ZOZOざんまいは採算とれたのか/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2019年1月15日 7時13分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
・炎上ビジネス?
ZOZOタウンの前沢社長といえば、莫大な資産を背景に女優との交際や宇宙ロケット、美術品購入といった、絵にかいたような成金ぶりアピールで注目を集めています。同社を大きな企業へと育て上げた経営者が、単なる成金趣味のおっさんである訳はなく、これは注目を集めるための意図的な行動という見方もあり、いわゆる炎上ビジネスなのか、本来の人間性なのかは他者には判別できません。
一方毎年正月明けの初競りでは、すしざんまいを経営する木村社長による最高値落札も、恒例行事としてニュース報道されるようになって定着しました。こちらは1億円を超える落札など非現実的な価格になり始めたあたりから批判も出始めたものの、初競りという、そもそもが市場価格とは離れたご祝儀相場の舞台でもあり、今まではある種優しい目で見られてきた印象があります。しかし2019年の初競りでついに3億円を超える異常価格となった今年。さすがにやりすぎではないかという声が強くなってきました。
他にも、内容にかかわらず常に批判を受ける元アイドルだった芸能人ブログや、わざわざ世相の逆張りコメントを発することでネットニュースに取り上げられる炎上芸能人・政治家もいます。さらにこうした炎上発言や行為が広まると、マーケティングリサーチ的な視点で「広告費換算〇百万円/億円の価値!」などとも煽られます。
億円規模の広告価値があるのであれば、歴史や組織的土壌に乏しい新興企業や芸能人が意図的に炎上を演出するのも一つの手法と言えるのかも知れません。
・ネットに無知な経営者の存在
この「広告費換算」というやつが曲者(くせもの)です。本当なんでしょうか?
プロスポーツやイベントが成功すると、「何億円の経済効果がある」という試算も発表されたりします。実際にお客が集まったり、人が移動するような実消費換算は、理論上とはいえある程度意味があるかも知れません。観光客が集まれば消費が起こり、人件費や建築費などさまざまな経済活動につながるのと同じ理屈です。
一方広告費換算というものについて、同様に「ただ目立てばよい」といえるのでしょうか?
極端な例では注目を集める事件を起こした場合でも「目立つ」という点では同じです。大事件はビッグニュースとして次々拡散されて広まります。NHKから民放までが生中継し続けた、昭和の「あさま山荘事件」の90%という視聴率のように、ショッキングであればあるほど注目も集まります。
ZOZO前沢社長の場合、自身のツイッターフォロアー50万人を、500万人を超えるまでに増加させることに成功したという点で、単なる注目以上の成果を上げたとはいえるでしょう。一人100万円という金で釣ってフォロアー増を狙う手法は反発を呼び、キャンペーン終了と同時に数十万単位でのフォロー解除も発生しています。ただこれは当初から当然予見されており、また解除者をはるかに上回る新フォロアーが得られたという点は間違いありません。
経営的に、マーケティング的に重要なことは、こうして目論見通り増えたフォロアー数の価値をどう評価すべきかにあります。つまり結果として話題になった今回の件は、計画段階でその成否は決まっていたのです。この手法に価値が無いというのは、前沢氏がプランを表明した段階で判断されるのべきなのです。そこまでの理解を持たない経営者は価値判断する資格がありません。
私は2つの目的があったと感じています。一つはZOZOの顧客となり得る、こうした話題に飛びつく層の獲得です。批判を含めてネットニュースでは話題性こそもっとも価値を持っています。大仰で意味深なタイトルをつけることは、ネットニュースや記事では何より重要とされます。「中身が良い」かどうかの判断は簡単ではありませんが、タイトルとしてクリックを稼げるかどうかはただちに判別可能です。
つまり前沢氏のような経営観をもって、話題作り含めた広い意味での広報活動という戦略的な目的があるのかどうかこそ、評価の本質なのだといえます。単に「ZOZOが成功したからウチも」というような定見のない姿勢が論外なのはいう間でもありません。それはマーケティングの成否ではなく、経営者の判断がズレているのです。
同じく加入者拡大キャンペーンを行ったPayPayも、一番リーチしたかったノンアクティブな、未利用ユーザーを開拓できたのかどうか、単にニュースで話題となった以上の成果こそが評価の分かれ目です。予定を大幅に上回る早期キャンペーン終了は、単なるチェリーピッカー(特売あらし)への便益供与だけで終わってしまったのではという疑念が残ります。
・炎上マーケティングの致命的欠陥
話題を集めることには間違いなく成功したZOZOタウンやすしざんまいですが、見落とされている欠陥があります。それは「社員の」モチベーションです。億万長者の社長が身銭を切って会社への貢献をして何が悪いのかということですが、それを見ているのは消費者だけではありません。従業員も黙って見ています。いや、世間の一般人以上に自社の活動や広告についての内部者被見率は高いのです。
つまり私財1億円で500万の新フォロアーを獲得できた一方、自社社員のモチベーションへ与えた悪影響は大きな損失と言えます。時給1千円の非正規雇用のスタッフは、自家用ジェットで女優をはべらしてワールドカップ決勝戦をVIPルームで観戦する社長をどう見るでしょうか。たかだかマグロに、自分の生涯年収を超える3億をはるかに超える値を払う社長に、どんな感情を持つでしょう。
ゴーン氏の日産追放騒動では、その不適切支出と背任こそが問題なはずですが、同時に自分が何十億円ものばく大な年収を得ていながら、一方で工場労働者を大量リストラしたことへの呪詛感情も後押しして批判につながっています。経営上必要な投資であったとしても、それを見る社員がどう感じるか、結果としてその事業を推進するのは現場スタッフです。非正規雇用スタッフなどいくらでも切り替えが利くという判断は経営数値的に間違いではないかも知れません。しかし人間の感情を踏みにじる行為は、カリスマ経営者すら足をすくわれることになったゴーン事件を教訓とすべきだと思います。
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