中小企業に「ABM(アカウントベースドマーケティング)」の発想をすべき会社は多い/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2018年9月16日 19時27分
猪口 真 / 株式会社パトス
リード顧客が多すぎる?
B2Bの法人営業を主体とする企業において、どのような営業戦術をとっていくかは、会社における中枢の戦略であるのは間違いない。
特に、同じ仕事は2つとしてないようなサービス事業や受注生産事業を行う企業にとっては、毎日、どこに営業にいくか、頭を悩ませる問題だ。
だから、展示会やWeb広告、オウンドメディアなどでいかに質のいいリード顧客をいかに集めるかにやっきになっている。新規訪問を無駄にしたくないからだ。質のいいリード顧客は喉から手が出るほど欲しい。
MA(マーケティングオートメーション)は、展示会に参加した、セミナーにきた、資料をダウンロードしたなどのアクションから、リードとして自動的にパイプライン化していきながら、アクションを行うというものだ。理論的には、理論的なスコアリングによって選別されたリードが落ちてくるのだから、営業としては申し分ない仕組みだろう。
ただし、成果としては、どうしてもリードの数を重視し、また、どちらかというと「人」に焦点があたっているために、営業が苦労してアポイントをとって訪問しても、想定していたニーズではなかったり、温度感がいまひとつだったといことが頻繁に起こる。組織として潜在的なニーズが本当はあったとしてもだ。
Webテクノロジーの進化は、顧客アクションをいとも簡単に拾えるようになった。Webによる接点の増加は、リアルな展示会やセミナーなどの集客にも好結果を与えている。そういう意味では、かつて電話と足で稼ぐ営業をしていた時代よりも、はるかに簡単にリードが集まるようになっている。
そのため、営業は訪問しきれないほどのリードを抱え、厳選して訪問したとしても上記のようなことが起こる。営業職のリソースを十分に持つ企業はいいが、限られたリソースしかない中小企業にとって、「量」だけのリードはかえって負担になる。
MAの概念を象徴するのが、「ファネル」だ。広く集客されたリード顧客がふるいにかけられ、マーケティングプロセスごとに絞られていくという考え方だが、企業対企業の取引という観点から見ると、実はふるいにかけられているのは、営業サイドのほうだ。
顧客が大企業となれば、様々な部門が様々な課題を持っており、あたらしいベンダーやパートナーを常に探しているのは間違いのないことで、その会社を多くの候補会社をふるいにかけながら、絞り込んでいる。
アカウントをベースに新規開拓戦略を練る
B2Bのビジネスは、当然ながら組織対組織だから、複数人数対複数人数だ。しかも相手の担当の中にも、こちらのファンもいればアンチもいる。キーパーソンも役割を変えてたくさんいるし、それぞれに課題も違う。
こうしたことは、何年も継続して取引をしている会社であれば、ごく普通のことだ。この状態の中で、1人でもファンを増やし、少しでも上層部に取り入り、どのように縦にも横にも広げていくか、それが営業戦略だ。
多くの企業が、既存クライアントとのビジネスではそうやっているにもかかわらず、新規の顧客開発をしようとすると、なぜかB2Cマーケティングのような手法をとってしまう。結果的に接点さえあれば、広く浅く訪問してしまうために、少額の取引は増え、アカウント数は増加するだろう。しかし、せっかくのプロダクトやサービスにもかかわらず、営業としてのサポートや提案が分散し、ますます受注も分散し、営業の生産性は落ちてしまう。
「ABM(アカウントベースドマーケティング)」は、リード中心ではなく、アカウント(企業)を中心に考える。これまでの見込み顧客のアクション履歴、訪問履歴をたどってみれば、同じアカウントで様々なアクションをとっているのが分かるかもしれないし、それらをトータルに見れば、組織全体の課題、あるいは、違う部門が同じような課題を抱えているのが見えるかもしれない。
であれば、統合部門(経営企画など)に、そうした状況をぶつけてみる事ができるかもしれない。
日本の企業はいわゆる「得意先数」が多すぎる、とはよく言われる。営業のハイパフォーマーほど、顧客数が少ない、というのもある意味本質だろう。そのほうが圧倒的に生産性は高いし、何よりもそのクライアントのことをよく知ることができ、年数を重ねるごとに提案のクオリティも上がる。
日本の場合、ボトムアップを重視する企業も多く、小さいからといって「仕事を断る」ことは難しいし、そこからどう広がるかも分からないとも言われる
大企業であれば、「リードを集める」ことが役割の人もいるし、営業のアプローチ先が増えるのは歓迎すべきことだ
しかし、中小企業は、ニーズに合うのか分からないような企業に資金や人、時間を投資する暇もなければ時間もない。もちろん予算もない。
「リード」という概念を捨て、ファネルでふるいにかけられているのは、自分たちであることを認識すべきであり、新たなリードを欲しがるのをやめて、本当にビジネスをしたい相手に対して組織全体としてアプローチストーリーを考えることから始めることも、選択すべき選択のひとつではないだろうか。
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