名付けました。いますよね、全く同じマクロ的なテクニカルタームを連呼する人。
「当社の顧客が減ってきていますよね。」
「少子高齢化が原因だよ、きっと。」
「従業員のサービスレベルが下がっているからとか考えられるんじゃない?」
「うーん。きっとそれも少子高齢化で従業員の競争が減っているからだよ。」
「そ、そうか。競合に奪われているとか、そういうのはないのかな?」
「それもきっと少子高齢化だよ。競合は高齢者にイメージがいいからね。」
「沖縄支店での業績がいいですけど、これはどう読みますか?」
「いや、それこそ少子高齢化だよ。沖縄だけは少子高齢化が進んでいないんだ。」
ここまで来ると笑い話に見えるかもしれませんが、こういう人は実際にいます。同じマクロ要因ですべてを説明しようとする人。でもね、なんでも1つのマクロ要因に帰着して説明するなら、分析の意味がないじゃない?と思ったりするわけです。そのマクロ要因を踏まえた上で、コントローラブルな変数にどこで影響を与えて、我々は何をしうるのか?が大事だと思うのです。そして、おそらく1つのマクロ要因だけですべてが説明できるようなケースは非常に稀だと思います。
当然、逆の病もあります。もうわかりますよね?もう1つの病はミクロ病。ミクロな現象だけで物事を説明しようとする人です。
ある企業の成功事例ばかりにこだわり、「あの企業はこのやり方でうまくいったんだ!」を連呼して、なんでもそこから考えようとする。確かにこの目線は当初としては大事なのですが、自分の会社はその会社ではないし、時間軸上でもその成功事例と同じ時点で施策を実施するわけではないので、各要因の影響の仕方も変わってくるのです。
もしくは、たまたまお客さんからクレームが出たことにこだわり、それで全てを説明しようとする人。いますよね。もしくは、原因を特定の従業員に帰する人。「あいつが悪いからうまくいかない。」と。確かに5,6人の小規模なチームであれば、誰かが悪いということはありえるでしょう。人を取り換えられるなら取り換える、外すなら外す。そのほうがいい。
でもね、ある程度の規模がある場合は、原因を人に帰さないでシステムの問題として捉えたほうが、メリットが大きい場合も多いのです。
たとえば、とある人に発生する悪い事象があった。ずっとそいつが悪いと思っていた。しかし、実は同じ事象が30%の社員に発生していた。もしも、これを分析してその発生を防げるとしたら、規模の分だけメリットがありますよね?
ミクロ要因は重要ではありますが、マクロ要因を完全に無視できるか?というとできません。
すごく単純に言えば、GDPが成長傾向の国と、GDPが停滞傾向の国では効果のある施策は全く違うわけです。確かに、マクロはミクロの積み上げによって形成される面はあります。しかし、そのミクロ要因を全て見ていくわけにはいきません。どこかでマクロ要因としてある程度のミクロの集積としていっしょくたに扱う必要が出てきます。
ミクロ要因のつながりを全てとらえ切れたら天才でしょう・・・。あるいは悟りを開いたお釈迦様ならば可能でしょうか。しかし、そんなことは常人には無理です。あくまで常人に可能な技術の習得を目指すべきです。
そこで、この2つを統合して、マクロとミクロの環境が影響しあって、マーケットの今があるという捉え方ができるようになると、マーケットの深層とも言うべきものがあることに気づき始めます。マーケットを系、システム、あるいはモデルとして捉えることができるようになってくるわけです。
ちなみに、マクロ環境分析のフレームワークとしては、PESTというフレームワークが有名ですね。コトラー先生の本にも書いてあるので、知っている人も多いと思います。PはPoliticsのPで政治。EはEconomicsのEで経済。SはSocietyのSで社会。TはTechnologyのTで技術。以上でPESTです。
では、この典型的マクロ要因の中でミクロの集積として全体を捉えるという考え方とはやや異質なものがありますが、それはなんでしょうか?そしてその理由は?これもあえて答えは書きませんが、考えてみましょう。
この段階を越えて、仮説思考の大学生に到達します。
大体、コンサルティングファームで3年も修行すると、ドロップアウトせざるを得ない人以外は、この「仮説思考の大学生」レベルに到達します。コンサルティングで「3年」というのは、もともとベースが高い人間を採用していることと、企画業務に特化している面があるので成長機会が多いことによっています。
だから、通常の事業会社とは少し事情が違うと思います。おそらく、事業会社でオペレーションをこなしながらやっていくと、5年から10年で到達できるレベルではないか、と思います。
ただ、これはビジネスパーソンとして総合的に見たときにコンサルティングが優れているということが言いたいのではありません。こういう仮説を考える意味では優秀でも、ビジネスパーソンとしてどうかというようなコンサルタントも多いと思います。
とある、若くて優秀と思われていたコンサルタントが「この会社がダメなのは、元気がないからです。社歌を作りましょう」といって社歌を会議中に歌いだしてクビになったというような笑い話でしかないケースもコンサルティングファームの中では語り継がれていたりします。彼らは総合的にバランスが取れていて、仮説構築などもできる、ということではないのです。
やはり、バランス、常識も大事なのです。
さて、話を元に戻しましょう。
仮説思考において、我々が仮説思考の大学生と呼ぶレベルにまでなっていれば、もう「論点」についての解説は不要かな、とも思いますが、そう言われても困ると思いますので、書いていきましょう。
では、論点とは何か?
