和食がカラダに良い3つの理由。小泉武夫が教える「発酵食品+メシ」健康法/LEADERS online
INSIGHT NOW! / 2019年4月2日 10時30分
LEADERS online / 南青山リーダーズ株式会社
味噌醤油だけじゃない、健康に役立つ発酵パワー
270年続く福島の老舗酒蔵に生まれた小泉さん。麹菌の中で育った、生まれながらの“発酵屋”を自称する。東京農業大学に入学し、実家を継ぐ予定だったが発酵科学に天賦の才があり、研究室に残ることになった。発酵とは何か、タケは素朴な疑問をぶつけてみた。
「発酵というのは、微生物の活動ですが、人間に良い働きをする菌なら発酵、悪い働きをする病原菌や腐敗菌の場合は腐敗といいます。味噌醤油や納豆、チーズやヨーグルトなどの食べ物だけではなく、実は発酵の作用がないと外科手術もできません」
傷口の化膿を防ぐ抗生物質などの医薬品、ビタミンやペプチドなども発酵の作用を利用しており、家畜の飼料も発酵なくしては成りたたないなど、日常生活で広く恩恵にあずかっている。なによりも、微生物の働きがないと人間は生きてはいけない。微生物、発酵といえば、腸。最新の医学では今、大腸生理学が注目されている。
「腸で作られる免疫細胞が増えると病気になりにくいことがわかっています。ヨーグルトや甘酒、納豆などの発酵食品が体に入ると、腸を通るときに細胞の免疫スイッチを入れて排出されます。菌体があれば、死んだ菌でも効果があると言われています」
日本人は和食を食べていれば間違いない
海外生活が長いタケ小山。アメリカンフードも大好きだが、和食のおいしさにはかなわないと思っている。小泉さんは、日本食の研究者として日本人の和食離れを心配している。
戦後、肉や乳製品が多くなり、現代の食生活は本来日本人に合う食生活とかけ離れてしまっているのだそうだ。体や心を健康に保つために、日本人は伝統的な和食に立ち返るほうがいいという。その健康メリットは、世界でも認められている。
「基本一汁一菜で成立するのが和食です。みそ汁と漬物にご飯ですね。つまり発酵食品とメシという献立。世界的に見ても和食が良い理由は3つあります。
一つは、水がいいということ。多くの文化は穀物を粉にして食べる粉食ですが、日本食は粒食です。水がいいので水を抱き込んで米を炊いて食べています。日本の水はミネラルが少ない軟水なので、日本茶は緑色です。鉄分が多い水だとお茶は黒っぽくなります。日本酒の名産地もまず水がいい。日本は水の国です。
二つ目は旬があること。日本で旬といえば、たくさん収穫できて、おいしく、栄養も豊富な時期の野菜などのことを指します。俳句の季語とも一致しているんですね。和食は心で味わうものでもあるんです。「いただきます」という言葉は、キリスト教だったら神様に言うんでしょうけれど、日本では、食べ物に対して言っている。「命をいただく」という意味です。無意識に口に入るものは、水と塩以外はすべて命だから、感謝して心をこめていただこうという独特の感覚があります。鯨漁が盛んな地域に行くと、お寺に供養塔があって、鯨に戒名がついているんです。人間に食べられなければ海で泳いでいたのに、ごめんなさいという気持ちがあるんですね。
三つ目は基本ベジタリアンで、ミネラルやビタミン、食物繊維が多く、体にいい。根っこと茎、葉っぱ、果物、山菜やキノコ、豆、海藻、穀物の7つが中心の献立です。本来肉や魚は少なくて、限りなく菜食です。この7つの食材に納豆などの発酵食品をプラスすれば十分。広島大学の研究でみそ汁を飲むと免疫があがるというデータもありますから、忙しい人こそ、みそ汁だけは毎日飲むといいですね」
臭いものはおいしい、寄食珍食のエキスパー
小泉さんの経験上、うまいものは臭い確率が高い、発酵食品が多いということだ。国内でも海外でも「寄食珍食」の噂を聞くと、食いしん坊の血が騒ぎ、駆け付けて、食べないわけにはいかない。せっかくなので、タケは忘れられない変わった食体験について、聞いてみた。
「色々なものを食べてきましたが、石川県には非常に珍しい発酵食品があります。『フグの卵巣の糠漬け』これは猛毒中の猛毒(テトロドトキシン、青酸カリの180倍)です。江戸時代から作られていて、仕組みは科学的にも証明されていないのですが、糠味噌の中に入れて3年漬けて毒を抜きます。うまみが強くて、漬けあがったやつをバラバラとほぐして、ご飯の上にのせたり、お茶漬けにするとおいしいですね」
珍しいお酒にも造詣が深く、100年前に作られ、今は作られていない中国の酒にも出会った。
「満殿香酒(マンディンシャンチュ)という酒で、ビャクダンなどの香料を87種類入れて3~5年熟成します。試飲したら翌日の朝、尿や汗からお香の匂いがしました。文献によると『30日飲み続けると身体からすべての病気が消える』そうで、万病の薬。今中国の大学などと再現しようとしていますが、材料が足りなくて、探しているところです」
