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ビジネスセンスの磨き方 ④デザイン思考/猪口 真

INSIGHT NOW! / 2019年3月23日 11時11分


        ビジネスセンスの磨き方 ④デザイン思考/猪口 真

猪口 真 / 株式会社パトス

ハーバード・サイモン教授が1996年に発表した『システムの科学』が元になり、ハーバード大学デザイン研究所のハッソ・プラットナー教授が「デザイン思考の5段階」を紹介。そして、世界に名だたる工業デザインを行うIDEOのデビッド・ケリーがビジネスへの応用として提唱した「デザイン思考」。

それまで、一部クリエイターのものでしかなかった「デザイン」という概念が、問題解決のプロセスとして幅広く知れ渡ることになった。

デザインとは、グラフィックデザインやWebデザイン、あるいは商品パッケージやキャラクターなど、目に見える成果物で語られることが圧倒的に多いが、様々なサービスプログラムを設計したり開発したりすることも、デザインと呼ぶこともある。筆者の経験では、研修プログラムなどの開発も、デザインと呼ばれたものだ。

ハーバート・サイモンの言葉を拡大解釈すれば、デザインをするというのは、現実を理想に向かってより良く変える目的の活動であり、ある目的に向かって、何かを考え、実現することは、クリエイティブにおいても、ビジネスにおける問題解決においても、同様のプロセスになるという。

デザインとは問題解決

何かをデザインするということは、別の言葉でいえば、問題を解決することだ。

カフェのメニューをデザインするという仕事も、「お客様がお店のメニューをすぐに理解し、オーダーしやすくするためにどうするか、またお店のブランド価値を上げるにはどのようなメニューにすべきか」という問題を解決するためのものであり、商品のパッケージデザインをリニューアルするのも、陳列した状態の中で、他社の商品といかに差別化し、どうしたら手に取ってもらえるかという問題を解決するために行うわけだ。

様々なサービスプログラムを開発・設計するという行為は、ユーザーがより便利に、より快適に、より有益になるようにつくりあげていくわけで、まさに問題解決のプロセスだ。

デザイン思考とは、デザインを行う際に、最終的な解に至るまでの思考プロセスのことをいうが、デザインというクリエイティブなセンスを含めた思考プロセスを実践できるということは、まさに「ビジネスセンス」そのものだといっていいだろう。

人間中心のデザイン思考

では、デザイン思考と、通常の問題解決プロセスでは何が違うのだろうか。

IDEOの現CEOで、デザイン思考の伝道師と呼ばれるティム・ブラウンは、「デザイン思考は人間中心の考え方であり、人が何を考えているかをビジネスに入れることである」という。思考プロセスの中に、あらゆるアイデアを出し合うブレーンストーミングを取り入れ、否定や排除を行わなかったり、プロトタイピングと呼ばれる、試作品をすぐに作り、その試作品を使ってみてテストしたり、仮説と検証を重視し、繰り返す。

つまり、デザイン思考とは、

  • 理解と共感
  • 問題の定義
  • アイデア発想
  • プロトタイプ
  • テスト

という5つのプロセスをサイクルとして繰り返すことであり、ロジカルに、正しい結果を導いていくやり方とは、根本的に違うところだ。

また、デザイン思考では、正解とは「正しい」ことではなく、いかに関与者が満足するかということを問うものでもあり、ここも「人間中心」と呼ばれる所以なのだろう。

この5つのプロセスは、言われてみれば至極当然なことで、まず、仕事(プロジェクト)の対象に対して「どのような状況であるか、どうしたいと思っているのか」ということを理解し、共感することからスタートする。ここで共感できなければ、土台うまくいくはずがない。

そして、状況を打破し、的確なソリューションを打ち出すために、「解決すべきことは何か」「何を問題とするか」を決める必要がある。

前述のティム・ブラウンは、この問題の定義を重視するという。問題の定義とは、置き換えれば「何を問うか」ということだ。つまりいかに的を得た「問い」を立てて、その問題解決にチームを導く必要があるということだ。「問い」は小さすぎてもいけないし、大きすぎてもビジネスとしての結果を出すのは難しくなるという。

問題を定義したら、どうすれば解決できるかを考えることになる。ここで自分の中で生まれたありきたりの答えに満足し「これしかない」などと思ったら、残念だが進歩は止まっている。

自分だけではない、他の人の持つ意見をすぐに集めるべきであり、何度もブレーンストーミングを繰り返し、様々な人の意見を尊重する。新たなアイデアというのは、いつものメンバーではない人たちとのコミュニケーションから生まれることのほうが多い。積極的に様々な人たちとの交流が望まれる。

ただし、面白いアイデアが出たからといって、そこで満足していては、何も生まない。すぐにプロトタイプをつくり試してみることがより重要となる。

本当にユーザーは満足するのか、本当に問題解決の一助になったのかどうかを検証しながら、より良いアイデアを積み上げていくことが最も重要なことだ。

デザイン思考とは、関与者の満足度を引き出すことが目的であり、よりヒューマンなアプローチである。ビジネスセンスがあるというのも同じことだ。ロジカルには表せないが、「なんとなく良い」「感じがいい」。まさに、関与者がにこやかに満足するということにつながる。

ビジネスセンスを磨くには、デザイン思考のプロセスをぜひ実践してみよう。

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