前にも書きましたが、仮説と論点は表裏一体です。仮説が思い浮かんだら、論点はその思い浮かんだ仮説が答えとなる問いを考えることによって導き出されます。
「え?逆でしょう?」と思いますよね。でも、おそらく思考の順序としては仮説が先で、論点が後から出てくるのが自然だと思います。ここが論点を使いこなす上でのポイントです。これはコンサルティング実務をやっている人の多くが納得してくれると思います。
エリヤフ・ゴールドラットの「ザ・ゴール」シリーズで解説されている思考プロセスは仮説のつながりを重視した書き方になっていて、論点という書き方はしていません。おそらく、論点風な書き方もできるのでしょうが、彼らは仮説優位な書き方をしています。
仮説が既にあるなら論点なんていらないじゃないか!と思うかもしれません。まあ、なくてもできなくはないでしょう。「ザ・ゴール」のように仮説の関係を分析するだけでプロジェクトを進めることもできなくはない。ただ、コンサルティングのプロセスにおいて、論点のほうが何かと都合がいいことが多いと思います。
論点表が書いてあると、いかにもこれから検討するかのように見える。確かに調査事項などはこれから調べるのですが、こういう結果が出るだろうという仮説ありきで調査が設計されています。そういうのって、受け入れがたい人もおそらくたくさんいます。そういう方はもっと客観的にやるべきだ!とおっしゃるでしょう。
でもね、そういう人たちにいちいち説明しているのは時間がもったいないのです。
論点形式で検討事項を書くと、いかにも客観的に、積み上げでやっていますよ、というふうな見せ方ができる。そうすると、安心する人が多いのも事実だと思います。
あと、論点風に書くと、抜け漏れをチェックしやすい。MECEかどうかが分かりやすいのです。仮説優位で書いていくと、ブランクの領域がどこにあるかがつかみにくいですね。イシューツリーのような書き方をすると、どの部分が現在よくわからないのかが非常によくわかる。
そして、既存のフレームワークをとりあえず流用して、わからない領域を埋めていくこともできる。まあ、イシューツリー上に既存のフレームワークが書いてあったらそこはまだあんまり考えていない、わかっていないんだな、と思ってください。
あとは、経験則ですが、論点風にクエスチョンマークを書いて、ロジックツリーでまとめると、問いの形式が体系的に書いてあると、どうも頭がよく働く(笑)。そういうふうに教育されてしまったから仕方がないかもしれませんが、やりやすいことは確かです。
実務上は、仮説は棄却されることによって進化し、更新されていくものです。その仮説の進化にあわせて、論点も進化させていく。仮説がなんとなくある。論点に直してみる。論点をブレイクダウンする。そうすると、全体観が非常につかみやすい。すると、部分としての仮説の輪郭がよりシャープになってくる。すると、また仮説が進化していく。そして、また検証作業をしてみて、その結果によって仮説を進化させる。論点も切り替わる。
論点に関しては、この作業を延々としていくだけです。我々はあくまで仮説優位で考えて、それを論点で表現しているので、仮説思考の大学生ぐらいになれば、論点も自然とできるようになると考えています。長くなってしまいましたが、ここまでが「仮説作りたい、論点切りたい病とその処方箋」になります。次回でいよいよ最終段階になりますのでお楽しみに。外部リンク
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