グローバリズムの行く末:社会格差と疫病・犯罪/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2019年2月8日 18時46分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
ブロック経済は国際戦争を引き起こす、というのが、金満グローバリスト連中の決め言葉。しかし、それは、やつらのウソだ。むしろ、グローバリズムこそが国内破断を引き起こす、と言うべき。
グローバリズムの根本原理は、比較優位、アダムスミスの『国富論』。ようするに、協力分業がパイそのものをでかくする、という話。簡単なモデルで考えてみよう。1人の成果が1だとする。ここで6人が協力分業して、それぞれ得意分野に集中すると、成果は1割増しの6.6になった。だから、協力分業した方がいい、というのが、やつらの言い分。
しかし、それは国富社富としての話。どこの国、どこの会社でも、この6.6を6人で等分したりしない。協力分業した方が得になる、と言って話をまとめたやつが1人、それを手伝ったのが2人、従っただけなのが3人だとすると、たとえば、下を基準として、中を1.1倍、上を中の1.1倍=下の1.21倍で分配。つまり、6.6を、1x3+1.1x2+1.21x1=6.4で割ることになる。すると、トップは1.25、中は1.13、下は1.03。つまり、下でも3%のプラスになる。それなら、みんな納得。
ところが、これが発展して、もっと大きな協力分業、5階層15人になったとする。バイトx5人を基準として、ヒラx4人がその1.1倍、管理職x3人が1.21倍、取締役x2人が1.33倍、トップが1.46倍の分配(それぞれ直下層の1.1倍)とすると、成果全体を17.15で割ることになる。だから、協力分業の結果が17.15/15=1.14、つまり、14%増し以上になれば、最下層のバイトも協力分業した方がプラスになる。しかし、これを割り込むと、最下層のバイトは協力分業した方が、むしろマイナスになってしまう。いわゆる「ワーキング・プア」。それも、上半分は組織をまとめておくために新たに追加で出来てしまった仕事で、実際に協力分業しているのは、最下層の現場のバイト5人と事務のヒラ4人だけなのだから、この半数ばかりの「協力分業」くらいで14%もの生産性向上がもたらされるわけがない。
チンケな経済モデルだが、現代社会は、ほぼこれと同じ構造になっている。最下層のバイトは、協力分業する方が、配分が少ない。かといって、独立自営しても、組織にはかなわない。だいいち、不満連中は、15人のうちの5人。多数決の「民主主義」では、かれらの声は圧殺できる。とはいえ、これが、ヒラまで、もう一階層上がってきたら、15人中の9人になって、ひっくり返ってしまう。逆に言うと、このギリギリのところ、ヒラ4人の半分、2人を「将来性」とかなんとか、絵に描いた餅の理屈で言いくるめておけば、不満は7人で半数未満だから大丈夫、というのが、国民経済学というもの。
一言でいえば、文明は、人間による人間の家畜化によって成り立っている。このあたりの事情は、ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』やユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』など、近年、大いに話題になっている。そして、家畜になって、幸せになれる、生活が向上するなら、誰からも文句も出ないのだが、問題は、ある時代の文明がそのパラダイム限界に近づくと、もはや家畜の生活を向上させられなくなる、それどころか、かえって低下させる、ということ。手に負えないほどのペットの多頭飼いと同じ。こうなると、いずれ家畜が飼い主に反逆を起こす。そうでなくても、疫病などの大流行で、飼い主ごと全滅させる。
現代社会では、おそろしいほどに階層が深くなっており、日本国内ですら、不定期バイトと大企業トップとの年収分配格差は、100万と100億で、一万倍にも広がっている。この結果、国富社富がいくら増大しても、階層格差を補うには足らず、結果、下層は、協力分業するほど、国内や社内の分配段階で、むしろ「身内」に「搾取」され、さらに貧しくなる。にもかかわらず、彼らの独立自営の道は閉ざされており、過半ギリギリのところで、体制全体は維持され続ける。これは、火薬庫に圧力をかけているような、きわめて不安定で危険な状況だ。
