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カルロス・ゴーンとドレフュス事件・パリ暴動:フランス百年のトラウマ/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2018年12月1日 23時46分

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

フランスにとって、ユダヤと移民は鬼門だ。ユダヤ系投資銀行(ロスチャイルド)出の大統領マクロンがルノーのトップにつけた移民ゴーンが日本で有罪となれば、フランスの社会情勢が持たない。失業や増税に怒り狂う一般庶民が、愛国心無しに政治から経済、文化まで全面的に支配しているユダヤ系フランス人、仕事を奪って増え続けるアルジェリア系フランス人たちに対し、国内で激烈な攻撃の暴動を起こしかねない。だから、彼らの脳裏に、過去のトラウマが蘇る。

それは、今から百年以上も前のこと。1870年の普仏戦争に敗れ、近代化に不可欠な鉄鋼と石炭の出るアルザス・ロレーヌ地方を失い、フランスは不況にあえぎ続けていた。ここにおいて、ロスチャイルドをはじめとするユダヤ系銀行は、冷徹に、もはや国内には期待ができない、と判断し、フランスの庶民から集めた資金を、東欧の同族ユダヤ系企業に投資。このせいで、いよいよ国内経済は停滞。おまけに、82年、この東欧投資バブルが崩壊。多くの銀行が破産し、庶民も財を失い、その始末は十年もかかった。

以前から、フランス外交官ゴビノーらが、アーリア人優位説を唱え、ワグナーやマルクスまで、ユダヤ人を、カネのみを求める劣等人種、と見なしており、事実としてユダヤ人たちがフランスの財を国外に持ち出して費やし、国内経済を混乱に陥れたことは、激しい嫌悪を掻き立てた。くわえて、フランス経済の起死回生策として79年に始まったパナマ運河プロジェクトも、92年に破綻。清算で、その債権は紙クズとなった。原因は、外地でのむちゃくちゃな放漫経営。長年、これを隠蔽するために、財務顧問でユダヤ人のレーナックとエルツは、クレマンソーら、大物政治家五百人以上に法外な賄賂を送り続けていた。だが、レーナックは自殺、エルツは英国へ逃亡し、真相はうやむや。ユダヤ憎悪はいよいよ高まった。

そんな中、1894年9月、駐仏ドイツ大使館にスパイとして送り込んでいた洗濯女が、ゴミ箱で破り捨てられた紙片を見つけ、持ち帰った。これを情報部が復元したところ、そこには、フランスの新しい「大砲」に関する情報が記されていた。そして、その筆跡から、砲兵士官のユダヤ系フランス人、ドレフュス大尉が内通者とされ、10月、反逆罪で逮捕。国内で反ユダヤの世論が一気に高まり、軍部が売国奴を庇っている、との批判が巻き起こる。このため、軍部は即決の軍法会議でドレフュスを終身刑とし、翌年1月には仏領ギアナの悪魔島監獄に送ってしまった。

だが、96年、情報部長ピカール大佐は、これが部下のエスタアジ少佐の策謀であったことを知った。エスタアジもまた激烈な反ユダヤ主義者で、わざと筆跡をまねてドレフュスを陥れたのだ。とはいえ、これはこれで面倒な人物。エスターハージ伯爵家は、ユダヤ資本がバブルで荒らした東欧ハンガリーの事実上の領主。その一族が外人部隊を通じてフランス軍部に入り込み、それも、こんな人物を情報部に採ってしまっていたのだから、軍部としても、この事実をかんたんに認めるわけにはいかなかない。それで、むしろピカール大佐をチュニジアに左遷。

これが騒ぎになると、98年1月、無実を明らかにする、と言って、エスタアジ少佐本人がみずから軍法会議にすすんで出て来て、無罪を勝ち取ってしまう。それで、文豪ゾラなど、人権派知識人たちが新聞などで軍部を糾弾。だが、同年8月には、エルツ同様、エスタアジが英国へ逃亡。軍部は、重大な機密情報を含む、として、資料の開示を拒む。かくして、ドレフュス事件の真相を巡って、世論は沸騰。再審を求める声が上がる一方、作家ジュール・ヴェルヌ、画家エドガー・ドガら、国権派知識人たちが露骨なユダヤ人攻撃を展開。さらには、すべてフリーメーソンの隠謀だ、などと言い出し、わけのわからない妄想推測で、敵か味方か、国論は二分され、一触即発の状況となった。

結局、翌99年9月、首相特赦で、とりあえずドレフュスは釈放。だが、無罪を勝ち取ったのは、7年後の1906年。少佐として復帰するも、獄中の劣悪な環境で体を壊してしまっており、翌年、除隊。その後、ナチスが登場したときも、かんたんにフランスが敗北したのは、狂人ヒットラーに振り回されたドイツ以上に、フランスにもともと根強い反ユダヤ主義の協力者が大量にいたから。ドイツは、完全敗北でユダヤ問題を解消したが、フランスは、戦後の反動の反ユダヤ主義者弾圧で、かえってユダヤ問題の矛盾を国内に温存し、戦前以上に助長してしまった。

それで、フランスの支配層、財界人や政治家は、ゴーンの一件に、ドレフュス事件を重ねて見てしまっている。かつて自分たちが無実のドレフュスを悪魔島監獄に送って殺しかかった悪夢をかってに日本に投影し、自分たちの過去の罪業を贖おうとしている。しかし、フランスの庶民からすれば、ゴーンは「移民」であり、マクロンは「ユダヤの犬」。ただでさえルペンのような極右が勢力を増しているのだから、対応を誤れば、フランス国内にくすぶる反ユダヤ、反移民の感情に火を着けかねない。いや、もう着いてしまっているのかもしれない。だから、日本が、その一方の言い分を真に受ければ、連中の内乱の巻き添えを食らう。


(世界各地に家を持ち、そのどこも定住所としないパーマネントトラヴェラーの資産隠しと課税逃れについては、前に小説のネタにした。よかったら、ぜひどうぞ。『悪魔は涙を流さない-増補改訂版-上巻-カトリックマフィアvsフリーメイソン-洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書-』

by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学、『百朝一考:第一巻・第二巻』などがある。)



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