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「あなたの強みは何か?」に、どう答えるか。(【連載24】新しい「日本的人事論」)/川口 雅裕

INSIGHT NOW! / 2019年3月20日 14時30分


        「あなたの強みは何か?」に、どう答えるか。(【連載24】新しい「日本的人事論」)/川口 雅裕

川口 雅裕 / NPO法人・老いの工学研究所 理事長

ドラッカーが盛んに強調したように、個人にとっても組織にとっても、「強み」は非常に重要である。個人にとっては、強みこそが組織における存在意義であり、組織への貢献や良質なキャリアを積み重ねるための手段である。強みがなければ存在意義は希薄になるし、貢献の機会も少なくなるから、キャリアも平凡なものに終わってしまう。組織にとっては、多様な(バラバラの)強みを持つ個人が集まることが重要で、個々が持つ強みが多様であれば、多様な顧客への対応力が高くなり、環境変化に耐える力も強くなる。同じような強みを持つ人を揃えても、顧客の多様性には対応が難しいし、環境変化にももろい。(個々に大した強みがなければ、余計にそうだ。)『強みに集中せよ』は、このような意味である。

そんなことは改めて言われなくても当たり前と感じるかもしれないが、実際に「あなたの強みは何か?」と問われて、即答できる人はかなり少ない。自分の強みについて、しっかり考えたことのない人が圧倒的に多いのが現実だ。これでは、個人としてどのように組織に貢献するかが明確にならないし、強みが曖昧な人たちをマネジメントしなければならない立場の人も難しい。こうなってしまう根本的な原因は、強みがなくても、曖昧であっても仕事と報酬を与えられる日本特有の「正社員制度」にあるが、正社員だから強みを考えてなくてもいいということにはならない。「私の強みは何か?」を問い、言語化して自覚することが、組織への貢献度を高め、優れたキャリアを築くためには最も効果的な方法であるからだ。

では、強みとはどのようなものだろうか。

第一に、差異化されている必要がある。強みは、それが珍しいほど価値が高い。多くの人と同じような分野の知識・技術で、それが多くの人と同じようなレベルであっては強みとは言えない。同じ分野であるなら、その量が違わなければならない。たとえば、普通の人のその分野の知識量が10なら、自分は20にすることだ。多くの人が知らない分野の知識を身に付けるという発想も大切になる。量で差をつけるのではなく、質を変えるというアプローチである。ついつい、皆が知っていることを知ろう、皆ができることを出来るようになろうと考えがちだが、それは強みを作るという発想ではない。独自の製品を作ろうと考えるとき、「他社より安く、他社より小さく、他社より機能を豊富に」といった量で勝負する視点と、「他社商品とは異なる意味やストーリーやデザインを」と質を変える視点があるが、これと同様、自らの差異化を図ることである。

第二に、強みは原則化・抽象化されている必要がある。たとえば、「営業経験が豊富」「総務部長を3年間務めた」「社長賞を3回獲得した」「新サービスを立ち上げた」などは、具体的な事実であり、強みを表現したことにはならない。強みは、それを使えば何度も成果が出せるという再現性と、それは他の分野にも使えるという汎用性が求められる。したがって、成果や経験そのものではなく、それらの原動力となったこと、それらの結果として得られたことを表現しなければならない。キャリアをていねいに振り返り、自分ならではの能力や姿勢やスキルや知識やマインドなどを記述することだ。

第三に、強みは、本人が磨き甲斐を感じるものである。強みと自覚するからには、それを客観的に測ったときのレベルを分かっているだろうし、深さや難しさ、課題も見つかっているのが普通だ。もうこれで十分だと満足しているようなら、おそらくそれは強みではない。勉強すればするほど、自分が知らないことがいかに多いか分かるのと同じで、強みと言えるレベルにあるなら、その未熟さや改善点がいかに多いかが理解できるようになるはずだからである。また、強みによって成果を残し、組織に貢献できている実感があるのなら、さらにその強みを磨きたくなるのは当然だ。自らのレベルを客観視し、課題も見えており、磨き甲斐や磨く喜びを感じているなら、それは強みと言えるだろう。

第四に、強みは、周囲との認識の一致が欠かせない。自分は強みだと思っているが、周囲にはそういう認識がないという状態では、活かそうにもそういう場や役割が与えられない。周囲が強みだと思っているのに、本人にはそういう認識がないという場合では、活かしどころにズレが出てしまい成果につながらない。両者ともに気づいていない強みというものがあれば、実にもったいないことになってしまう。つまり、強みはジョハリの窓で言う「開放の窓」にあって初めて、成果や貢献につながっていくのである。メンバー間の深いコミュニケーションを通した十分な相互理解は、互いの強みの発見と活用に欠かせないということになる。

「差異化」「原則化」されており、「磨き甲斐」を感じ、周囲との「共通認識」があるものを『強み』と呼ぶ。「私の強みは何か?」という重要な問いへの答は、この4点をクリアする必要がある。正社員制度や職能資格制度の中でほとんどなされることがなかった問いであり、コモディティ労働者を決め込んでいる人にとっては必要を感じない問いでもあるだろうが、近い将来、この問いが人員配置や育成、評価・処遇の軸になるはずだ。ダイバーシティの目的が「雇用の多様化」から「強みの多様化」の段階に移行し、賃金が「時間」から「能力(強み)」へのリンクを強めるようになるだろうと思われるからである。

働く人の意識も変わってきている。会社を変わることを視野に入れたり、あるいは生涯現役で働こうとするなら、強みがもっとも重要であるのは自明のことだし、ワークライフバランスを実現するためには、拘束時間の長い働き方よりも、強みを活かして働くのが良いに決まっている。昇進よりも強みのほうが高い処遇を得やすいというケースも見られるようになってきた。今後はますます、強みを活かして働こうとする人が増えていくだろう。

自らの強みを、的確に表現すること。どのような働き方を選択するにせよ、これが重要な時代を迎えているのである。

【つづく】

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