文明論の史的観点で見ると、じつは、これと同じことを世界でも日本でも、古代末期や中世末期、近世末期に、繰り返しやっている。古代や中世、近世は、村単位、都市単位、国単位の協力分業で、たしかに生産性が上がった。しかし、それ以上の社会規模になったとき、その生産性向上も階層格差の拡大を補いきれなくなり、最下層の収益が協力分業以前よりマイナスになってしまって、既存体制に参加したがらなくなる。
ここで、上が考えるのが、移民導入や国外移転。面倒な最下層との関わりを止めて、外国人や外国に依拠しようとする。外国人からすれば、その協力分業体制に組み込まれるならば、その最下層であっても、自国にいたときよりも、成果が増大する。もしくは、組織を外国に移せば、生産性の向上が不足していても、下層への格差を拡大して、上層部の現状維持を図れる。これが「グローバル化」。その正体は、生産性向上限界に対する一時的延命策にすぎず、古代末期も、中世末期も、近世末期も、結局は、その後、体制矛盾が破裂して、もっと大規模でドラスティックな構造転換に至らざるをえなかった。
というのも、この見せかけの「グローバル化」、国内や社内の下層の切り捨て、国外社外への付け替えは、最下層の生活をさらに一気に低下させ、健康維持水準を割り込ませてしまうからだ。くわえて、ここに外国人流入や国外品輸入が起きると、これまでになかった疫病が社会的に大流行する。いわゆる「死の舞踏」「ディケンズ病」というやつだ。実際、一家内で自立している中層はともかく、下層民による衣食住サービスを取り込んで生活を潤している富裕層ほど、むしろその感染のリスクが高く、階層社会そのものを根本から破壊する。
また、定職も家族も持たない、つまり、失うものの無い最下層は、健康だけでなく、未来も希望もモラルも失う。フォーディズムのように、作った人はいつか自分でも買える、と思えればこそ、みんなまじめにやってきた。しかし、その可能性が断たれれば、やつらは結果に責任を持たない。それどころか、呪詛を掛ける。直接に面と向かって上の階層に当たり散らせなくとも、連中向けの食品調理の場の陰で、ツバを吐き、フケを撒き、ゴミを入れる。設計段階で数値をごまかし、製造現場で部品の手を抜く。その後のことなど、知ったことではない。どのみち、その職場にずっと居続けられるわけでなく、もとより賠償能力などありようもない。いつまで生きられるかもわからないし、いつまでも生きたいとも思わない。自暴自棄になって、どんなつまらないことでも、まさにバカのようにおもしろがって、やらかし騒ぐ。
さらに、モラル無き最下層は、刹那的方法で、とりあえず身近の持てるやつからカネを奪うことを考えるようになる。やたら貯金の多い年寄りは、絶好の標的。頭の悪い若い連中も、ちょろい。データだけのレアアイテム、自称アイドルとやらと写真を撮る権利、自動加入になる各種「無料」お試し。さらには、パパ活だの派遣マッサージだのという隠れ個人売春、その美人局、そして、でたらめな踏み倒し。バカとクズの騙し合い、殺し合い。
そのうち、こういうやつらが群れをなし、富裕層を食い物にしようと、さまざまなワナをしかける。露骨な法律破りのバサラ。誘拐や恐喝、詐欺に麻薬。反社会的、というより、それが彼らの今日を生きるための仕事。いまの日本に無いだけで、世界を見渡せば、生産性の足らない国では、あって当然、日常の光景。同じ国民だから、などという甘えの余地は無い。金持が同じ国にいる、というのは、むしろ目の前の池を泳ぐカモのようなもの。
自動車にしても、電気製品にしても、食品や住宅にしても、もはやこれ以上の生産性向上は期待できない。どんなにまじめに努力しても、その苦労のわりに向上幅が小さい。にもかかわらず、組織や社会は肥大し続け、高層化する。そして、そのツケは、国内社内の固定的な分配格差で最下層に回り、さらに疫病大流行やモラル崩壊で最上層を直撃する。
でかすぎるプリンは自重で崩れる。「グローバル化」などという、借金の付け替えのようなウソの延命ではなく、資本主義の原理に戻って、リスクがあっても有望な分野の開拓に努力を振り向け、また、すでに確立している産業や技術は、大規模大量生産から小規模地産地消へのシフトを徹底して、輸送コストを抑えつつ、国や地方、そのそれぞれの内部での階層差を縮小する必要がある。そうでなければ、この体制は自滅する。といっても、時代の流れは、だれにも止めようがなく、混乱へ突き進んで、その多大な犠牲の上でのみ、ようやく次の時代を模索することになるのだろうが。
(by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学、『百朝一考:第一巻・第二巻』などがある。)
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