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リカレント教育は日本に根付くのか。その背景にあるもの/猪口 真

INSIGHT NOW! / 2018年11月26日 18時42分


        リカレント教育は日本に根付くのか。その背景にあるもの/猪口 真

猪口 真 / 株式会社パトス

リカレント教育とは生涯教育、つまり生涯にわたって学び続けるということだが、ここへきて社会人大学など、話題としてはかなりの盛り上がりを見せており、実際に一般の社会人が通える教育施設が増えてきているという。

労働者不足と働き方の多様化がマッチ

社会人教育の必要性はかなり以前から言われてきたことだが、さほどメジャーになることは少なかったのだが、ここへ来ての盛り上がりには、それなりの理由がありそうだ。

・少子高齢化がこれからさらに進むことで労働力が不足し、高齢者であっても労働力が必要になる

・AIが仕事を奪うなどという、将来自分の仕事がなくなるかもしれないという危機感を多くの人が持つようになってきた

・AIだけではなく、グローバル化により海外の労働者との競争も生まれている

・企業が社員に与える教育が不足し、キャリアのためには個人としてスキルアップすることが必要になってきた

・健康寿命が伸び、定年を過ぎても何年も働くことができる

・裕福な人だけではなく、多くのビジネス・パーソンの社会への貢献意識が高まり、企業の営利目的だけの仕事だけではなく、社会に対する貢献という目的を求めるようになってきた

・教育のグローバル化が進み、欧米教育先進国が良い意味で影響を与えている

・出産後の母親が復帰する際のサポートが不足しており、働く母親の学ぶニーズの高まり

こうした時代背景によって、就業後の「学ぶ」手段が増えてきた。

加えて、なんといっても大きいのが、政府による「人生100年時代構想会議」の中で、リカレント教育が推奨されていることだろう。

あらゆる人に対して高いレベルの教育の機会を与え、年齢には関係なく学べる環境をつくることが必要であり、そのための奨学金の準備をいかに行い、学んだ人たちが働ける受け皿を準備することが必要であることが議論された。

企業の教育費用は減少

企業による教育費用の減少も深刻な問題だ。グラフでも明らかなように、バブル崩壊までは、順調に増加し続けた企業の教育が、それ以降は大きく減少している。年間、一人当たり2万円ちょっとという水準だ。これではまともな人材開発ができないと言っても過言ではない。

民間企業における教育訓練費の推移

「人生 100年時代構想会議」資料、労働者の教育訓練施設に関する費用、訓練指導員に対する手当や謝金、委託訓練に要する費用等の合計額


この結果は、企業側が社員に対して行う支援についても、同様の結果が出ている。

独立行政法人労働政策研究・研修機構の「企業における資格・検定等の活用、大学院・大学等の受講支援に関する調査」によれば、「従業員の大学院、大学、専修学校・各種学校等の民間の教育機関での受講に対し、支援等を行っているか」という質問に対して、「業務 命令の受講はないが、会社として支援」という回答企業が13.4%。従業員規模別では、1000 人以上企業で28.7% と1000人未満の従業員規模企業の 3 倍近くに達しているという。

大手であったとしても、3割近い企業しか、なんらかの支援をしていないことになる。中小企業や小規模企業にいたっては、想像通りの結果なのだろう。

しかし、同調査では、従業員がこうした機関で受講することについての評価も調査しており、すべて企業の4割弱の企業しか「評価は特にない」と回答していない。受講の支援を行う企業の少なさからすれば、逆に、何らかの評価をする企業の多さに驚く。

何らかの評価として最も多いのは、「従業員が幅広い知識を習得することができる」(34.5%)で、以下「担当業務における専門性を高めることができる」(34.2%)、「従業員のやる気を高めることができる」(22.5%)、「従業員の資格取得につながる」 (20.8%)と続く。「受講が、仕事上の成果につながっていない」、「受講した従業員は、離職しやすい」というネガティブな答えはごくわずかだったという。

つまり、受講自体を会社として支援はしないが、知識・スキル面、モチベーション面、双方において、評価はしているということになる。

欧米と日本の違い

欧米では早くから普及したリカレント教育だが、これは、日本との労働環境の違いが大きな原因だろう。

日本はなんといってもずっと終身雇用が続いてきた。極端な言い方をすれば、特に外で新たな知識を得ても得なくても、出世に多少の違いはあるとはいえ、雇用自体に影響を与えることはまれだった。定年まで勤めあげるのが、もっともポピュラーな生き方だった。

それに対して欧米では、労働者のビジネス・スキルが通用しなくなったときに待っているのは、解雇であり、企業自体の倒産だ。ドラッカーも言うように、会社の寿命よりも労働者の労働寿命の方が長いのだ。

そうなると、次から次へと時代に即したスキルや知識を身につけないと、正当な労働ができなくなってしまう。こうした土壌がリカレント教育を発達させる要因となったものと思われる。

日本でも、ようやく、働き方の多様化が進み、終身雇用ではない働き方が増えてきた。自分で自分のやりたい仕事を選べるようになったわけだ。

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