外国人労働者受け入れ法案の招く本当の姿/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2018年11月29日 7時2分
![外国人労働者受け入れ法案の招く本当の姿/増沢 隆太](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_10292_0-small.jpg)
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
1.外国人を増やすことを目的とする法律
本法案では、政府が指定した業種で一定の能力が認められる外国人労働者(単純労働含む)に対し、新たな在留資格「特定技能1号」「2号」を付与することで、外国人労働者を増やすことを目指しています。日本人労働者が忌避する肉体労働などの単純労働での雇用の道は、これまで一応は歯止めがあったのですが、本法案によりそれは開かれることになります。人手不足に困窮する企業への救いの手となるでしょう。
「特定技能1号」とは、「相当程度の知識・経験」を持つ外国人で、試験に合格すれば上限5年まで日本で就業できます。ただこの「相当程度」という一番重要な部分が不透明で、何が相当でなにが相当でないかという明確な基準はこれから決まっていくようです。また肝心の日本語能力については「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力を有することが基本」と、これまた逃げだらけの説明になっています。
日本語能力に不安がある人材に、就業後も日本語講習をバックアップすることも盛っています。すなわち日本語が不十分な外国人が就業することを想定した制度であると考えられる所以です。
特定2号というさらに熟練した技能者には、家族呼び寄せなど、正に移民への道は開かれていますが、「相当」とか「基本」といった逃げ表現が多すぎ、きわめて不明瞭な法であることが問題とされているのです。
2.トリクルダウンって、どーなった?
アベノミクスの柱である、庶民より先に経営者や富裕層のメリット享受先行の結果、アベノミクスの成果の報酬はいずれ国民に等しく行き届くというのがトリクルダウン論でした。しかしアベノミクス成功と喧伝される割に、それって実現できているのでしょうか?経済数値のことではなく、実態の話です。
外国人労働者を増やすという法律ができれば、人手不足で倒産も起きてしまう企業環境は改善出来るかも知れません。しかしいわゆるブラック労働的な、労働者搾取の上に利益を得ている企業にとって、人手不足は強力なストッパーになり得た可能性があります。しかし外国人労働者で新たな人材ソーシングが行われれば、その生存を助けることになります。
単純な話で、今のままでは低賃金重労働のブラックな労働環境から日本人労働者が逃げ出すことで、環境改善メカニズムが働こうとしていたのに、新たに大量の外国人労働者が供給されるのですから、ブラックな環境は生き残ることができるのではないでしょうか。
安倍首相は国会答弁では、「日本人の賃金水準と『同じ』レベルを維持したい」と言っています。これはすなわち今のままでは日本人の働き手が逃げ出すので、賃上げ圧力が高まるところだったのに、、新たな外国人が「今までの」日本人給与レベルでいくらでも働いてくれるのですから、賃上げの必要性は薄くなります。トリクルダウンは永遠に起こらないと考える方が自然ではないでしょうか。
3.外国人との摩擦の実態
外国人と共生できるかどうかは、そもそものグローバル化の中で、われわれ日本人は考えなければならない課題です。ただそれは外国人=犯罪者とか、テロや騒じょう予備軍という偏見を持つことではありません。
むしろ日本語能力に乏しく、日本の習俗理解の乏しい外国人との間で、コミュニケーションの不全が原因で意思疎通や生活上のトラブルが起きる可能性が最も高いと考えられます。
例えば宗教心が薄い人が多くを占める日本では、仕事中にお祈りをしたり、宗教上の禁忌な食べ物があることなど考えられません。しかし特定の宗教において、お祈りをしないとか禁忌を犯すことは犯罪的な行為だったりします。
宗教知識がないがゆえに「俺の酒が飲めないのか」とトラブルになったり、禁忌な食材を用いたりダシを取った名物料理や郷土料理を食べられないことを侮辱に感じる日本人はいないでしょうか?宗教上の協議を、日本語能力が乏しい外国人が明確に説明し、説得できるでしょうか?ただ単に感情の行き違いが増殖し、結果として外国人はゲットーのような分離生活をしてしまう社会が出現する可能性は低くないと思います。
4.拙速な法制化
グローバルな環境がいくら言われても、言葉の問題だけでないこうした習俗生活における違いへの理解が、今の日本人すべてができるとはとても思えません。だから拙速な法律改正が批判されるのです。
法改正のため法務省が用意したデータがでたらめで、技能実習という名目で、低賃金で働く外国人労働者の失踪理由を転職を匂わせるような「より高い賃金を求めて(失踪した)」を最大数の回答としましたが、実際には「低賃金」であるがゆえに失踪したという答えだったことが明らかにされるなど、ひどいものでした。
産業界からの要望ということで、現在の労働環境の問題をもごまかしに使われる可能性があると感じざるを得ません。そうでないと政府が本当に説得したいのであれば、一刻を惜しんで法制化を強硬に進めるのではなく、適正なデータや国民理解をまずは優先すべきでしょう。
移民化が起きてから「無かったことに」することは不可能です。
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