15兆円を目指すスポーツ市場、何を増やすのか?/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2018年10月27日 10時41分
猪口 真 / 株式会社パトス
日本の成長戦略の一環として、スポーツ市場を2025年までに15兆円の市場規模を目指すらしい。
2016年のBリーグの発足に続き、先日は卓球がTリーグとして、プロスポーツ界に加わり、日本のプロスポーツ界も少しずつ賑わいを見せてきている。
15兆の内訳をどうするか
現在の日本におけるスポーツ市場は、日本政策投資銀行の資料を見ると、2012年時点のGDSPは全体で約11兆4000億円。公営ギャンブルを除けば約7兆円だそうだ。内訳は施設が約2兆、小売りが約1.7兆、教育が約1.5兆、放送・新聞が約0.4兆、スポーツの興業が約0.3兆となっている。
よく言われるのは、2002年ごろから2013年ごろまでは、スポーツ市場は年々減少を続けてきたものの、ここ数年は、健康志向にものっかり、微増していると伝えられている(特に、フィットネスクラブなどが好調らしい)。そういう意味でも、今後のテコ入れ如何によっては、15兆を目指すというのは、まんざら夢物語でもない気もする。
もともと15兆がどこからきているのかというと、アメリカのスポーツ市場が約50兆と言われ、人口比、GDP比で見ても、約3分の1の15兆というのは、適正(?)なのだろう。
では、アメリカのスポーツ市場というのは、どのような内訳になっているのだろうか。
「米国スポーツ市場・産業動向調査」( 2018 年 3 月 日本貿易振興機構)に、アメリカにおける、スポーツ産業の内訳が詳細に紹介されている
その中にある「スポーツ産業に関連するNAICSコード別出荷額、売上、収入(2012年)」では、スポーツ用品店などでの小売りが約4兆5千億円、フィットネスやゴルフ場といったスポーツ施設が約6兆円、スポーツ観戦が約3兆7千億円となっている。
全体で50兆というなら、合わせても約15兆。残りはテレビ放映権や広告収入、選手の給料といったところか。
日本の数値とは、かなりデータの取り方に違いがあるだろうから、正確に比較することはできないが、ひとつの目安にはなるだろう。
アメリカの3分の1?
この数値を見ると、小売りはアメリカの4兆5千億円に対し、日本が約1.7兆円、スポーツ施設はアメリカの約6兆円に対して日本は約2兆円、ちょうど約3分の1の規模になっている。
実際、アメリカのスポーツ小売市場のシュリンクは日本以上だと言われており、Sports Authorityが2016年に倒産し、それ以降もスポーツ小売市場は減少の一途をたどっている。
注目は、アメリカのスポーツ観戦の市場だろう。プロスポーツ、大学スポーツの観戦スポーツの収入だ。この中には、競馬場も入っているので考慮すべき部分ではあるが、日本のスポーツの興業が約0.3兆(こまかい分類定義は不明)であるのと相当違う。
実際に、各プロスポーツの観客動員数を見てみると、アメリカのメジャーリーグベースボールは、年間7300万人を集客している。もっとも野球だけを比べれば、日本のNPBも年間約2500万人を集客し、約3分の1と水準を守っている。
問題はそれ以外で、バスケットボールの年間約2100万人、ホッケーリーグの2100万人、アメリカンフットボールの年間約1700万人、メジャーリーグサッカーでも約800万人を集客している。ちなみに日本のJリーグは約550万人とこちらは検討している。
驚くべきは、大学スポーツで、大学アメリカンフットボールは年間約5000万人、大学バスケットボールが約3200万人となっている。日本では考えられない数字だ。一部6大学野球などの人気リーグはあるものの、観客は関係者が多く占める。
ここにリストアップされた人数だけでも、延べ人数、2億人を超えている。これ以外にも、ゴルフ、テニス、バレーボール、陸上、ラグビー、モータースポーツなど、アメリカで人気のスポーツは数えきれない。いかにアメリカの生活の中に、スポーツ観戦がなじんでいるかの証明だ。
これだけの集客力を持つスポーツならば、チケット費用に及ばず、広告収入やグッズの販売、その他のイベントへの誘導など、大きく世界は広がる。
また、大学スポーツが人気あるということは、選手においても、大学からプロへのルートも確率されているということなのだろう。まさにプロスポーツ大国アメリカの真骨頂だ。
この巨大なスポーツ観戦ビジネスの強みは、将来のビジネスへの可能性も広がる。チケットの販売データは貴重なビッグデータとなる。どの情報源からチケットの購入に至ったか、ある試合に来た人がどのようなグッズを買い、次にどの試合を観戦するか、またどのようにSNSとつながり、Webサイトにアクセスしているか、自身はどのようなスポーツを行い、どのような投資をしているか、また、可処分所得の高い人はどこにいるのか、など様々なデータにつなげることが可能となる。スポンサーにとっては、是が非でも欲しい情報だろう。
日本でもおそまきながら、バスケットボールや卓球など、少しずつプロスポーツ界も活気が出てきたが、今後はさらに「魅せるスポーツ」「生活に根差したスポーツ」を提供することに力を注いでいかないと、スポーツの世界は広がらないのではないか。
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