映画『鎌倉ものがたり』と日本の移民問題/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2018年12月7日 20時43分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
芸術は表現だ。小説は、活字ではなく、その活字が表現するものを読まなければいけない。同様に、映画も、映像ではなく、その映像が表現するもの、映像に表現されるものを観なければならない。
『鎌倉ものがたり』は、もともとバブルの84年から月一の一話完結で『漫画アクション』に掲載されてきた西岸良平のまんがで、350話を超える。そのエピソードの登場人物を入れ替え、むりやり一つの話にしたのが、今回の映画。逆に言うと、映画の物語そのものは、原作には無い。共通しているのは、その世界観、独特のファンタジーだ。
ファンタジーは、基本的に二つのどちらかのスタイルになる。すなわち、現実の主人公が異世界を訪れるか、異世界の主人公が現実を訪れるか。たとえば、『不思議の国のアリス』や『ナルニア物語』は前者。『スーパーマン』は『ドラえもん』は後者。『ピーターパン』は、現実に異世界人が来て、一緒に異世界を訪れ、そしても現実に戻るいう複合型。だが、『鎌倉ものがたり』は、独特の現実異世界融合型、拡張現実的ファンタジーなのだ。なんとか戦隊や魔法少女もののように、人知れず異世界人たちが現実に入り込み、それと密かにある人々が戦っている、というのではない。「鎌倉」というところでは、異世界人が大勢いるのは、すでにみな周知であり、双方ともに平然と受け入れてしまっている。
映画というものは、まんが以上に、さまざまな人々による数多くの会議を経て作られる。しかし、なぜいまごろになって、『鎌倉ものがたり』は映画化されたのだろうか。脚本家がいるにしても、なぜそれで映画会社から銀行、スポンサー、配給会社まで、よし、とされ、多くの観客に受け入れられたのだろうか。そこには、かれらのだれも自覚しない、無意識のイメージが働いている。
目で見えるモノを追っていては、描かれているものが見えない。バブルのころから鎌倉で何が起こっていたのか。物語では、あえてさらに一時代前の60年代に設定されているが、バブルころ、あのころから鎌倉に外国人や観光客が大量に入り込んだのだ。土地が暴騰する一方、横須賀や国際村が近く、公費で外国人の士官や学者がおおぜい中に住み着くようになった。そして、週末ごとに有象無象の観光客でごった返すようになった。
米国では『猿の惑星』が黒人問題を、『MIB』が移民問題を、映像の背景に隠し込んでいたが、邦画の『鎌倉ものがたり』で妖怪として描かれているのもまた、じつは鎌倉がすんなりと受け入れてしまった外国人や観光客の「イメージ」だ。(だから、逆にまんがや映画では、数多くの妖怪が登場しながら、鎌倉には当然につきものの外国人や観光客は登場しない。)映画だと、それはまさに厄介な貧乏神として現れる。だが、主人公たちは、それをも受け入れ、もてなしてしまう。魔物たちと、同じ店で酒を酌み交わす。それどころか、主人公の両親は、黄泉の国(シンガポールか、台湾か)に移住してしまって、楽しく暮らしていたりするのだ。
ヨーロッパにおいて、町は教会を中心に城壁に守られ、その外は、山賊と魔女と野獣の闇の世界とされた。ところが、日本は、座敷わらしのように、妖怪が家の中まで上がり込み、これを客人としてもてなして、その逗留滞在を喜んでいた。ヤオヨロズは、中と外を区別しない。ところが、神道なるものができて、仏教や陰陽道がはやり、雲上人が八重九重の殿中に籠もって結界を作り、世情の餓鬼たちを追い払うようになる。さらには、反転して、神々妖怪を神社神域という結界、霊的な出島に押し込めてしまった。つまり、近代化は、魔物に対する鎖国化そのものだった。
とはいえ、心情的には「魔物」と大差ない外国人に関しては、縄文の時代から、日本は、渡来人も、南蛮人も、三国人も、進駐軍も、外人嫁でもなんでも、ずっと平気で受け入れ、もてなしてきた。中には、映画のように、人の戸籍を乗っ取ろう、日本人を自国に掠っていこう、などという不貞外国人もいたかもしれないが、おおよそは、こんにちは、こんにちは、世界の国から、で、なんとなくうまく受け入れてきた。これは、国境に壁を作って、銃で追い払う連中とは、国民性が大きく違う。
もちろん、いまの現実の鎌倉がうまくいっているというわけではない。だが、いきりたって、外国人を入れろ、入れるな、と争うのとは、別の共生のし方があるのではないか。こんなことを考えながら、この映画を観てはどうか。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学、『百朝一考:第一巻・第二巻』などがある。)
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