著作にもある臭い食べ物、極北の『キビアック』も例にあがる。文字通り『腐った鳥』という意味で、海燕を500羽アザラシに詰めて3年ほど発酵させるのだそうだ。
「これも臭いがうまい。乳酸発酵の産物で、熟成に3年かかるのは、夏が短いから。3カ月しかない夏を3回通らないと、凍り付いていて発酵が進まないんですね。強烈なうまみの元は海燕のアミノ酸ですが、植物が生えない極地で確保できる貴重なビタミン源でもあります。厳しい環境で人が生きるために経験的に得た知恵なんですね」
「鯨は国を助く」鯨問題は日本の将来の問題
最近、日本は国際捕鯨委員会(IWC)脱退し、商業捕鯨に復帰した。漁業に並々ならぬ関心があるタケはずっとこのことが気になっていた。捕鯨と鯨文化についての著作もある小泉さん、脱退についてどう思っているのだろう。
「脱退は遅すぎたくらいだと思っています。戦後すぐ、日本人は動物性蛋白を7割鯨に頼っていました。鯨を獲り過ぎて激減したというので、日本が科学的に調査をしたのがIWCの始まり。商業捕鯨を続けるために始めた活動のはずが、いつのまにか環境問題にすり替わってしまった。クジラはどんどん増えている。ミンククジラは170万頭で、かつて捕鯨を行っていた時よりも多い。日本の商業捕鯨は4000頭獲れば成立します」
増えているのだからいいだろうと主張しても通じないのは、捕鯨委員会には鯨を食べない国にも投票権があるからだ。しかし、今の若い人は鯨を食べたことがない人も多い、そんな状況でも捕鯨文化は大事なのか?タケは率直に疑問をぶつけてみる。
「捕鯨は日本の食にとって大事な技術です。地球環境の変化でだんだん魚が取れなくなり、豚コレラ、鳥インフルエンザなど家畜の病気だってこれから多発するかもしれない。将来的に日本に肉を売ってくれる国がなくなるかもしれない。なにより、大量の小麦を費やして牛を育てるより、鯨を食べる方がずっと環境にやさしい。次の世代に捕鯨スキルを伝承しておくことは実はとっても大事なことだと思います」
小説家が第二の人生、人間は健康で好きに生きれば熟味が出る
小説としては7作目になる新作の主人公は、築地で働くマグロの解体屋。少年時代から築地で修行したマグロのプロが、一念発起して「料理屋」を始める、それも魚のアラ専門だ。
「築地の人脈で、市場の知り合いや有名店から新鮮で格安なアラを下取りして料理をする男の話です。料理屋として大成功しますが、ただのサクセスストーリーではなくて、アラまでうまく食べ切る日本の魚食文化の奥深さとか、築地のエコシステム、新内節など民俗芸能の保存の問題、あらを司る「アラ神様」の存在など、一冊の本で日本の食文化を巡るつながりが見えてくる話です。アラ屋はフィクションですが、うまいですからね、誰かやったらいいですよ、きっと成功すると思います(笑)」
小泉さんは求められて大学で教鞭をとっているが、第二の人生は料理と小説に力を注ぎたいのだそうだ。豊富な知識と経験から、食にまつわる物語は際限なく誕生しそうだ。人生において食べることの次に好きなのが書くこと。
「日経新聞の連載は25年続いていますが、一回も休載していないのが自慢です。書くときは常に空腹を心掛けています。私の小説の題材は食べ物。だから空腹が最大の原料。空腹のときに書く。朝5時に起きて、朝風呂に入り、血流を良くし、朝茶を飲んで仕事をすると、朝飯前に2つは原稿が書けますよ」
70代でもいきいきと仕事を続ける小泉さん、年齢を重ねるにしたがって、人間が熟成発酵していくにはどうしたらいいのだろう?
「まずは健康であることですね。酒は飲むけど、3か月に1回は大学病院で検査を受けています。健康だと心が弾み、ウキウキしてきます。歳をとると余計そう感じています。あとは自分の世界を作ること。私の場合は料理と小説を書くこと。小説を書くことが第二の人生、生きがいになっています」
だんだんお腹がすいてくるインタビューだった。タケは最後に小泉武夫イチオシの料理を聞いてみた。
「焼き納豆どんぶりですね。フライパンに油を引いて納豆のパックをポン、真ん中にくぼみをつくって卵の黄身をストン、その上にどんぶりをかぶせて12~3分弱火で蒸し焼きにします。どんぶりを外すと、見事に納豆の上に目玉焼きができてますから、その焼き納豆とカツオ節を、どんぶりに7分目くらいのご飯の上に載せて、しょうゆをまわして…(涎をすする音)ああ、これほどおいしいものはない!」
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パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)
【転載元】
リーダーズオンライン(専門家による経営者のための情報サイト)
https://leaders-online.jp/
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