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就活生暴行事件を生んだ真犯人/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2019年4月4日 7時46分


        就活生暴行事件を生んだ真犯人/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

1.OB訪問という罠
私も理系学生向けに就活ガイドブックを書いていますが、その中で「OBOG訪問」を無条件に推奨はしていません。なぜOB訪問が必要なのか、その目的を明確にせず行うのは無駄であり、返って採用の可能性も下げてしまう恐れを訴えています。

しかしほとんどの就活本や大学の就活講座では、OB訪問は「するもの」、「するのが当然」というトーンで説明されます。実際就活現場では、学生を何も考えずにOB訪問しなければという義務感に駆り立てる雰囲気があります。一方、企業も大学も個人情報にはうるさい時代ですから、かつてのように自分の就職先企業が○○大学卒であるなど、超プライベートな個人情報を勝手に開示することはありません。

困ったのは大学です。しかたなく、卒業する学生に卒業後の進路調査を行う際に、OB訪問の可否や連絡先公開を承認するようアンケートを取るなどして、かろうじてOB情報を備えているのが実情です。

では学生はどうやってOB訪問をするのでしょう?

2.OB訪問ビジネス
人材情報会社はここに目を付けました。社会人に自ら出身大学を登録させればコンプライアンスには反しません。またそうした情報登録をする学生は有名大、一流大生が圧倒的に多く、後輩学生に大きな顔ができます。

こうして有名企業勤務のOBという、神の御宣託を授けるが如き存在となり、それを押し戴きたがる就活学生という絶妙のサプライ&デマンドのバランスが成立します。一流大学生、一流企業人というマーケットバリューを持つ人材が登録することで人材会社にとってOBマッチングはおいしいビジネスになります。ここ数年でこうしたOB紹介ビジネスは大きく成長しています。

基本的なシステムはマッチングサイトですから、正にインターネットの独壇場で、全く新たなシステムを作る必要もありません。またあくまて「当人同士のお見合いの場」である以上、マッチング会社は場の提供以上の責任は持ちません。登録する一流企業の人材は、将来のヘッドハントの人材データに使えるでしょうし、登録学生はその候補人材となります。OB紹介ビジネスで飛び交う登録データは、貴重な価値を生む2次データになることでしょう。

3.学生の責任は?
大学生とはいえ、成人した大人が自らの意思で、誰とどこで会い、何をしようが正に自由です。一流企業でバリバリやっている(自称だけど)というビジネスパーソンはさぞ輝いて見えることでしょう。その人物が個人的に就活アドバイスや面接練習をしてあげるという申し出をしてきて、それを無下に断るのは難しいだろうと予想できます。なぜ個人指導でなければならないか、異常性を冷静に判断できないとしてもすべて自己責任とするのは酷ではないでしょうか。

大学でキャリアを教える立場として、学内の授業であれば、自己責任の重さを伝えています。自分の身を守ることも社会人の義務であり、それができなければ社会人にはなれないこと、そもそも人の弱みに付け込む手合いは社会にいくらでもいることをしっかり伝えます。

くれぐれも異性社員と密室で2人きりになったりしないことや、2人で酒を飲むようなこともすべきでないと話しています。こうした適正な距離感を教えるところまでが学校の出来ることであって、それ以上の行動まで拘束は無理でしょう。しかし万一報道されているような、大学自らがOB訪問での、過度な個人的関係性を推奨しているとすれば、それは大きな責任問題だと思います。そんな大学はないことを祈るばかりです。

4.企業の責任
人事部門が正式に任命したリクルーター社員などであれば、こうした犯罪行為に手を染める可能性はほぼ無いだろうと思います。問題を起こすのは、人事命令でも何でもないボランティアでOB訪問を買って出る一般社員です。しかも自分自身がまだ就活から数年しか経っていない、恐らく面接官など務めたこともない平社員であっても、会社システムを知らない学生から見れば、皆一流企業社員に見えます。

今回の暴行犯人は懲戒解雇されましたが、企業はこうした動きに特に敏感になる必要があります。バイトテロ同様に、企業の存亡にかかわる重大な信用問題となるリスクを、一部とはいえ抱えているのです。

格差社会の定着した日本で、一流会社社員は確実に差を付けた側です。その強烈なエリート意識や万能感を勘違いする馬鹿者を、絶対に出さないよう十二分にコンプライアンス研修を徹底しなければならない事態となったといえるでしょう。悪いのは犯罪を犯した本人ですが、それをのさばらせる環境も、こうした事件の土壌だと思います。

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