コンテンツマーケティングは、むしろ既存顧客とのリレーションに活用すべき/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2018年10月11日 15時39分
猪口 真 / 株式会社パトス
B2B企業においても、コンテンツマーケティングをセールスプロセスに取り入れる企業が増えてきた。特に顧客の業種を限定せず、付加価値を提供することで商品やサービスを販売している企業においては、ほとんどの企業が何らかのコンテンツマーケティングの要素を取り入れていると言ってもいいだろう。
コンテンツマーケティングは新規開拓ツール?
現状、コンテンツマーケティングは、新規顧客開拓のために使われている場合がほとんどだ。マーケティングオートメーションやアカウントベースドマーケティングにしても、基本的に受注するまでのプロセスを追いかけるためのものであり、新しい顧客開発に予算がかけられている。
しかし、B2Bにおけるセールスの大きな役割の一つは、既存顧客の育成にあるのはいうまでもない。
もちろん会社によって異なるが、会社の売上の7~9割は既存顧客によって占められているはずだ。昔から言われている言葉に、「既存顧客は目減りする。だから新規顧客を開拓しなければならない」というのがある。ある側面真理だろう。既存顧客の中にも、招かざる客がいるだろうし、戦略的に合わない顧客も出てくる。また、顧客の業績の落ち込みもあり得る。だから新規顧客を開拓しなければならないというわけだ。
しかし、新規顧客の開拓は大きなコストとリソースがかかる。顧客の状況を理解するだけでも時間はかかるし、本質的なニーズを把握するには、相当の労力が必要となる。
先ほどの、「目減りする」の前には、本当は、「これまでと同じことをやっていれば」という言葉が入る。すでに信頼関係ができている既存顧客への新たなコンテンツ提供こそ、B2Bセールスのやるべきことだと思う。
多くのB2B企業では、図のような顧客分類となっているはずだ。ABCが既存で、DEが新規、それぞれにポテンシャルの大小がある。
Aのゾーンの顧客は大口なため、あまり顧客のポテンシャルのことなど考えず、必死で日々取り組んでいるはずで、Bのゾーンには、特に積極的にアプローチはしていないが、オーダーがあれば受けるゾーン。最も注力すべきゾーンはCであり、今後どのようにこのゾーンの顧客とパートナーシップを築いていけるかが、セールスの腕の見せどころとなる。DとEが新規開発埼となるが、Dに好んで訪問するセールスはいない。Eの顧客に対して最もマーケティングコストをかけているわけだ。
既存顧客との関係変化
ある商品が生まれてから、絶頂時を迎え、そしてやがて市場から忘れられていく状態を表した、「プロダクトライフサイクル」がある。
有望な商品が生まれると、マーケティングに多大なリソースがつぎこまれ、徐々に市場に浸透していく。浸透すればそこで得た利益をさらに投下し、さらに伸ばそうとする、しかし、限界までシェアが進むと、競合商品の出現と差別化によって、徐々にシェアは下降していく、というモデルだ。
有力既存顧客との関係も実は近いことが起きている。
新しい取引が始まり、お互いがWin-Winを確信すると、様々な提案や関係強化をしていく。伸びればさらに関係強化に予算が使われ、シェアを伸ばす。しかし、当然、競合が現れ、さらに強い関係強化を図ってくる。そうなると、マンネリ感を持たれたり、サービスが飽きられてくると、徐々に取引は減少していく、となる。実際には、こまかい関係性の変化を伴いながら時間が経緯していくが、大きな流れでみると近い状態になるだろう。
この関係強化の状態のときに、何が行われていたかというと、それがまさしくコンテンツマーケティングだ。
お互いが、お互いの状況を理解し合い、関係性が強化されると、ほとんど自社PRやいわゆる営業活動は必要なくなる。(だから、営業が行かなくなるという側面が出てくるのだが…)
そこで行われているのは、実は商品やサービスの売り込みではなく、コンテンツの提供だ。営業単独でもできることは多い。競合のサービスの資料を渡したり、業界団体の最新情報を届けたりすることはできる。また、力のあるセールスなら、白書やレポートにまとめて提案することも可能だ。
つまり、Web上でこそないが、こうした活動はまさにコンテンツマーケティングの本質であり、ソリューションではない、コンテンツの提供を行うことで既存顧客との関係はさらに強化できる。
日本のB2Bビジネスの悪い点のひとつに、顧客数が多すぎることがよく挙げられる。欧米の広告代理店(クリエイティブエージェンシー)などでは、本当に少ない顧客と深くて大きな仕事だけに取り組み、高いクオリティと大きな利益を生み出しているケースもある。その仕事が評判を生み、さらにクオリティの高い仕事ができるという好循環を持っている。
せっかく関係を持った既存顧客だ。前述の表の「C」の顧客に対して、もう一度何ができるのかを考え、コンテンツマーケティング発想でアプローチをすることは決して無駄にはならない。
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