マーケティングフレームワークのワナと対策/金森 努
INSIGHT NOW! / 2019年4月8日 10時12分
金森 努 / 有限会社金森マーケティング事務所
フレームワークはマーケティングを考える上で欠かせないものである。しかし、その使い方を間違えれば、ミスリードを招く危険性もはらんでいる。
今回は、そのフレームワークの誤用が招く問題点と、正しい使い方を取り上げていきたい。
誤用1・いきなり4P
「マーケティングって4Pでしょう?」と言われるぐらいメジャーなフレームワークが4Pだ。4Pとは、マーケティングの施策の4つの要素である、production(製品)、price(価格)、place(販路)、promotion(コミュニケーション)の頭文字を取ったものだ。有名であるが故に、いきなりこの4Pから検討を始める例が散見される。
最終的には、施策の検討要素として4Pを策定しなければならないのだが、そこから初めてしまうと、その製品・サービスを「誰に、どんな価値として訴求するのか?」がわからなくなってしまう。また、さらにその手前の「自社を取り巻く環境がどうなっているのか?(どんな機会と課題があるのか?)」もわからないまま、施策を決めることになってしまう。
マーケティングを考える「流れ」=「マーケティングマネジメント」は、環境分析→セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング→4Pなのだ。
「マーケティングは“流れ”で読み解く」と覚えておきたい。
誤用2・穴埋め問題的環境分析
フレームワークを用いている時によくあるのが、フレームに事実関係を当てはめ「事実整理」をするだけに留まる例だ。例えば環境分析の3C分析なら、customer(市場と顧客)、competitor(競合)、company(自社)の3つのCの枠組みに、思い浮かんだ(もしくは、情報収集した)事実を書き込んで整理しただだけで安心してしまうことである。
環境分析のフレームワークなら、結論として、「どんな市場機会と事業課題があるのか?」という「解釈(意味合い・メッセージ)」を導出しなければ分析する意味がない。
フレームワークは「穴埋め問題」ではないことを心掛けたい。
誤用3・属性のみのセグメンテーション
ターゲットを考える時には、その手前で「どんな顧客候補がいるのか?」を抽出する必要がある。それが、セグメンテーションだ。その際、「性・年齢」でとりあえず切り分けてしまう例が多い。そこから、「ターゲットは20代女性」などという、もやっとした絞りきれていない結論になってしまうのである。
ターゲット候補を抽出する切り口として、性・年齢という「属性」は、ある意味わかりやすい。しかし、その属性を持つ人がその製品・サービスを求めているのかということはわからない。
そもそも、セグメンテーションとは、属性から考えるものではない。「どんなニーズを持った人々がいるのか?」という「ニーズ」に注目するのが原則だ。そして、「そのニーズを持った人々は、どんな属性なのか?」という順番で考えるのである。
「セグメンテーションはニーズで括る」と、覚えたい。
誤用4・直感的ターゲティング
ターゲットを決める時、妙にリアリティのあるなんとなくイケそうなターゲット像が描かれることがある。ターゲットを一人の人物像を描くように詳細化するのは、「ペルソナ」という手法であり、それ自体は有効なものだ。問題は、それがいきなり描かれることなのだ。
ターゲティングの手前では、前項のセグメンテーションで複数の顧客候補が抽出されていなくてはならない。その中から明確な根拠をもってターゲットを絞り込むのがキモなのである。
代表的な絞り込みの基準としては、そのセグメント(顧客候補)の規模、成長性、波及効果、到達性、競争環境などがある。それらの基準に照らし合わせて、ターゲットを絞ったあと、それを詳細化してペルソナを作れば良い。
「ターゲット詳細化(ペルソナ)の前に、複数のセグメント(顧客候補)を評価してターゲットを選ぶ」ということを覚えておこう。
誤用5・自社都合のポジショニングマップ
「誰(ターゲット)」を狙うかが決まったら、そのターゲットに対して示すべき「価値(差別化要素)」を明確化する必要がある。それがポジショニングだ。
ポジショニングは自社の強みが発揮できる要素で2軸のマップ(ポジショニングマップ)を作るのが一般的である。その際、「何を軸にするのか?」が最大のキモであるが、ままあるのが、「自社の優位性が示せる要素」で考えてしまうことだ。自社にとって競合に対して優位性が示せるとしても、それを顧客が望んでいるとは限らない。
自社が優位性を示せるかどうかは、結果である。
まずは、「顧客の買う理由(key buying factor=KBF)で切る」と覚えておこう。
そうして軸を切ってマップを作り、優位性のあるポジションが取れるように工夫するのである。
誤用6・バラバラ4P
ここまで、環境分析→セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングと考えてきて、ようやく施策の立案である4Pの検討となる。
しかし、4Pの要素を個別に考えてしまうと、施策全体がちぐはぐになってしまう懸念がある。製品のスペックと価格が釣り合わない、販路が適していない、効果的のプロモーションが行われない・・・などのことが発生する。特に組織間で4Pの要素が分裂して担当される場合は要注意だ。productとpriceは製品開発部、placeは営業部、promotionは広告宣伝部の担当などということはよくある。その場合でも、組織横断的に全体の検討が必要なのだ。
そうならないためにも「4Pではなく、マーケティングミックス」と呼んだ方が良い。4つのPの要素をミックス、つまり、混ぜ合わせて効果を最大化することが大事なのだ。その際、相互の「整合性」、つまり相互に噛み合っていることに留意することが肝要である。
そのためにも、まずは「4P」ではなく、「マーケティングミックス」という言葉で覚えておこう。
以上、マーケティングのフレームワークを用いる場合のありがちな問題点と、その対策を述べてきた。
マーケティングをうまく検討するには、最終的には「センス」に依存する部分もある。しかし、その手前で、適切にフレームワークを用いれば、かなり成功確率を上げ、失敗を回避することができる。
自分がスティーブ・ジョブズのような天才タイプでないと自覚したら、まずは正しいフレームワークを身に付けることをお勧めしたい。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
ゲーム業界特化のRPO・採用代行サービスGame-Changer(ゲームチェンジャー)提供開始のお知らせ
PR TIMES / 2024年5月8日 9時45分
-
宿泊者の心を掴み、再び訪れる魅力を発信!ホテル・旅館向けのメール配信ツール「talkappi NEWSLETTER」を提供開始
PR TIMES / 2024年5月7日 11時45分
-
エンタープライズIT新潮流 第25回 マイクロソフトで学んだ「イケている製品」の作り方
マイナビニュース / 2024年4月22日 9時0分
-
データ分析のヴァリューズが「競合分析ガイドブック」を公開
PR TIMES / 2024年4月19日 13時45分
-
シェアNo.1テキストマイニングツール「見える化エンジン」に、生成AI対話型分析「AIインサイト」を新規搭載
PR TIMES / 2024年4月18日 11時15分
ランキング
-
1「日本国債」の紙くず化がとまらない…雪だるま式「借金地獄」から日本が抜け出せない根本原因【経済のプロが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月11日 11時15分
-
2コーヒー豆高騰の背景に…中国でブーム“悪魔のフルーツ”、ピザや火鍋にも【Nスタ解説】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月10日 21時10分
-
3朝ドラ登場の食堂モデル、岐阜の五平餅店が閉店へ…「寂しい」全国から名残惜しむファン足運ぶ
読売新聞 / 2024年5月10日 15時8分
-
4ヨーカドーの跡地が「世界最大級の無印良品」に…過疎地の商業モールを復活させた「社会的品揃え」の魅力
プレジデントオンライン / 2024年5月11日 9時15分
-
5【閉園騒動から再出発】「ラブライブ!聖地」水族館、新社長が語った苦悩「従業員は大量解雇」「マイナスからのスタートです」
NEWSポストセブン / 2024年5月10日 19時20分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください